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ビジネスR&Dとは

「事業開発の進捗と成果を可視化できれば、事業開発を仕組み化することができる」

大企業での0→1の仕事の成果が、本当の意味で形となり、事業収益の柱となるには、早くとも5年〜10年はかかります。しかし、個人としてのキャリアはそれよりずっと短く、そのために事業開発系の人は、基本的に偉くなることがありません。

しかし、土壌を開墾し、種をまき、水をやった人がいるから、その果実を収穫できるはずです。誰の目にもすぐ分かる果実の収穫量だけでなく、土壌、種まき、水やりの努力を見える化することが、事業の継続的成長と継続的イノベーション創出には重要だと考えています。

本稿では、The Model(マーケティング、セールス、カスタマーサクセス)をベースとしたビジネスフロー上に事業開発を位置付ける事業開発モデル「The Model+」を提唱します。

私が事業開発の実務の中で磨き上げてきた手法の一つです。事業開発を定量化したい、成果を可視化したいと、考える事業開発者の方の参考になれば幸いです。

はじめにー事業開発の位置付け

狭義の事業開発

事業開発の本質は、「ビジネスR&D」であると考えています。技術部門のR&Dがあるように、ビジネス部門にもR&Dがあって然るべきです。

こうした役割は、マーケティング部門が担っている場合もあると思います。しかし、「マーケティング」とは分離して、「ビジネスR&D」を定義することで、より両者の目的を明確化することができます。

ここでいうビジネスR&Dとマーケティングの違いは、「確定したプロポジションの有無」にあります。

*プロポジションとは製品の顧客への訴求点のことです。プロポジションには、初期のプロポジション仮説(初期仮説)と、確定したプロポジション仮説(確定仮説)の2つがあります。ここでいう「確定したプロポジション」とは、顧客に刺さることが検証されたプロポジション(確定仮説)のことです。詳細は後述します。

「ビジネスR&D」は、無数の可能性の中から事業拡大に貢献する強いプロポジションを探すことが目的となります。Research(調査)では、市場調査に基づき初期仮説を立案します。Development(開発)では、初期仮説の検証を行い、「勝てるプロポジション」を見つけます。

一方、「マーケティング」は、確定したプロポジションを活用し、見込み顧客を獲得し、育成することが目的となります。

The Modelは「マーケティング」「セールス」「カスタマーサクセス」の一連の流れから成りますが(以下書籍参照)、「事業開発(ビジネスR&D)」はその上流に位置することになります。

The modelと事業開発の位置付け

事業開発モデル「The Model+」

事業開発(ビジネスR&D)をThe Modelと組み合わせることで、非常に使い勝手の良いモデルになります。

イノベーションにはどうしてもコントロールできない運的な要素が入ってくるので、組織として新しいものを生み出していくには一つのアイデアだけに集中するのではなく、いくつかのアイデアに分散投資することが必要となります。この考えは、ベンチャー投資などの考え方に近いものがあります。

一方で、個人単位でゼロイチのイノベーションを起こし成果を出すためには、弱者の兵法である一点突破が定石になります。個人レベルでは、最も可能性のあるアイデアに全力で集中しないと、リソース不足で成果が出ません。

そこで、リスクを分散させたい企業(管理側)と、成果を出したい個人(実行側)のニーズを合致させベクトルを合わせるため、初期仮説への分散投資と、確定仮説への集中投資を両立させる仕組みを考えます。

つまり、Research(調査)では、より多くの初期仮説をより早く仮説検証(初期仮説への分散投資)し、より可能性の高い確定仮説を見つけ出すことができれば、Development(開発)では、確定仮説への集中投資が可能になります。

初期仮説:できるだけアイデアを多く出す
仮説検証:優先順位をつけて、早く多く初期仮説を検証する
確定仮説:確率の高いアイデアを絞り込み、リソースを集中する

図:初期仮説と確定仮説

仮説検証ファネル

次に「The Model+」の各フローの機能と目的を説明します。

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Dev(0→1)ステージ

事業開発(ビジネスR&D)
機能:プロポジションの確定仮説の創出
目的:売れるものを見つける

Scale(1→10)ステージ

マーケティング
機能:見込み顧客の獲得、育成、選別
目的:チャンスを増やす

セールス
機能:見込み顧客の商談化、採用
目的:ゴールを決める

カスタマーサクセス
機能:採用後のフォローアップ、利活用促進(オンボーディング)、採用拡大のための啓蒙活動(クロスセル、アップセル)、採用後のオペレーション全般
目的:オペレーションの実行

