彼女が残した僕への手紙 第3話
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藤咲さんとメールをし始めて2週間。
僕らは、放課後になると毎日のようにメールをした。
挨拶を交わす程度の関係が、今では休み時間や放課後の掃除の時によく話す間柄にまで発展した。
話す内容なんて本当に他愛もないことばかりで、中身がない話も多いけど、この時の僕らは“箸が転んでもおかしい年頃”。
何でもないことでも、大笑い出来たっけ。
話しかけてくれるのは、いつも藤咲さんから。
朝、登校していくと、僕の隣の席の友達と話している時に「おはよう」って挨拶してくれる。
「浅見くん、おはよ」
「おはよう」
今日も登校すると、彼女から挨拶してくれた。
僕も挨拶をし返すと、「ねぇねぇ、今日数学の時多分私当たるんだけど、浅見くんの答え教えてくれない?」と言って手に持っていた教科書を見せてくる。
僕の得意教科が数学だって話は、以前メールのやり取りの中で出ていたから、勉強のことで話しかけられる機会も多かった。
僕は「いいよ。ちょっと待って」と言って、カバンの中からノートを取り出し、予習しておいたページを広げてみせた。
「わ、すごい!さすが浅見くん」
藤咲さんはそう言って、笑う。
「さすが」なんて言われると、何だかこう……胸がくすぐったい。
「いやいや、藤咲さんもちゃんとやってるでしょ?」
「私なんか宿題だけで力尽きて、予習まで手回らないけどね。浅見くんは、毎回予習もちゃんとやってるし、ホントすごいよ」
僕は「そうかなぁ~」なんて言いながら、ノートを眺める藤咲さんの横顔を見つめた。
まったく僕って単純だ。
「さすが」なんて一言。
たったそれだけで、僕の機嫌はよくなっちゃうんだから。
「ちょっと借りるね」
「どうぞ」
僕のノートを自分のノートの上に重ねて答えを照らし合わせる藤咲さん。
彼女のノートを覗いてみると、癖のない綺麗な文字と数字が並んでいた。
シャーペンを握る手は白くて細い、男のゴツゴツしたそれとは違った女らしさがあり、思わず僕はドキリとした。
「ねぇ、浅見くん」
そんな僕の邪まな気持ちを悟られたのかと思うくらいのタイミングで名前を呼ばれて、体がビクッと震える。
「ん?何?」
平静を装ってそう尋ねると、藤咲さんは僕のノートを指差してこちらを見る。
「ココ、分からなかったんだけど教えてくれる?」
「いいよ。何か書くものある?」
筆箱からシャーペンを取り出して、教科書を読みながら問題を見る。
藤咲さんは、「はいどうぞ」とルーズリーフを差し出してきた。
解説をしている間、彼女は熱心に僕の話に耳を傾けてくれていた。
うんうん、と相槌を打ちながら、分からない場所があると「もう一回言って」と申し訳なさそうに苦笑する。
一通りの解説が終わると、「すっごい分かりやすかった!」と笑顔を見せていうもんだから、堪らない。
あぁ、僕って藤咲さんのことが好きなんだ。
彼女に対しての好意をはっきりと意識したのは、多分この時だったと思う。
笑顔が可愛い。そう思った。