彼女が残した僕への手紙 第4話
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それから僕らが付き合い始めたのは2ヶ月が経ってから。
告白をしたのは、藤咲さんの方だった。
他の男子よりも話す回数は多かったから、もしかしてとは思っていたけど、まさか彼女の口から「好き」なんて言葉が聞けるとは思っていなかったから驚いた。
前日にメールで「放課後に駅の近くでちょっとだけ話せる?」と聞かれた時も、世間話をする程度に思っていたから余計に、だ。
もちろん最初は学校やメールで話すような他愛もないことを話していたけど、途中で会話が途切れて無言になった瞬間に藤咲さんが小さく息を吐いて、「ねぇ、浅見くん」と僕の顔を覗き込んだ。
「ん?」と尋ねれば、彼女は少し眉毛を下げて遠慮がちに僕を見た。
「あの、さ」
いつもよりぎこちない感じでそう切り出した藤咲さん。
暫くそのまま見つめあった状態になり、何だか僕も落ち着かなくなった。
「こうやって浅見くんと話したり、メールする時間ってすっごい楽しい」
「うん」
「毎日、早く会いたいって思っちゃう」
「、うん」
よく通る澄んだ声で告げられる、彼女の言葉。
やばい、何だこれ。
「浅見くん」
呼ばれて、顔をハッとあげた。
目が合うと、少し困ったように笑う藤咲さんがいた。
「私、浅見くんが好き。……だから、私と付き合ってくれる?」
風でなびく髪を抑えながら、僕を見つめる。
心臓はドキドキとうるさくて、目の前に車かバイクが通ってそれを掻き消してくれないかと思ってくらいだ。
人生で初めてされた告白。
しかも思いも寄らぬフェイント告白に、僕は息の吸い方も忘れるくらい驚いていた。
しばらく僕を見つめていた藤咲さんの表情はみるみる曇っていき、申し訳なさそうに俯いていった。
そしてバッと立ち上がったかと思うと、今度はちゃんとした笑顔を見せて「ごめん、やっぱり返事いらない!」と努めて明るく言う。
「急にこんな話されてビックリしたよね」
地面に置いていたかばんを手に取って僕に背を向けた藤咲さん。
その背中を見て、僕は慌てて彼女の左腕を掴んだ。
「待って」
僕の声に振り返った彼女は、困った顔で僕を見る。
僕は彼女の言葉にすぐに返さなかったことを後悔した。
掴んだ腕に思わず力が入ってしまう。
「何?」
「あ、いや……その、さ」
何か話そうとする僕の様子が伝わったのか、藤咲さんは体を僕の正面に向けてじっとこちらを見てくる。
目が合うと、急に恥ずかしくなって僕は視線を外して自分の靴を見つめた。
「……僕で、いいの?」
言ってからもう一度彼女の目を見ると、驚いた表情を見せた後、少し目元が柔らかくなる。
心臓の鼓動はさっきよりもっと大きくなっていた。
「浅見くんがいいの」
強く、しっかりとした口調でそういう彼女はいつものように白い歯を見せて笑った。
それにつられて僕も笑うと、肩の力も少し抜けたように思う。
「これからよろしく」と僕が言えば、嬉しそうに「こちらこそ、よろしくね」と返す彼女がめちゃくちゃ可愛い女の子に見えた。
こうして僕と彼女の付き合いは始まった訳だけど、残念ながらその期間はわずか1ヵ月で終わりを告げる。
高校生、なんだけど、僕はまだまだ子どもだった。