「学歴」という話
「学歴」という話
Educational-Background
大学は行って損はありません。今、最新の学問を学ぶ魅力というのは、何物にも変えがたい事実ですから。
ただし、学ばないのに行く価値があるかというと、どうでしょう?
少し考えてみましょう。
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日本は歪(いびつ)な学歴社会です。本来であれば、博士(はくし)である専門家が快適に働く社会が理想です。けれど現実は、末の学士(がくし)が徒党を組んでいます。#blackjoke
大学・大学院は、高等教育です。対して、中等教育が中学校・高等学校です。
・高等教育——大学院(博士課程)
・高等教育——大学院(修士課程)
・高等教育——大学(学士課程)
・後期中等教育——高等学校
・前期中等教育——中学校(義務教育)
※この他にも、短期大学の短期大学士や、専門職大学院の専門職学位がありますが、別の機会にしましょう。
なお、医学部を卒業すると学士(医学)になるのですが実際は6年勉強していますから、大学院に進む場合は修士課程をとばして博士課程となります。つまり、修士課程に進む人は医師ではないのです。イコール、文系でも医学博士(※)になれるという訳です。
※学位は「博士(医学)」です。
中等教育を受けていれば、ふつうに仕事はできます。はっきり言って、大学に行ったからといって、仕事がバリバリできるかというとそうでもありません。
それに、日本では高学歴の仕事は少ないです。
もし博士号があるなら、海外のほうが楽に仕事ができます。それだけ評価が高いです。もっとも、それだけのことは要求されますが……。
では、どうして企業は高学歴の人を採用するのでしょうか。それは、情報が偏っているからです。
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【戦略的思考の技術】
企業としては有能な人を採用したい訳です。大学を卒業した人と高等学校を卒業した人がいるとしましょう。"能力が同じだと分かっている場合"、どちらを採るでしょうか。
答えは、高卒です。大卒のほうが給与が高いので、"仕事ができる"なら高卒のほうが給与をおさえられます。
けれど、"仕事ができる"能力を確かめる術(すべ)はありません。実際は、
「有能な人であれば大学を卒業しやすい」>「無能な人は大学を卒業しにくい」
ということしか分からないのです。
ということは、「優秀だけれど理由があって大学に進学しなかった高卒の人」と「無能だけれどとりあえず大学を卒業した人」の区別がつかないのです。
そこで、有能な人ほど「私は優秀ですアピール」というシグナルを出します。情報をもっている側が情報をもっていない側にシグナルを出す、戦略的行動をシグナリング(signaling)と言います。
《シグナリング》
シグナリングによって、大卒の人は高卒の人より多くの学費を払い時間を経けています。大変な費用(コスト)を払っている訳です。
そこで、企業はコストをかけている人を選びます。変に思われるかもしれませんが、相手がコストを払うほど信用が高くなります。
たとえば、同じ価格の2社の商品があるとしましょう。カタログの性能表は大同小異、似たり寄ったりです。Amazonのレビューをみても一長一短ありますが、どちらを選んでも変わらないようです。この場合、一方が保証なしで、もう一方が返品可(送料無料)&3年保証だとしたらどうでしょう。
当然、保証があるほうを買いますよね。ただし、返品可(送料無料)なんてしたら、費用が高くなって損をするのでは? と考えるのが普通です。
売る方の立場になって考えてみましょう。良品なら保証をつけなくても売れます。返品も少ないでしょう。逆に粗悪品なら保証をつけたら大損です。返品なんてもっての外です。粗悪品を売っている方は無理な保証はつけることができません。
しかし、購入者が優劣をどうやって判断できるでしょうか。
判断できないからこそ、良品のほうが「わざわざ」コストを払って「私は優秀ですアピール」というシグナルを出します。
そこで、購入者は「保証してもお釣りがくるほど問題ない商品」だと考えます。
もちろん、時期を誤ってはいけません。好きな人が他の人と結婚した後に告白するのは野暮です。
cf.
*梶井厚志『戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する』(中央公論新社、2002年9月)P154
こうして考えると、企業も労働者も合理的に戦略的に考えている訳です。ただし、残念ながら学びの本質からは離れてしまっています。
情報が一方にしかない場合、売り手・買い手とも労力を強いられます。「悪貨は良貨を駆逐する」ではないですが、粗悪品を排除するために売り手はコストをかけなければならず、買い手は判断できないためにコストのかかったものを買うことになってしまいます。
では、情報をもっていない側としてはどうしたらよいのでしょうか。
《スクリーニングと逆選択》
情報をもっていない側が、情報をもっている側のシグナルを出させる方法をスクリーニング(screening)と言います。
具体的には、履歴書に学歴・職歴・資格/免許などを書かせるのが企業からのスクリーニングです。学歴・職歴・資格/免許などといった情報を明らかにすることで判断しやすくなります。
〈学歴〉
高学歴のほうがいいのですが、前述のように博士号があっても今の日本では役不足です。
なお、大学を卒業していないのに大卒だと書いたり、大卒なのに高卒と書いて高等学校卒業生が採用される枠を奪ったら経歴詐称で大問題です。
友人から聞いた話ですが、著名大学卒業と称して入社したのに同窓会に参加せず問い詰めたら大学教授の名前を知らなくてバレて懲戒解雇になった人がいるそうです。
わからないでもないですよ。人間の能力なんてそうそう変わらないですから。とはいえ、詐称はマズイです。一人だけコストを払わずにポッポナイナイしたら、それは非難されます。
そうした人がいるかと思えば、大学入学資格検定試験に合格し、慶應義塾大学通信教育課程を卒業して、東京大学大学院経済学研究科で教えている柳川範之教授のような人もいます。
〈職歴〉
