濱口秀司のDFS理論〜ストーリー価値のデザイン
濱口氏は、プロダクトの価値の源泉は、Design(デザイン)、Function(機能)、Story(ストーリー)の3つであるとしています。本稿では、ストーリー価値のデザインについて考えます。
ストーリー価値のデザイン
プロダクトを売る方法を考えるとき、まず、プロダクトの本質的な価値を「プロポジション」として設定します。プロポジションは、そのプロダクトの確信的な売りのポイントです。自社の強みを生かし、競合と比べて優位であり、かつ、顧客に最も刺さる訴求点を考えます。
プロポジションを考えるには、顧客志向です。徹底的にヒアリングし、仮説検証を繰り返すことで、プロポジション仮説を確定させていく作業が必要となります。
一方で、「ストーリー」は、購買の理由になるかもしれない補助的なポイントと捉えています。しかし、ストーリーで共感を得ると高いロイヤリティを得ることができるため、ポジティブなイメージを植え付けるブランディングの一つと捉えることもできるでしょう。
ここでいう「ストーリー」とは、セリングポイントとしてのストーリーを想定します。事業戦略のように未来へつづく道を描くようなストーリーとは異なり、売れるための引っかかりの点を作るイメージです。そのため、ストーリー価値をデザインするとは、買う理由(選ばれる理由)を用意すること、であると考えています。
ストーリーを考えるには、顧客志向ではなく、自分たちのこだわりを全面に打ち出すべきです。顧客が欲しくなるような素敵な理由は、顧客の中にはありません。少し高いと思っても、自分に買うことを納得させるような、そんな理由となるストーリーがよいストーリーだと考えています。
例えば、アフリカの零細農家から直接買い付けたコーヒー豆には、「フェアトレードによって買い付けられたこのコーヒー豆が売れることで、アフリカで搾取されていた零細農家を救うことができる」という理念が詰まっています。これをストーリーとして打ち出せば、そのコーヒー豆を買う顧客は、このコーヒー豆を飲むことでアフリカの貧しい人々に少しでも役に立っている、という自身の購買にこれまでとは違う価値を感じることができます。その結果、少し高くても買ってくれる(プロダクトの価値が高まっている)状況が生まれます。これがストーリー価値のデザインです。
少し高い買い物に対して、購買行動を納得させてくれる物語を用意しましょう。理念、想い、価値観、これまでの経緯、描く未来像、目指す理想像など。その物語によって、プロダクトの価値が高まります。ストーリーは簡単に真似できません。そのため、一旦浸透されれば、他者との大きな差別化要因になり得ます。
3つの価値の源泉について
濱口氏は、プロダクトの価値の源泉は、Design(デザイン)、Function(機能)、Story(ストーリー)の3つであるとしています。
Design(デザイン)
ここでいうデザインは、意匠(形、色、模様など)の意味。視覚で認知するものが主です。
Function(機能)
その製品やサービスが、どんな働きをし、どんな利便性を与えてくれるか。質と量。
Story(ストーリー)
ミッションやバリュー、製品に込める想いや製品が生まれた背景、意味付け。
図出所:https://bizzine.jp/article/detail/159
ユーザーが価値を認識する順番は、D(デザイン)→F(機能)→S(ストーリー)です。人間は視覚からの情報を強く知覚するので、まずデザインを見て、その後で機能を理解しようとします。ストーリーは、認知の最後にきます。初見ではわかりにくものの、後から効いてくるのがストーリーです。
図出所:https://bizzine.jp/article/detail/159?p=2
価値認識の変遷としては、まず、F(機能)が重視された時代がありました。例えば、バリューエンジニアリングという言葉がありますが、その概念では「価値=機能/コスト」と価値の構成要素が機能とコストであるとされていました。プロダクトは、機能の量や質を競いました。
次に、Fに加え、D(デザイン)性の時代がやってきます。機能だけでは売れないので、見た目で欲しくなるようなクールなプロダクトが必要になりました。また、UI/UXのような操作性も重視されるようになりました。
そして、近年はそれらに加え、S(ストーリー)性の時代となりました。つまり、プロダクトの意味性が価値として認識される時代がやってきます。機能やデザインが飽和してきている現代だからこそ、製品を意味付けることで、ユーザーに選んでもらう動機を与えることのできる「ストーリーの価値」が高まっているのだと思います。
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