まず、キンタマがあった | 森田一郎の毎日戯文 #91
毎日戯文とは
まず、森田一郎にはキンタマがあった。
カミさんはこれをよしとし、手元のオードトワレをいたずらに吹きかけた。
すると、キンタマにはあたたかさがあった。
両キンタマのあたたかさはすみやかに訪れ、やがて森田は驚きに声をあげた。
「カミさんよ、カミさんよ、なぜなのです」
カミさんはそこにあり、微笑みでこたえた。
「カミさんよ、カミさんよ、このキンタマは熱すぎる」
森田はカミさんに訴えたが、カミさんは微笑みでこたえた。
キンタマにはしかし、熱さがあった。森田が動き回ると、熱さは増し、やがて痛みになった。キンタマにはもはや痛みがあった。
「ああ、カミさんよ、なぜなのです」
森田は泣き、飛び上がり、部屋のうち、北と南を駆け回った。
「カミさんよ、なぜなのです」
そこにはカミさんの微笑みと、キンタマの痛みだけがあった。答えはなかった。
森田が風呂場へ駆け込み、清浄なる水でそのキンタマをすすぐと、やがて痛みは悲しみへと変わった。
「カミさんよ、なぜなのです」
森田はカミさんにもう一度だけ問うたが、言葉はなく、微笑みがあった。カミさんは酔っていた。
モリタの書 21:6 より
またあした。