ジョブズのプレゼンは真似できる。でも、真似しないほうがいい(けっして真似してはいけない)こともある
スティーブ・ジョブズのプレゼンは誰にでも真似できる、という記事を読んだ。
プレゼンテーションに関してジョブズには「生まれながらの能力」が備わっていたとビル・ゲイツは語っているが、ジョブズのスピーチの上手さは生まれつきのものではなく、「何度も繰り返し練習し、時間をかけてうまくなっていった」結果である。
ゲイツによれば、ジョブズのプレゼンのすばらしさは「本番で、まるで今その場で思いついたことを話すように見えるところ」にある。しかし、この記事を書いた(「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」の著者でもある)カーマイン・ガロによれば、この「努力していないように見える」ジョブズ流のプレゼンテーションは、以下の5つのポイントを押さえれば誰にでも真似できるよ、という話だ。
前もって準備をはじめる
しっかり声に出してリハーサルを行う
スライドの内容や言葉選び、ボディランゲージや話し方を微調整する
他の人からのフィードバックを求める
本番通りの格好でリハーサルを行う
もちろん、ここで「誰にでも真似できる」といってることは、「スティーブ・ジョブズのようにやれば誰でもいいプレゼンができる」ということではない。そして、(いまではあまり見かけることはなくなったけど)スティーブ・ジョブズの完コピをめざしているような人のプレゼンは、たいてい悲惨な結果に終わることが多い(ように思える)。
ジョブズ流の「努力していないように見える」プレゼンテーションは、いってみれば「ジラシ芸」の一部だからだ。
「こんどはどんなすごい製品やサービスを出してくるんだろう?」という期待に満ちあふれた聴衆を前に、すぐに「これだよ」とは言わない。ナンダカンダといろいろ語りながら、さんざん聴衆をシラしたうえで、「あ、そういえばここに入っているのがね」と「まるで今その場で思いついた」かのように、みんなが待ち望んでいたものをさりげなく差し出す。
ブカレストのコンサートでステージに登場したマイケル・ジャクソンが、1分半以上にわたって身動きしなかったようなものだ(古い!)。全盛期のマイケル・ジャクソンほどの人気がなくても、何の曲だか分からない長い前奏の後にとつぜん人気曲をはじめて会場を沸かせる、なんて手練手管を使うアーティストも同じこと。
こうしたジラシ芸としてのプレゼンの極意が、「何の努力もしていないように見せるため」の努力を重ねるところにある。だから、「こいつ誰なんだ?」「何のプレゼンをするんだ?」「その製品・サービスが何の役に立つ?」というハテナマーク満載の聴衆を前にした場合は、ジラシ芸がジラシ芸として成立しない。
「とっとと言えよ」感が会場に広がり、悲惨な結果を迎えることになる。
そういうわけなので、ジョブズ流の準備プロセスの真似すべきところ(時間をかけて準備し、いろいろと微調整を行い、フィードバックを求める)は真似したほうがいいけど、スティーブ・ジョブズっぽいプレゼンの流れをコピーする方向で真似するのはやめた方がいい。
たいていのプレゼンの場は、ハテナマークに満ちた聴衆を相手にするわけだから、「がっつり準備してきた」感、「話すべき内容を十分に理解している」感を与える「自然な」雰囲気を醸し出せるようにリハーサルを重ねる必要がある。
で、話し手が誰で、何の話をしているのかを聞き手が受け入れ、「さらにその先を知りたいな」と思いはじめた頃合いで、「あと、こんな機能もあるんですよ」と、「まるで今その場で思いついた」かのように目玉機能の話を切り出す。
そういうとき(に限って)は、この記事に書かれている、「努力していないように見える」ジョブズ流のプレゼンテーションが大きな効果を生み出すんじゃないかと思う。