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一説として面白い話ではあるけれど、あの頃のあなたのメンクイは心の病気。

 他人の顔を覚えられない『失顔症』(しつがんしょう)という病気がある。顔を覚えられないので、他人の見分けがつかない。2013年にハリウッドスターであるブラッドピットがこの『失顔症』(または相貌失認症)であると告白したことで一般に知れ渡った。実は私も軽度の失顔症で、おそらく先天的にこの病気を抱えている。治療方法は今のところないらしい。

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 病気に気が付いたのは大人になってからだった。毎日会うクラスメイトや家族の顔は認識できていたので、10代の頃はそれほど困るようなことはなかった。しかし社会に出てから、周囲の人たちが自分よりも他人の顔を瞬時に覚えているということに気が付いた。
 失顔症の発症率は100人に1人。全人口のおよそ2%ほど。割合多い確率のように思うが、大半の人が私と同じように気が付いていないらしい。知らず知らずのうちに体形やヘアスタイル、匂いや仕草などで特徴を判断しているのだそうだ。いわれてみれば、幼稚園のときに学年にいた双子が似ていることがわからなかった。顔を並べられても似ているかどうかの判別ができないのだ。幼少期から症状はあったといえる。

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 困ることと言えば、待ち合わせだ。連絡を取っている人の名前と概要はわかるが、顔がわからない。覚えられない大半の人は仕事関係。電子でのやり取りばかりで実際に顔を合わせた回数が少ないとさっぱりだ。さらにその人が新しい人を連れて来たりすると、どちらに名刺を渡せばいいのかわからなくて焦る。そして昨今のコロナ禍である。元々わからないのにさらにみんなマスクをして顔の半分を隠している。お陰で色んな場所で色んな人を無視してしまう。マジコロナ絶許。

 ブラッドピットは失顔症の告白の際に、「どこかでお会いしましたっけ?とよく他人に聞くのできっと色々な人に嫌われていると思う」というようなことを言っていた。これに関してはどこの立場から言っていいのか謎ではあるが、私ブラピの気持ちマジわかる。私自身「ごめんなさいどなたでしたっけ?」というようなことをよく言ってしまう。あなたの顔を覚えていません、というのはある種の否定であり、上から目線に聞こえるのだ。しかし連絡先を交換していて待ち合わせする関係性ならまだしも、1回会っただけで顔を覚えるなんて到底できない。失顔症ではない人たちの顔認知機能すごすぎる。

 映画を見ていても「さっきの人」と「今出ている人」が同じだという認識ができない。伏線が一切仕事しないということだ。日本人ならまだしも、外国人ともなるとそれこそブラピの顔も怪しくなってくる。映画を見るときは、いつも隣にいる夫に「誰これ?」という質問を何度もしている。「最初に花屋で花を買ってた人だよ」「へー、てことはこの人が犯人か」みたいな会話がなされる。ムードぶち壊し。圧倒的な病気の存在を痛感する。
 その点アニメや漫画の登場人物はなぜか問題なく見分けることができる。先ほど念のため調べてみたらこの症状は失顔症のテンプレらしく、「わしこれやないか!」とひとりで突っ込んでしまった。

 けれどなぜかすぐに覚えられる顔というのがある。目が大きく二重まぶた、鼻筋が通っていて、輪郭がシャープ、アジア人。これらの特徴が揃っていれば、どうしてだか覚えることができる。
 文字面だけでお気付きの方もいると思うが、この特徴を持つ人は美しい容姿であることが多い。これに気が付いたときは、震えた。10代の頃自分は極端なメンクイで一目惚ればかりしていたが、もしかして病気ゆえにその類の顔しか覚えられなかっただけなのでは……と。
 四方八方に失礼な言葉選びになってしまって申し訳ないが、当時容姿以外での判断材料が本気でわからなかった。その若さゆえにどうやって他人の性格を見極めたらいいのかわからなかったのだ。その上顔の見分けがついていないとなれば、覚えられる顔を選ぶのは必然的なのではと思う。

 古くからの友人に「もしかしたら私、失顔症という病気のせいでメンクイだったのかもしれない」と打ち明けると、「一説として面白い話ではあるけど、あの頃のあなたのメンクイは心の病気」と言われた。なるほど、確かにそれもそうだなと思った。

 何の話やねん。 

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現在毎日note20日目。
こちらは、17日目の記録と感想。


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及川一乃
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