『東出くんのこれから』 春風亭貫いち

ピンポン
ピンポーン
ピンポン、ピンポーン
ピンポン、ピンポン、ピンポーン
………………………………
ドンドンドンドンっ!!
「週刊文春でーす。東出さんいるんですよね~?」
「女性セブンです。杏さんは何かコメントしてますか?」
「フライデーの者ですが、お子さんのことどう考えてますか?」
「週刊朝日です」
「大衆です」「新潮です」「現代です」
「ダイヤモンドです」「ムーです」
(声を揃えて)「「「東出さん何か一言下さ~い」」」

表が五月蝿いよ~~っ!!
事務所の指示で都内近郊の隠れ家的なビジネスホテルを転々としてるけど、記者ってのは何であんなに嗅ぎつけるのが早いわけ?昼前にチェックインしても夕方には黒山の人だかりだよ。誰かタレコんでんじゃないかな?こんなことなら浮気なんかするんじゃなかったよ……ちょっと売れてきて調子に乗ってたなぁ……そういう過去で箔が付くっていう時代じゃないんだよなぁ~……ハァ……
これからどうしよ?
暫く芸能界には戻れないだろうなぁ…それよりもドラマの降板、映画の取り直し、CMの放送中止、その他何やかんやで賠償金いくら払えばいいんだよ?分からないから後で弁護士さんに聞かなきゃ…ハァ…
もう今の生活全部投げ出しちゃおうかな。
うん、それがいいや!
表の記者は襲いかかってくるライバル校の不良だと思ってボコボコにしよう。大阪の方までとりあえず逃げよう。このご時世にテレビを持たず、僕の名前くらいしか知らない西洋料理店を営む家族がいたらそこに下宿させてもらおう。ただし東京の喫茶店で出会った女性と運命的な再会をしても、もう結婚しないと心に決めておくことにする。大学では真面目に勉強せずに中退してしまったし、いい機会だから下宿先で真面目に学問に打ち込むのもいいだろう。建築学とかいいだろうなぁ~でもお師匠と意見が合わずに破門されそうだな。法学も捨て難いーー元教師の刑事とぶつかり合いながらも成長したり、法廷でふざけた弁護士と渡り合う人生なんてのは張りがあるだろう。そんな夢を見ながら勉強してても下宿先のお祖母さんから言われるだろうな…「東出、長続きしないってよ」って…
そうこうしてるうちに、また記者たちが僕の居場所を嗅ぎつけてくるぞ!人のいっぱいいる所はいづれバレるから、人気の無い山奥とかに逃げ込もうじゃないか!!自給自足しながら、幼少期から習った剣道の稽古をするのだ。たまに一之輔さんを呼んで落語を披露してもらおう。藤森哲也さんと将棋をのんびり指すのもまた乙だーーいやいや待て待て、何だかんだ言ってお坊ちゃま育ちの僕が自給自足生活はそもそも無理だろう。そのうち預金も底を尽きて、仕方なく盗みを働くようになる。泥棒界隈では「ボクちゃん」とか渾名をつけてもらってね。見つかった時の言い訳は既に心得ている。「失業しておりまして、四つの双子を頭に3人の子がおりまして、貧の盗みの出来心でございます」って言えばいいんだ!完璧っ!!

ピーヒョロロロ

おっ!FAXだーー事務所からの指示かな?……ん?杏からだ。何て書いてあるんだろう。

「前々から言おうと思っていたことがありますーー
『あなたのことはそれほど』」

2020.1.25

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