シュールなキュレーションの誘惑(カカオの記憶、あるいはカカオが見せた夢)/一日一微発見364
不思議な御縁で、神戸にあるフェリシモチョコレートミュージアムのキュレーションを担当することになった。僕をよく知る人でも、僕が「チョコレートとアート」の展覧会を手がけるようになるなんて奇妙に思うかもしれない。
しかし僕は実はチョコレートは好きだし、思い出もたくさんある。
なかでも 一番はロラン・バルトが少年時代に過ごしたバイヨンヌに行ったときのことだ。
バイヨンヌはスペインのバスクとの国境近くの町で、バルトは自著の中でも街中がチョコレート のかおりがすると書いている。
バイヨンスの街を散歩している時に、バルトの『バルト自身によるバルト』に入っている口絵写真と同じ風景に出会った時は、なぜか本当に嬉しかった。バルトと眼差しがクロスしたからだろう。
その時に撮ったポラロイドは、今も大切に持っている。
バイヨンヌにはクラシックなカフェがたくさんあり、そこに入ってホットチョコレートを飲んだ。その濃厚で甘美な体験は、まさに異郷に迷いこむ妖しい快楽の思い出である。
さて、チョコレートミュージアムのキュレーションを依頼され、何をするかを考えた時に、まっさきに南風食堂の三原寛子のことがひらめいた。三原は僕が1996年に、青山ブックセンターで始めた「編集学校」スーパースクールの第1期生である。
当時は、編集者でスクールをやる人は誰もいなかった。
その時彼女は美術大学で写真を勉強していた。そして、うちの事務所にアルバイトにきて、卒業後は正式に入社して編集者となった。
しかしあまりに編集ができ、なおかつ食べ物好きだったので、僕はユニットを組むことをすすめているうちに、「南風食堂」 が誕生した。
最初は3人組。
僕は彼女たちのスキルをあげるために、スーパースクールでやっていたイベント「ギャザリング」を南風食堂がつくる料理を食べるイベントへとシフトした。
ほぼ毎月、東京のどこかの公園にスクールのメンバーやOBが友達を連れてきて集結し、いいお天気の下で、気の利いた料理をたべ酒を飲んでいたのだから、今からすればなんと呑気でステキなパラダイスな企画であったことか。
その後、三原寛子は独自の才覚でどんどんネットワークをひろげ、南風食堂は、さまざまなアーティストのオープニングパーティやイベントによばれる人気ケータリングユニットになった。坂本龍一さんの健康弁当も作るに至ったのであるから、なんと素晴らしい。
食べ物はイマジネーションを呼ぶ。
三原にTelして、僕の意図を伝えると、すぐに、カカオをたべてアーティストがどんな夢をみるのか、そんな展覧会をやってみたいという返事が来た。さすがである。
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