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音楽に連れられて。アイルランド一人旅。〈6〉

4日目。翌日は早朝にDublinに戻り、真っ直ぐフィンランドに帰る予定なので、観光できるのはこの日が最後ということになっていた。

この日の目的地はGalwayからバスで2時間ほど南下したところにある、モハーの断崖(Mohar of cliffs)。アイルランドを代表する観光地で、「アイルランド 観光」でヒットする記事では大体ここが紹介されていた。映画ハリー・ポッターのロケ地としても知られているらしい。

4日目ともなると、もうアイルランドの天気には期待しなくなっていた。とはいえ、行き先が大自然となると、晴れなくてもいいからせめて雨は降らないで欲しい。出発するときは曇りだったので、天気がもつことを願ってバスに乗り込む。このときはまだ、この日がなかなかの大冒険になることを知らずに…。

残念ながら、現地に近づけば近づくほど、天気は荒れていった。バスの中からでも風雨が激しいことがわかった。バスから一歩降りると、真っ直ぐ立っていられないほどの強風と雨。とりあえず駐車場に隣接するビジターセンターで体制を整える。リュックに雨避けのカバーをかけて、いざ断崖へ。高校生から大学生くらいの若いお客さんが多い印象だった。

風が強すぎて前を向くこともできないほど。トレッキングコース自体はなだらかで、距離も短く、晴れていればただただ気持ち良いだろうが、天気のせいでかなり過酷だった。それでもここまで来たのだからと、根性で先へと進む。折り返しているときに、反対側から来る人に「最後まで行ってみる価値はあるか」と聞かれたので、「大変だけど見る価値はある」と答えた。ここでないと答えたら、先まで行った自分はなんだったのだろうということになる。

こうして書いていても、景色の感想がイマイチ出てこない。カメラを構えることもできず、最終的にレンズの中に水滴が入ってしまったこともあり、写真もあまり残っていない。

ただ、風雨も含め今までに見たことがない迫力だったのは確かだ。「断崖絶壁」というのを生で見たのは初めてかもしれない。恐怖さえ感じるほどだった。

ずぶ濡れでビジターセンターに戻ってきて、館内のカフェでコートやマフラーを乾かしつつ、温かいスープを飲んだ。スープが身体を温めてくれたのも束の間、ぐしょぐしょの足元からみるみる冷えていく。雨避け対策をもっとしっかりしてくるべきだった。

そして恐ろしいことに、バスの帰りの時間まで、まだ3時間もある。外は荒れた天候のままで、ビジターセンターの中で時間を潰すよりほかなかった。

バスの時間が近くなり、2階のカフェから1階へ降りると、ショップが店じまいをしていた。まだ閉店までは時間があるのにと不思議に思いうろうろしていると、警備員さんに何をしているのかと声を掛けられた。そういえば、いつの間にか人がまばらになっている。もうすぐバスが来るはずだと答えると、Galway行きのバスはもうないはずだと、カウンターに連れて行かれた。バスはさっき行ったばかりだとのこと。バスの時間を見間違えていたのだろう。そして次のバスはまた3時間後。そんなぁ…不安でどきどきしてくる。

そして、カウンターで説明を受けて、わたしはようやく状況を理解した。嵐が再びやってきていて、施設が早仕舞いすることになっていたのだ。イヤホンをしていて気に留めていなかったが、何度か流れていたアナウンスはきっとそのことだったのだろう。

スタッフの女性がやれやれという表情で、わたしを連れて、駐車場で待機していた観光ツアーバス数台に「一人取り残された女の子がいる、Galwayに行かないか」と頼み込んでくれたが、あいにく全てのバスの行き先が別方向だった。どんどん人が少なくなっていき、施設のスタッフとわたしだけに。最終的に、スタッフの一人が一番近くのまちのホテルまでマイカーで送ってくれることになった。そこの前がバス停にもなっているから、そこで3時間後のバスを待ちなさいと。

また3時間この濡れたままで待つのか…という思いはありつつ、なんとか今日中にGalwayに帰れることに安堵した。わたしを乗せてくれることになった大柄の男性スタッフは、わたしが申し訳なさそうに何度もお礼を伝えると、問題ないよと言ってくれた。

ホテルに到着して、カウンターで状況を説明し、宿泊客ではないがロビーで3時間ほど待たせてほしいと頼む。ここでも快くOKしてくれて、アイルランド人のやさしさに心の中で大感謝。

Galwayに戻ってきて、とにかく栄養補給が必要だと駆け込んだ、アジア文化全部盛り!みたいなレストランで食べたよくわからないパッタイ的なもの。汁系だと思って頼んだらこれだった。

こうして、びしょ濡れで6時間ほど待機し、バスで2時間かけてGalwayの宿泊先のアパートに戻った。ホテルからバス停に移動して待機している数十分の間にも、通りがかりの人が声を掛けてくれた。この旅を通して、アイルランド人への好感度が上がり続けている。

アパートでは昨日会えなかったホストにあいさつすることができた。ホストもとても気さくで話しやすい男性で、今日の出来事を一通り聞いてくれ、大変だったねと励ましてくれた。

結局この日は、このアクシデントにより、パブ巡りができなかったので、昨日のうちに行きたかったパブを全部巡っておいて本当によかった。シャワーでほかほかに身体を温め、ベッドに入る。こういう時、心から湯船が恋しくなる。

色々あったけど、なんとか無事帰って来れた。胸を撫で下ろすような気持ちで、翌日の移動に備えて早めに就寝。

だがしかし、ほっとできたのは、ここまでだった…。

〈7〉につづく>>


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Eriko Sugita
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