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ローザンヌでのシュルレアリスム展の迷宮を、ベンヤミンと旅する/一日一微発見456

割引あり

ちょうど昼の12時頃に、ジュネーブに着いた。駅前のホテルにチェックイン。
今回の旅最終日は、ここから列車で30分ほどのローザンヌである。

あまりにも、今までの旅程がパツパツだったから、ローザンヌの美術館で何をやっているか調べていなかった(無計画も計画か)。
列車の中で検索してみると、なんとシュールレアリズム100年の企画をやっているではないか!

旅のお供の本はコンパクトでなくてはならない。僕が今回の旅で持ってきた本は、ヴェネツィア用にF・ブローデルの『都市ヴェネツィア』。そしてもう一冊は、ぶあついがコンパクトな『ベンヤミン・コレクションⅠ 近代の意味』であった。

この本には、大学生以来、愛読してきた「19世紀の首都パリ」や「セントラルパーク」もまとめて入っている。なによりいいのは、「写真小史」「複製技術時代の芸術作品」も入っていることだ。 旅先でベンヤミンを拾い読みして、思考の友とするのは悪くない。

そして今回の旅でぼんやり考えたいと思っていたのが「シュルレアリズム」のことだった。
この本には、ベンヤミンが書いた100年近く前のシュルレアリスム論が収録されているのは意識していた(僕はこの分厚い文庫本を、廃業まぎわの金沢のオヨヨ書林で買った)。
さっそくカバンから取り出して、ローザンヌまでの車中でも、拾い読みする。

ローザンヌの美術館は「プラットフォーム10」という文化コンプレックスになっている(もともとが、列車の引き込み線の跡地だからこのネーミングになっているのである)。
ローザンヌ州立現代美術館(MCBA)と写真美術館フォトエリゼ、加えてデザインミュージアムであるnuducの3つから構成されている。
去年もアートバーゼルのあとに、チューリッヒから行ったのだが、その時はタイミング悪く、フォトエリゼは入れ替え中で見れなかった(その代わりに売店でヨゼフ・クーデルカの素晴らしい本を手に入れた)。

今回は驚いたことに3館すべてが合同企画でシュルレアリズム展をそれぞれの角度でやっていた。大当たりだ。

なおかつMCBAは、歴史的なシュルレアリズム展+現代にアップデートしたシュルレアリズムの2本立て。
デザインミュージアムの方は、ヴィトラの企画の巡回展で、「シュルレアリズムとオブジェ」を。
そしてフォトエリゼはマン・レイとシュルレアリズム展という濃厚な3本立てある。

2024年が、シュルレアリズム宣言から100年ということもあるし、メタバースやAIの加速度的な浸透もあって「超現実」の探求というものが何だったのかをふり返ろうという危急な衝動が「強い」と僕も感じる。

だからこそ1929年にベンヤミンが書いた「シュルレアリズム ヨーロッパ知識の最新スナップショット」という小論をこの旅先で読むことは実にタイムリーだった。
この小論は、例の「パサージュ論」や「複製技術時代の芸術作品」とほぼ同時期に書かれたものであることも共通意識がシンクロしていて興味深い。

はて、ベンヤミンはシュルレアルに何を見て、何を期待したのか。
「意味より優先するだけではない。それに加えて、自我よりも優先する」とベンヤミンは書き、シュルレアルにショックをうけていることを告白する。

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