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目は旅をする・後藤繁雄による写真集セレクション

ヴィジュアルの旅は、大きな快楽を、与えてくれるし、時には長編小説以上に、人生についてのヒントを与えてくれます。 このマガジン「目は旅をする」は、長く写真家たちと仕事をして、写真…
後藤繁雄おすすめの写真集についての記事を月に2~3本ずつ投稿します。アーカイブも閲覧できるようにな…
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#目は旅をする

安部公房『安部公房写真集』/目は旅をする092(都市と写真)

安部公房『安部公房写真集』(新潮社刊) 2024年は、小説家・安部公房の生誕100周年で、この写真集もそのタイミングで企画・出版された。彼の写真について取り上げるのは、この連載の2回目にあたる。連載の65回目で ウイルデンスタイン東京で行われた個展にあわせて出版された「 Kobo Abe as Photographerカタログ」と『安部公房全集026』(新潮社刊)の写真について書いたのだ。 前回、安部公房の写真について書きたいことのコアは書いてしまったので、今回の「目は旅

マイケル・ホッペン篇『Finders Keepers 20 YEARS: A DEALER'S COLLECTION』/目は旅をする090(魅力)

マイケル・ホッペン篇『Finders Keepers 20 YEARS: A DEALER'S COLLECTION』(GUIDING LIGHT刊) 僕は写真に取り憑かれている人間だが、他にも取り憑かれている人を見つけるのは嬉しいものだ。他には味わえない、深い友情のようなものが湧いてくる。 この本は、ロンドンの写真ギャラリーを主宰するマイケル・ホッペンが2012年に、自身のギャラリー開廊20周年にあたって刊行した750部限定の写真集である。今年の夏(2024年)に、京都で

『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now.』/目は旅をする088(写真の未来形)

『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now.』(Aperture刊) レスリー・A・マーティン、竹内万里子、ポーリン・ヴェルマーレによって企画された写真集『I’m So Happy You Are Here』は、26 名の、日本人女性の写真家をとりあげた重要な写真集/著作であり、その展覧会を 2024 年のアルルの国際写真フェスティバルで見ることができた。 ま

アイザック・チョン・ワイ『FALLING REVERSELY』/目は旅をする086(人間の秘密)

アイザック・チョン・ワイ『FALLING REVERSELY』(ziberman刊) 2024年のヴェネツィア・ビエンナーレのアルセナーレの会場は、3回ぐらい行き来して見直してみたけれど、一番印象的だったのは、パフォーマンス映像を複数の縦画面の大きなモニターで見せていた、香港とベルリンをベースに活動するアイザック・チョン・ワイの作品だった。

ザネレ・ムホリ「Zanele Muholi」/目は旅をする084(私と他者)

ザネレ・ムホリ「Zanele Muholi」(Tate刊) コンテンポラリーアート、そしてコンテンポラリーフォトを考える時に、それらがたどって来た非対称的(アシンメトリー)な歴史(美術史/写真史)をリシンクすることは、避けて通れない必須課題であり、作業である。 西洋の白人男性、それもストレートの性意識の眼差しによって、多くの表現がうみだされ、文脈化、ひいては歴史化、価値の制度化、権力化が行われてきた。近代国家の多くが、奴隷制や植民地支配による搾取で成り立ってきたのだ。

サム・フォールズ『THE ONE THING THAT MADE US BEAUTIFUL』/目は旅をする083(ニューネイチャー)

サム・フォールズ『THE ONE THING THAT MADE US BEAUTIFUL』 (G/P+abp刊) 彼は野外で、感光溶剤を染み込ませた布のキャンバスを野っ原に広げて、その上に、植物の花や葉、茎や蔓を配置して、長い特には、1年間も放置したままにする。大型の日光写真と言っても良いだろう。最近では、布の上に置いた植物の上から顔料をちらし、それが幾層にもなった美しいレイヤーからなる「絵画」や、陶板にも発展させているが、基本的には写真の考えの発展形態と言ってもよい。