ふつうは業種を変えても、職種を変えません。営業はどこまでいっても営業です。自動車の営業が不動産の営業になることはあっても、転職して税理士事務所に勤めて経理をすることはまずないです。同じように、税理士事務所で経理をしていた事務が車の営業になることはまずありません。
ふつうは同業種同職種です。自動車業界に精通している営業は別の自動車会社の営業に転職します。別の業種に転職するのはかなりリスキーです。
異業種同職種は、さきほどの自動車の営業が不動産の営業になるパターンです。売りにかわりはないので、勉強すれば可能です。
私の顧問税理士は木っ端役人(自称)でしたが独学で税理士になった苦労人です。直属の上司が嫌で嫌でたまらず転職したそうです。映画でよくある「儂の目の黒いうちは同じ業界で働けると思うなよ」と言われた人のパターンです。#joke
同業種異職種で一番多いのが、転職せずに同じ会社で事務が営業になるパターンです。リストラで人員を減らし(当然)営業ができず成績が上がらず退職させます。#blackjoke
一方で、営業から事務になるパターンは身体を壊した人が多いです。こちらは会社を辞めて勉強して社会復帰をするのが一般的です。
異業種異職種はまずありません。よほどのバカか天才です。リスキーではなく完全なリスクです。
ちなみに、私の【記憶の中の仕事歴】は下のとおり。
けっこういろいろしましたね……。
税理士事務所にいた事務が、車の営業になったり、ジャズライヴハウスで店長したり(水商売)することはまずありません。
友「黙っていたら? 誰も信じないですよ」#本気
(確かに私の場合シグナルが多すぎて困りますが……。)
(居眠りしたのは本当です。税理士M先生が超がつくほど善人で助かりました。)
職歴も同じく詐称は問題になります。
〈資格/免許〉
資格や免許がないとできない仕事があります。医師や弁護士がそうです。
無免許の闇医師に診てもらうのって怖いでしょう?
※手塚治虫のブラック・ジャックは地方大学の医学部を卒業していますので、学士(医学)です。
探偵が弁護士の仕事をするのもダメです。私の小説は虚構(フィクション)ですから話の都合上(大人の事情で)適当にしています。
調理師免許がありますが、調理に関して必須ではありません。それはそうです家で料理できなくなってしまいます。実際の店舗では、食品衛生責任者であれば調理が可能です。
あと、ふぐだけは別です。ふぐ調理師という免許が要ります。毒がありますから、ふぐ調理師以外が調理するのは厳禁です。毒の部位を取り除いたあとは大丈夫です。
黒門市場(※)の隣に住むふぐ好きの友人は料理人でもないのに、ふぐ調理師免許をもっています
※大阪市中央区日本橋にある市場です。
毒の部位は、鍵がかかる専用の容器に入れる必要があります。うっかりではスミマセンからね。
逆選択については、別の機会にしましょう。
《戦略的思考の技術》
シグナリングやスクリーニングによって、学歴はかなり戦略的思考が必要な問題です。
大学卒業と高等学校卒業では生涯賃金に差があります。
ですが、一言いいですか?
言っても何億も変わらないですよ?
よく「年収1,000万円以上」とか言う人がいるじゃあありませんか。
その人、貧乏ですよ? 奴隷が鎖を自慢しているだけです。
900万円を超え1,800万円以下の所得税は税率33%です。
1,800万円を超えると急に税率が上がって、40%になります。4,000万円超で45%です。
No.2260 所得税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
単純に年収1,800万円を超えなければ、貧乏なんです。#joke
転職を考えていた友人に言ったことがあります。
「近親者に大金持ちがいますか? お祖父さんお祖母さんお父さんお母さん伯父(叔父)さん伯母(叔母)さん、別に兄弟でもいいです。遠い親戚でも友人知人でもいいです、莫大な遺産があって遺言で受け取れますか? おられないなら一生貧乏です」
会社員で「年収1,000万円以上」より、不動産所得で「年収300万円」のほうが裕福です。
では、貧乏が貧乏なりに戦略的思考をするにはどうしたらいいのでしょうか。
これは簡単で、コネクションを広げることです。コネです。
私が十歳のときに、ある大学教授が言っていました。
「学歴にあまり意味はない。社会で有用なのは、何をおいてもまずコネクションだ。1にも2にもコネクション。3がお金。3もコネにしたっていい。コネがあれば金儲けなんて簡単だ。そのどれもがないときに辛うじて使えるのが学歴だ。専門的な知識や技術はパラダイムシフトがあれば崩壊する」
実際、大学を辞めて起業した人の多くが、コネクションによって成功しています。スティーブ・ジョブズは追い出されてしまいましたが。
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ともあれ、学ぶのなら、独学よりまともな大学に行ったほうが楽です。そのための専門家なのですから。
私が大学の授業を受けていたときは、講義のたびに教官が調べなければならないような質問をしていました。学生が調べて分かるようなことを質問しても無意味ですから。そうした「調べる」ということで、学ぶことができます。
cf.
「調べる」という話
https://note.com/ichirikadomatsu/n/n22a0eff20b07
教官の知識は調査資料(エビデンス)に基づいているから、手堅いです。どれだけインターネットで知識を得たとしても、調査資料(エビデンス)のないものは使えません。原典が書かれていても、それが本当に記載されているか確かめる必要があります。教官はその手間を省いてくれます。
たとえば、ゲーム理論は本で読んでもまったく理解できませんでした。仮説をたて教官に質問したら、完全否定で解答すら理解できませんでした。もう一度同じ解答を聞いてようやく理解しました。凡人は「二度考える」ことが大切です。
《私の学歴》
職歴が変ですが、学歴も変です。
私は学習障害(ディスレクシア)なので、ひらがな・カタカナ・英字・数字の認識が甘いです。
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