上田義彦の「鎮まる」を再び世に送り出す/一日一微発見317
何ができるのだろう。アートには?
90年代のことを思い出すと、そこは冷戦体制の解体期で、新自由主義が急速にのさばった時期だった。
その狂騒と世紀末の意識があいまってカウントダウンを生きていたように思う。
しかし、それは進歩史観の末路とはいえ、虚にしてもエネルギーがあった。
やってきた新世紀は、楽感的な期待を全く裏切り厄禍の時代だった。
入ってまず911という帝国とテロリストの惨劇から始まり、引き続くアメリカとタリバンの戦い。日本は東日本大震災と福島第1原発のメルトダウン、そして2020年に入り、コロナウィルスの猛威と、第三次世界大戦に繋がりかねないロシアとウクライナの戦争だ。
いつも、何ができるのだろう、アートには?という問いが頭の中をぐるぐると回っている。
写真家・上田義彦が花人・川瀬敏郎とコラボレーションした作品『鎮まる』は、2011年に発生した東日本大地震そして連動した起こった福島第一原発のメルトダウン事故の直後にプロジェクトとして立案され・制作された作品だ。
それら9点の写真は、東京美術倶楽部が発行し、故・高岡一弥がアートディレクションを手掛けていた機関紙『TOBI』で発表され、そして企画者である後藤繁雄が主宰するギャラリーG/Pgalleryにおいて、上田義彦の写真展として2011年8月から1ヶ月間公開された。
またその後、京都の細見美術館へも巡回した。
「鎮まる」とは、鎮魂であり、天地や乱世が穏やかになることを祈念することだ。
未曾有の厄禍に直面して、アートや写真に出来ることは何か?という問い。
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