アンミ・レー『Small Wars』/目は旅をする081(もうひとつの人生)

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SHIGERU ONISHI 『A METAMATHEMATICAL PROPOSITION』/目は旅をする079(写真の未来形)

SHIGERU ONISHI『A METAMATHEMATICAL PROPOSITION』 (STEIDEL 刊) 大西茂(1928-1994)は、岡山に生まれ北海道大学理学部数学科で博士課程をへて研究室に所属して、「超無限」を研究した。それど並行し、写真作品を作り続け、後年には墨象表現へと発展させた特異なアーティストである。 アヴァンギャルド芸術、実験写真と便宜的に分類されるかもしれない。 瀧口修造は早くから大西を評価したし、また、具体美術協会をサポートしたミシェル

森山大道『Nへの手紙』/目は旅をする067(地図のない旅/行先のない旅)

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ジョセフ・クーデルカ「Josef Koudelka. IKONAR: Archival Constellations」/目は旅をする066(人間の秘密)

ジョセフ・クーデルカ 「Josef Koudelka. IKONAR: Archival Constellations」 (Photo Elysée / Les Éditions Noir sur Blanc) 最初に好きになった写真家はジョセフ・クーデルカだった。そして、その気持ちは今も変わらない。 ロベール・デルピールが編集した写真集シリーズ「Photo Poche」で買ったのもクーデルカが最初だったし、いや、その前に、中学2年生の時にソ連のチェコ侵攻があり、なぜか衝撃

志賀理江子 東京都現代美術館におけるTCAA受賞記念展「さばかれえぬ私へ」モノグラフ『SHIGA Lieko』/目は旅をする064

志賀理江子 東京都現代美術館におけるTCAA受賞記念展「さばかれえぬ私へ」モノグラフ『SHIGA Lieko』(公益財団法人東京都歴史文化財団東京都現代美術館トーキョーアーツアンドスペース事業課発行) 展覧会のフライヤーの解説にはこう書かれていた。 「第3回受賞者の志賀理江子と竹内公太による本展には、「さばかれえぬ私へ / Waiting for the Wind」という言葉を冠しました。この言葉は、TCAA授賞式から始まった志賀と竹内の対話から生み出された、いわば本展で

横田大輔『matter/burn out』/目は旅をする062(東京で)

横田大輔『matter/burn out』 (artbeat publishers 刊) ベンヤミンは、ユートピアへの衝動に終生付きまとわれた。それは一種のメシアニズムであったのだろうが、過去をステップボードにして未来への跳躍を夢見る。しかし、都市の全ての事物はエントロピーを増大させ、瞬く間に廃墟につきすすんでいく。 誰もそれを止めることはできない、救世主を除いては。

ブラッサイ『PARIS DE NUIT 夜のパリ 』/目は旅をする060(都市と写真)

ブラッサイ『PARIS DE NUIT 夜のパリ 』 (みすず書房刊) コロナ期の間に、ウイルスのおかげで世界は随分変わった。アメリカは分断され、ロシアや中国のような、20世紀であればコミュニズムであった国家が露骨に全体主義になり侵略戦争を引き起こし、ついには核戦争に突入しようとしている。 一方では、AIの進化は人間の予想以上に早く、ますます人間の奴隷化、無力化は加速化して行くだろう。 何がこのような「ニューダークエイジ」「ディストピア」への道を牽引しているのだろうか?

バリー・マッギー『TAR PIT. 2021』『Reproduction (stamped edition)』/目は旅をする058(ストリート)

バリー・マッギー『TAR PIT. 2021』(V1Gallery/Eighteen刊) 『Reproduction (stamped edition)』 (Aperture刊) この間、TABF(トーキョーアートブックフェア)があり、僕も自分が主宰する写真集/アートブックのレーベルG/P+abpで出店していた。アートブックフェアには日本だけじゃなくてパリ、アムス、香港などにも出店してきたが、お客さんとの出会いも楽しいが、世界のアートブックパブリッシャーがどんな「本」を作ろ