ワコとマロニエさんI
マロニエさんが、冷凍餃子をおみやでくださった。
昨年末に、遠慮しがちに、
「あの店の冷凍餃子をあげたいと思っていたの」
と打ち明けてくれた。
運悪くその日、ワコは寝込んでいた。
例の如く、自律神経がうまくいってなかった。
年明けて、一度マロニエさんはワコの家に来てくれている。
その時は、ワコが店の名前を勘違いしていて、マロニエさんが買いたいと思っていた中華屋さんに案内できなかった。店の前にたどりついてから、ワコはそのことに気がついた。
「ごめんなさい。店の名前間違えてました。勘違いです」
マロニエさんに謝ると、彼女はそんなに気にしていないふうに、
「私も、この商店街の脇道にあるって調べてたから。この辺りにはないのかしら」
と言ってくれた。
スマホで調べてみると、現在地の商店街周辺にはお店がなくて、一駅上ったところにあるらしい。徒歩で1.Iキロ。歩けない距離ではないけれども、ここまでももう30分以上歩いているので、ワコは、この先また歩くとは言いづらかった。
東上線の最寄駅はすぐ近いので、電車に乗ることを提案してみることにした。電車に乗れば、お店は駅前にあるので、そんなに歩かなくても済む。いつもの環境であれば、そうやって少しでも介助の方の歩く負担を少なくしたいとワコは日頃から考えがちだった。
「電車に乗れば、駅からすぐのところにあります。ここから歩いていくには、きた道を戻らなくてはならないので、遠くなりました。」
マロニエさんは、電車に乗るということに気が乗らないようだった。電車に乗りたくないということではなくて、手間をかけているのでは、と思われたのかも知れない。
きっと本当はマロニエさんは今日中に済ませたかったのだろうな、と思いながらも、ワコは提案した。
「今度いらっしゃった時にしましょう。間違えちゃってすみませんでした」
マロニエさんがふっと笑顔になった。
そして今日は、雪の予報が出ていた。
朝は思いのほか暖かく、本当に雪になるのか怪しいと思うほどの気温だった。
「雨ですね。今日はどうしましょうね」
ワコはこういう時は迷わない。
「行きますよ。雨が降り出す前に行けたら行きましょう」
天気予報は昼から雨と出ていたけれど、案の定だいぶ早めに降り出してしまった。
結局私たちは、朝のもろもろの家事援助や身体介護の日常の後に共通の話題で話し込んでしまって、お昼近くの外出になってしまった。
それでも、そんなに雨が強くないうちに帰ってくることができた。ラッキーな日だったと思う。
「思いのほか近かったわね」
私のために買ってくれた冷凍餃子をしまってくださいながら、マロニエさんは言ってくれた。
30個入り。ありがとうございました、すぐに食べきっちゃうと思います、とワコが言うと、
「あら、でも、30個あるわよ」という声が返ってきた。
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