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事業開発のセールス|イノベーションを起こす2つのスタイル

稀に、次々と新しいビジネスを取ってくることのできるセールスがいます。なぜ彼らは、新しいビジネスを引き寄せ、イノベーションを生み出すことのできるのか?本稿では、そのような”持ってる”セールスについて考察していきたいと思います。

2つのイノベイティブなセールススタイル

新しいビジネスを引き寄せることのできるセールススタイルには、提案型セールス受入型セールスの2タイプがあることが分かりました。

アグレッシブな提案型セールス
人の良い受入型セールス

<提案型のセールススタイル>

提案型のセールスは、極めて戦略的、マーケティング的な方です。市場分析から仮説を作り、仮説検証を経てプロポジションを策定し、市場にマーケティングをしかけていくようなタイプです。セールスというよりも、まさに事業開発者であり、セールス、マーケティング、戦略、実行、全てに素養を感じます。誰もが実践することはなかなか難しいですが、これが出来るセールスは最強だと感じます。

提案型セールスの強みは、より多くの不確実性をコントロールできることです。目的に向かって、アクションをデザインすることで、ある程度結果を想定の範囲内にコントロールできます。大きく外すことが少なく、手堅く結果を得ていくことが可能です。

一方、提案型セールスの弱みは、自分の想像力がボトルネックになってしまうことです。イノベーションをデザインしていくということは、デザインの範囲内に事象をコントロールしようとするので、想像外のイノベーションの種には気付きにくくなってしまいます。思ってもみなかったようなクリエイティブな結果が生まれることは稀です。

また、個人の才能に依存してしまうので、属人的で、組織的な再現性には欠けています。

強力なセールス部隊で有名なキーエンスは、こうした提案型セールスの人材を引き抜き、新しいプロポジションやセールス制度を構築する企画職に引き上げる制度があるようです。現場を理解していながら、戦略的にセールスを考えられる人材は、確かに貴重だと思います。

<受入型のセールススタイル>

受入型のセールスは、人が良く、顧客の要望を断りきれないような方です。イノベーションの種となるようなアイデアは、社外から持ち込まれることがほとんどと言っても過言ではありません。しかし、そのようなアイデアは、まず社内で理解されることがありません(大企業でのイノベーションの第一のハードル)。顧客がイノベーションの種を持ってきたとしても、その時点で可能性を見出し、社内で理解を得る事はまず不可能です。そのため、往々にしてイノベーションのアイデアは切り捨てられがちになります。しかし、この受入型セールスは、断りきれず顧客の要望に応えてしまう内に、いつの間にか顧客のイノベーションを一緒に開発しています。社内的に「いつまでやってるんだ」と怒られたりしつつも、人が良いために顧客からの強い要望を断りきれず、応え続けてしまっている内に、検討が進み、結果が出始め、徐々に社内でも理解され始め、最終的に大きなイノベーションにつながるのです。

受入型セールスの強みは、想像しないようなイノベーションを生む可能性があることです。自らの想像力の限界を理解し、外部のアイデアをリスペクトするようなオープンイノベーション的な発想に近いものを感じます。

一方、受入型セールスの弱みは、コントロールできない要因が多すぎることです。発生頻度も、成功確率も、全く神頼み(外部から話が来るのを待つしかない)状態ですので、自分でアクションをコントロールすることができません。また、社内で説明できずに、潰されてしまう可能性も高くなります。

受入型セールスの人は、総じて、現象の一般化、論理的説明などが苦手な傾向にあるので、そういった革新的なプロジェクトにスポットライトを当て、管理していけるマネージャーが必要になることが多いように思います。ただ、こういう方が上手く評価されるような仕組みができれば、結構上手くいくのではないかと、個人的には可能性を感じています。

協創によるイノベーションシステムの構想

個人の能力はコントロールできません。システムで天才を生み出すことは、難しい。そこで、結局、個人のスタイルに寄らずに、顧客との関係を協創関係に持っていくことが、イノベーション実現への近道ではないかと考えるようになりました。

つまり、以下のような仮説を立てました。

【仮説】イノベーションを継続的に生み出すためには、どんなきっかけであろうと顧客との協創を仕組み化することが最も効果的ではないか?

協創による価値創造は、イノベーション界隈ではよく言われる話の一つです。ただ、ここで言いたいのはフワッとした概念論ではなく、大企業の実際の実務の現場でどれだけイノベーションを生み出せるか、という実務的な観点から、顧客との協創が最も効率的だという結論に至っています。

大企業では、イノベーションよりもオペレーションが重視されます。仕事は生み出すものではなく、与えられるものであるという意識が強い方の方がマジョリティです。そのため、何もないところからニーズを生み出していくイノベーションは、感覚的に気持ち悪さを感じることになり、理解しても納得できない人が多数となります。事業開発担当者はそうした何となくモヤっとした雰囲気の中を突破していかなければなりません。

そうした時に「顧客からの頼み」であるということは非常に大きな意味を持ちます。例えば、ある仮説を検証するためのプロトタイプを作るにしても、協創のパートナーがいれば、「自分の頭の中にある仮説を検証するため」ではなく「顧客のニーズを検証するため(顧客が要望しているから)」と理由付けすることができるので、社内の承認を得やすくなります。感覚的にも、顧客の有無で社内突破率が本当に大きく異なりますので、それだけでも協創の意味は大きいと思います。

