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彼女が残した僕への手紙 第6話

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翌日、本田さんから聞いた場所に、真っ黒なスーツを着て向かった。

会場に着くと、そこには見知った顔が大勢いた。
高校のクラスメイト全員に連絡が回ったのだろう。
卒業以来会ってなかった連中もちらほらいて、声をかけられた。

「浅見!」

トイレに向かう途中、声のした方を振り返ってみると、田所とワッキーがいた。
当たり前だけど、2人とも僕と同じように黒いスーツ姿だ。

「久しぶり」

僕がそう返すと、2人は心配そうにこちらを見る。

「驚いたよな。……舞ちゃんが死んだなんて、俺まだ信じられねぇわ」
「前に会った時は元気にしてたのにな」

あちこちからすすり泣く声が聞こえてきて、いよいよ藤咲さんの死が現実味を帯びてくる。
早すぎる彼女の死。
それを受け入れられないのは、当然ながら僕だけではないようだ。

会場にはたくさんの参列者がいた。
遠くに泣き崩れる景ちゃんと、その背中をなだめる園部さんの姿も見える。

僕らの間にも暗い空気が漂う。
他に何も言葉が出てこず、会が始まる時間までずっしりと重たい気持ちが胸中を支配していた。

葬儀が始まり、田所とワッキーの間に座った僕は、祭壇に飾られた藤咲さんの遺影を眺めた。
花が咲くような笑顔でこちらを見ている彼女は、僕らのよく知ってる彼女そのものだった。

お坊さんがお経を読んでいる最中もずっと、僕はそんな彼女の遺影を眺めていた。高校で初めて出会ってから最後に会った日までのことを思い出しながら。

もうこの笑顔に会えない。

そう思うと周りの泣く声につられて、自分の目にも涙が溢れてきそうになる。それでもグッと歯を食いしばって、掌を握り締めた。
 
葬儀は1時間程で終わった。
僕と田所は会場の外で、ボロボロと涙を流して泣くワッキーをなだめていた。
他人にそうされてしまうと、逆に冷静になってしまい、僕の涙は引っ込んでしまった。

「和也!」

聞きなれた声に振り返ると、園部さんと景ちゃんがいた。
園部さんは景ちゃんの手を引いてこちらへやってきて、僕らの輪に入った。

「急で、ビックリしたね」

いつもハキハキと喋る園部さんだったけど、今日はいつもよりおとなしめで、元気のない声だった。
もう涙は流れてなかったけど、その目は赤く充血していた。

「お前らも知らなかったの?病気のこと」

ポケットに手を突っ込んで立つ田所は、右足にかけていた重心を左にしながら園部さんに尋ねた。
それに対して園部さんは持っていた白いハンカチを黒のカバンに仕舞いながら、「うん、全然。家族以外誰も知らなかったみたい」と返した。

「景ちゃん、大丈夫?」

黙ったままの景ちゃんが気になって、僕は彼女の顔を覗き込んだ。
みんなの視線もそこへ集まる。

「何で、舞ちゃんが……っ」

すると景ちゃんの瞳からはまた、みるみる内に大粒の涙がポロポロとこぼれて泣き崩れる。
園部さんも景ちゃんを抱きしめながら、同じように泣き始めた。

「ワッキー、ハンカチ」

景ちゃんに釣られてまた込上げてきたのか、隣を見るとワッキーも泣いていた。
ワッキーは高校の時から涙もろい奴だった。
こんな時だから、いつも以上に涙が多いのは仕方ない。

「もうホントだめだわ、俺」

ごしごしと僕が渡したハンカチで涙を拭いながら、ワッキーは「涙止まらない」なんて言う。

ワッキーみたいに人前で泣けないけど、僕だって今すぐ大声を上げて泣いてしまいたかった。

「あ、これ。3人にも舞のお母さんから、預かったやつ」

園部さんはさっきハンカチを仕舞ったカバンの中から、封筒を取り出した。
真っ白な封筒には、綺麗な字で『田所和也様』、『宮脇亮様』、『浅見隆弘様』と書かれている。

「コレ、どうしたの?」

田所が尋ねると、園部さんはかばんの中から『園部真希様』と書かれた封筒を手に取った。

「舞からの手紙。病気が分かってから、みんなに手紙書いてたみたい」

園部さんはさっき藤咲さんのお母さんにあいさつに行った時に、この手紙をもらったそうだ。
お母さんが忙しそうだったから、園部さんが僕らの分も預かってきてくれたらしい。

「うわ、ヤバイ。もうこれだけで俺泣きそう」

園部さんから手紙を受け取ったワッキーは、封筒に書かれている自分の名前を見ながらまた瞳をうるうるさせている。
声には出さないけど、田所もそんな様子だった。

「ハイ、これ浅見くんの」
「ありがとう」

僕も園部さんから手紙を受け取った。
何でもない封筒のはずなのに、それが死んだ彼女からの手紙だと思うと少し手が震えた。

『浅見隆弘様』

白い封筒に書かれた文字は、数学を教えていたときに見た、癖のない綺麗な字だった。

あれから10年。
彼女と共有した時間は決して多くはないけれど、“初めて出来た彼女”である藤咲さんの存在はやっぱり僕にとって大きくて、何年経っても色褪せない。

『浅見くん、元気にしてた?』

年に数回会う度、開口一番に彼女はいつも僕にそう尋ねるんだ。
花が咲くような明るい笑顔を添えて、白くて細い手のひらをひらひらと振りながら。

彼女の手紙には、何が書いているんだろう。僕は少しだけ、怖かった。

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