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本当に迷惑だった出禁客リスト その3

 Nは来店のたびに閉店作業を手伝ってくれていた。毎度シャッターを閉め、私を自転車置き場まで送ってくれた。あるときまで一連の行為に関する感情は何もなかった。

 私は長いこと気づかなかったが、周囲の客は以前からNの異様さに勘づいていたようだった。

最初の違和感

 Nに最初に違和感を持ったのは、当店に取引先の人たちが来た日だった。閉店時間も過ぎたころに、6名が来店。昼間の仕事の取引先だったため、弊社の従業員である夫も合流。席は満卓となった。

 詳細については割愛するが、その日の問題点について、全員が帰った後に夫に話をした。昼間の仕事に関する話だった。その際もNは店に居座り、閉店作業を手伝い、私を送り届けようとした。

 このときようやく「おかしい」と感じた。「なんで夫より自分が優先されると思ってるの? 夫をバカにしているの? というか、普通なら閉店後に別の取引先の人が大勢で来たら常連客は帰るべきでは?」と思った。

 それまで9か月ほど毎日来店していたNに対して急速に嫌悪感を抱いた。

 翌日、常連客のナオちゃんに「昨日、Nが気持ち悪かった」と話すと「普通に最初からずっと気持ち悪いよ」と言われた。驚いた。ナオちゃんは、あんないい人をずっと気持ち悪いと思っていたのか、と。どうしたらいいのか、わからなくなった。

「やっと気づいた?」

 以前も書いたが、当店は常連客が多く、頻繁にイベントを行うため、一種のコミュニティビジネスの場になっている。当然Nも当店のコミュニティに属しており、イベントのたびに私から声をかけていた。

バースデーイベント時の当店の外観

 私は確かにオーナーではあるが、女王さまのように「はい、気持ち悪いから仲間外れね」といったことがやりたいわけではなかった。コミュニティを壊したいわけでもなければ、Nが楽しいと思って通っているであろう場を奪いたいわけではない。悩みに悩んだ結果、ほかの常連客に「オーナーがひとりになるまで居座るのはやめてほしい」といった旨を伝えてもらった。

 最初は「私が直接言う」と言ったが、「さすがに可哀相だから僕が言う」と、5人の常連客が手をあげてくれた。この日から、5人が代わる代わるNに注意をした。

 だが、Nの行動はいつまでも変わらなかった。私がひとりで閉め作業をしていても、ずっと店の前にNは立っていた。それがどれほど異常なことなのか、私だけが気づいていなかった。

 誰もが「やっと気づいた?」「あれストーカーだよ?」と口にした。

差別意識

 さてここで、自分の中の差別意識について話す。

 私ははっきりとあらゆる差別をなくすべきだと考えている。「差別をしてはいけない」「社会とは平等であるべき」等の想いがある。けれどその上で、「差別意識」を持っている。情けない話ではあるが、自分には他者に対する同情心があるし、優劣をジャッジするような醜い癖がまだ残っている。だが、内容については口にしてはいけないと考えている。差別心を持っていながら、「差別する側」に立ちたくないという卑怯な思いがあるためだ。

 ゆえに「他人を気持ち悪いだなんて思ってはいけない」と意識している。自ら心の大きなフィルターをかけているのである。

 要するに何が言いたいかと言うと、この時期私は、Nの容姿、食べ方、行動、すべてに対し、強い差別意識を持った。心の底から気持ち悪いと感じていた。

コンプライアンス違反

 令和6年にもなって、コンプライアンス違反であることは重々承知している。だが、私の中にある「差別をすべきではない」という気持ちと、「差別意識」が戦った結果、差別意識が勝ってしまったのだ。

 5人もの大人を動かしておきながら、いつまでも行動を改めることのできないNをバカにしていたとも思う。

 それでいて、私が周囲の人をここまで巻き込んでしまった、という罪悪感で潰れてしまいそうだった。

結論

 結果的に、もうどうにもならないのでNは出禁とさせてもらった。今でもどこから何をどうすればよかったのか、わからない。

なぜ上から目線なのか教えてほしい。

 ただ、「夫をバカにしているの!?」と思ったことがきっかけで始まった今回の件だが、先日その夫とも離婚してしまい、私には4回目の離婚歴がついた。

 だったら別に出禁にするほど怒る話ではなかったのでは? やはりこれは私が悪かったのでは? と、思う次第である。

 もう、全部どうでもいいけど。

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及川一乃
いただいたサポートはチュールに変えて猫に譲渡致します。