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アートバーゼル2023、これからのアートワールドの行方は?/一日一微発見381

アートワールドにおけるマーケットのメインステージは、本拠地バーゼルでのアートバーゼルである。
1970年にはじまったから、もう半世紀をこえた。モダンとコンテンポラリーアートが、アート市場のメイン商品であることを明確に位置づけたし、それを裏打ちするアートヒストリ一のアップデートや文脈化、理論化をはたしてきた。

アートコレクターでなくとも、アートワールドの主要なプレイヤーたちは、6月のこの時期にバーゼルを訪れることがスケジュール化されているし、スイスでは近隣都市のチューリッヒやアーラウガー、ベルンなどの美術館もリンクして魅力的な企画展を用意するアートとトラベルのエコシステムが成立している。

僕がアートバーゼルにか通い出したのは、京都造形大学に「アートプロデュース学科」をつくった頃だからもう20年ぐらい前のことになる。
バーゼル時期のスイスがあまりにも刺激的で、15年ほど毎年、皆勤賞で通った。

それだけでなく、バーゼルのサラライトであるLISTEに、magical ART Roomの名義で出展したのが、僕の海外アートフェアのデビューでもあった。magical ART Roomは実験的なギャラリープロジェクトだったが、やはりグローバルなフェアの中に入らないと分からない。

僕が2004年に、アートプロデュース学科の学科長になった時に「芸術編集センター」という研究室をつくり、「アートフェア研究」「現代アー批評研究」「鑑賞者研究」の3本を柱にした。

その時の所員だったのが現在iland by HARUKA ITOを主宰している伊藤悠で、彼女はアプリケーションづくりが上手で、全くの無名で実績もない magical が、LISTEに選ばれた時は心底驚いたものだ。メニューとクオリティある作家・作品が不可欠なのだと思った。

当時はまだ、LISTEで連続4回ぐらい出展できたら、バーゼル本体にランクアップできるというルールが有効だった頃だったから、アンダーグラウンドだったりオルタナティブな価値観をもつ勢いのあるギャラリーがLISTEにはムンムンしていた。

ともあれアートバーゼルとの縁を思い出すときりがないが、あの、リーマンショックでアートマーケットがゆらいだ前後もバーゼルにやってきて、揺れるアートワールド、アートマーケットを体感できたのは面白かった。

2008年前は、たとえばトマス・ヒルシュホンのような、アンチ体制派の作品もバンバン売られていたがそれ以降は、確実に売れそうな作品にしぼられて、それはこの10年ぐらい続いている明確な傾向だろう。

アートバーゼルの背景には、UBSという世界の富裕層の資産をあつかう信託銀行がおり、その商品開拓としてアートが成長してきた。

UBSのマーケットレポートは、ただの売り上げ報告ではなくて、辣腕経済学者クレア・マキャンドルーClare McAndrewが顧問としてアートマーケットのこれからについて精緻な分析を行っている。ちなみに今年からアートバーゼルのディレクターに就任したノア・ホロヴィッツは、彼女の教え子である。

僕がアートバーゼルを見に行くようになってからも、アートマーケットは、グローバル経済の流動性に敏感に反応してきた。と同時に、その変動を的確に読むことでの市場の安定的な処方を開発してきたと言ってよい。

とりわけこの数年は、コロナで延期や中止になったりオンライン化せざるをえなかったわけだからなおのこと。「価値」がゆるがない明確な方向に定まるのは当然といえば当然。

アートバーゼル2023は、280以上のギャラリーを世界から集めて開催された。ちなみに日本のギャラリーのほとんどはバーゼル香港にまわされてしまうので、今や3軒しか出ていない。
アプライが通らないのだと言う。
これでは、才能あるアーティストのグローバルな価値付けやアートコレクターとのマッチングの機会がなかなか無いということになってしまう。

ともあれ、グローバルアートマーケットが、どのような注目すべきストラテジーを出してくるか。また、価値生成のポイントである、文化的なストラテジーも重要だ。

さて3年ぶりのアートバーゼル。
シュピーゲルからホロヴィッツにバトンタッチしたバーゼルは、どのような変化があるのか?

僕はいつも、先にプレスリリースをよく読み、フェア側のステイトメントを頭にいれ、なおかつ出展ギャラリーの変化などをチェックする。そして、ギャラリーが出展しているフロアは後にして、Unlimitedから見るようにしている。

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