「顧客からの頼み」だけなら、別に協創する必要もなさそうに思いますが、イノベーションのために協創が良いのは、より濃密なフィードバックをもらうためです。普通なら教えてくれないリアルな事情など本音のフィードバックをもらえるのが、パートナーシップの良いところです。仮説検証をする上で、濃密なフィードバックがあれば、より本質的な答えに近づきやすくなります。

ここで、セールススタイルの話に戻ると、自ら提案して仕掛けていく提案型セールス、顧客のニーズを拾い上げてくる受入型セールス、どちらも現場の最前線からパートナーを見つけてくることができます。両者は、それが自らパートナーを探しにいくか、向こうからやってくるのを受け入れるか、の違いだけです。そして、パートナーとの協業(協創)によって、イノベーションを生み出します。

まだ、実際に検証を始めて間もないので、答えは出ていませんが、概ね、この仮説は正解であるような気がしています。

オープンイノベーション、ベンチャー企業とのパートナーシップ、外部提携、等々。全て「協創」の仕組みであり、それをどうやってやるか、の違いだけです。

ただ、上から指示が降ってくるような形での協創と、現場から生まれてくる協創を促進するような仕組み、どちらが成功率高いのか、今のところ、自分の意見は定まっていません。

これらについては、これから検証を進めていきたいと思っています。

ザ・モデルにおけるセールスの役割

セールスは、最後のゴールを決める役割です。マーケティングもしくはインサイドセールスから、ホットになった顧客リストを受け取り、商談を成立させ、契約を勝ち取るのがセールスの仕事です。

従来のいわゆる事務全般を見る何でも屋の営業職ではなく、セールスは完全にゴールゲッターとしての機能に特化しています。

セールスには、ヒアリング能力、説明能力、コンサルティング能力、などが必要と思われますが、結局、ビジネスは人対人で決まるので、顧客の担当者との相性がかなり重要な要素だと感じます。

セールス

セールスは、現場の最前線に立つ仕事です。そのため、現場の生の声を聞くことができるポジションにあります。最近はデータ分析が持て囃されていますが、私は、結局、現場が最強の情報源だと考えています。特にそもそもデータがなく、自分でデータを作っていかなければならない事業開発では、なおさらです。

(現場、現実、現物の「三現主義」。有名なのはトヨタでしょうか。「現場」は常に立ち返る場だと思っています。そのため、「三現主義」は個人的に大切にしている言葉の一つです。)

本来であれば、セールスは、ただのゴールゲッターだけでなく、次のイノベーションのアイデアを現場から拾い集めてくる役割も担うべきです。ただ、これを仕組み化するのが非常に難しいので、属人的な個人の能力に頼らざるを得ないのが現状です。顧客との協創を積極的に推進するスタンスを明確にすることは、そうした仕組み化の一つになるかもしれません。

"持ってる"セールスには、運も必要です。システム全体では確率論である程度の範囲に結果をコントロールできますが、個別案件では成功率に大きな差が出てしまいます。そこを最後、押し込むのがセールスの腕の見せ所だったりします。

まとめ

・セールスは、最後のゴールを決める役割です。マーケティングもしくはインサイドセールスから、ホットになった顧客リストを受け取り、商談を成立させ、契約を勝ち取るのがセールスの仕事です。

・顧客との協創によって、イノベーションを生み出すことのできる2タイプのセールスがいることが分かりました。

顧客との協創は、そうした"持っている"セールスを生かす、イノベーションの仕組みの一つに成り得ます。

参考文献

「営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて」:セールスを仮説検証のプロセスと捉える考え方に非常に共感するものがありました。セールス系の本は、コミュニケーションノウハウの本だったり、精神論だったりが多いのですが、そういう意味では科学的に考えている方の私が好きなタイプの参考書です。

【余談】

もう10年以上前ですが、「どうやったらモノが売れるのか?」をひたすら考えている時期がありました。

その時に手に取った一冊が、野村証券の本トップセールスマンが書いたセールス本。書籍名をメモしていなかったので今では何という本だったか分かりませんが、その本に書いてあったことは「とにかく2ヶ月先までアポで予定を埋める」でした。

私は、BtoCのしかも証券営業のやり方がそのまま当てはまるわけがないと思いつつも、無謀ながらも実際に実践してみることにしました。何事もまずはやってみて、仮説検証することが大切です。

結果、私は、BtoBのいわゆる昔ながらの営業職(クレーム対応、数値管理、各種事務処理など事務作業全般を担う)として働いていたため、突発的な顧客対応がどんどん入ってきて全く仕事が回らなくなって、死にかけました。全てが後手後手に回ってしまい全く仕事が回らず、労働時間だけが長くなっていたので、本当に辛かったです。

今考えると、セールスの機能分解が全くなされていない営業職で、ほぼ全ての時間をセールス(顧客とのアポ)に費やしてしまえば、それ以外のフローが全く回らなくなるのは当たり前なのですが、当時は、セールスの機能分解について何も考えたことがありませんでした。

その時、身を持って機能分解の必要性を感じることができたのは、後にビジネスR&D→マーケティング→セールスの事業開発フローを考える上で役に立っているなと感じる次第です。


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TANAKA ICHIRO / 大企業の事業開発
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