ビジネスR&Dは、売れるプロポジションを見つける役割なので、いわゆる0→1の仕事になります。一方で、それ以降のプロセス(The Modelのフロー:マーケティング、セールス、カスタマーサクセス)は、製品とプロポジションが揃った状態からスタートするので、いわゆる1→10でビジネスをスケールさせる役割になります。

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事業開発が、何でもやる理由

事業開発が時に「何でも屋」と評されるのは、初期仮説を立てても誰も検証しなければ、その仮説がただのアイデアで終わってしまうからです。

マーケティングも、セールスも、戦略も、実行も。仮説検証に必要なことは全てやらなければ、プロポジション仮説を検証できないからです。どんなにクリエイティブで筋の良い仮説を見つけたとしても、仮説検証して、売れることを証明しなければ、ただの絵に描いた餅になってしまいます。

大企業には、アイデアを持っている人は実はたくさんいます。表立って言わない、もしくは言う機会がないだけで、掘れば多くの素晴らしいアイデアが出てくることが多々あります。

一方で、そのアイデアを仮説検証して実現までできる人は、本当に限られた一部の人だけです。多くの場合、アイデアを仮説検証する場自体がないため、自分でその場を作り出していかなければならないのですが、それは非常に労力を要する仕事になってしまうからです。基本的に、労力と対価が割りに合いません。

素晴らしいアイデア(仮説)は、検証してこそ、本当の素晴らしいアイデアになります。そこへ(社内的な)投資を呼び込むことで、事業の種を育てていくことが可能になります。確定仮説(売れる可能性の高いプロポジション)を見つけたとしても、マーケティング、セールスまで一連の流れを回して初めて、事業として売れる形が見えてくるのです。ここまでやらないと、他に儲かる事業が既に存在する大企業では、次の事業の種として認めてもらうことはできません。

一般的に事業開発と呼ばれる領域が、広範囲に広がっているのは、仮説によって検証すべき領域が様々だからです。時に、事業全体の流れまで作ることもあれば(例:社内ベンチャー制度)、技術開発と強い繋がりを持つこともあります(例:商品開発)。

広義の事業開発

「The Model+」の意義

「確率論で不確実性を抑え込み、事業開発の成功確率を可能な限り高める」

これをモットーとして、日々、事業開発に取り組む中で、ビジネスR&Dの概念を着想し、これまでその実用性の検証を進めてきました。

私が、あえて、事業開発(ビジネスR&D)を定義し、事業開発モデル「The Model+」を提唱するのは、「仮説検証」を一つの専門の仕事とすることの重要性を強調したいからです。

現行の「作業」に忙殺されている限りは、新しいアイデアの検証に時間を割くことはできません。新しい事業を生み出すには、仮説検証に専念できるポジションが重要です。それが、事業開発(ビジネスR&D)です。

事業開発は多くの場合、失敗します。トップの強い意向で検証が始まる場合は、行き当たりばったりのアイデアで特攻することになり、多くの場合、犬死することになります。ボトムアップでアイデアを上申する場合は、仮説検証の結果を示して、成功の可能性を示さないと社内突破できません(*社内突破の技術は別のnoteにまとめる予定です)。

失敗しない為には、どうすれば良いか?どんな場合でも、事業開発で本当に重要なのは、仮説(アイデア)を検証することなのです。

ビジネスR&Dを上手く仕組み化できれば、事業開発を科学することができます。

大企業のリソースを上手く使いこなすことができれば、効率的に仮説検証を進めることができます。大企業は、間違いなくイノベーションのインキュベーション組織として最強です。

事業開発に携わる方は、ぜひ「The Model+」と「ビジネスR&D」の概念を参考にしてみて下さい。

参考文献

BtoBマーケティングの基礎理論である”The Model”の基本を学びたい方におすすめです。

THE MODEL 福田 康隆 (著) (2019)


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TANAKA ICHIRO / 大企業の事業開発
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