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インタビュー記事の執筆スピードが落ちたら「3つの“信じる”」で乗り越える
インタビュー記事の作成過程で、筆の進みが遅くなることはあると思います。
「立ち止まっていられないのに……どうして引っかかってしまうんだろう?」。振り返ってみると、そういうときは、3つの“信じる力”が足りていないことに気が付きました。
逆に言うと、この3つを信じれば、どんな原稿もとりあえず次に進めます。原稿をブラッシュアップする段階に早く進むために、意識していることを書きました。
<原稿が進まないときに信じる3つのこと>
1. 自分の構成を信じる
2. インタビュー相手を信じる
3. 編集者さんを信じる
【注意事項】信じるタイミングについて
1. 自分の構成を信じる
自分が作った構成に基づいて執筆を進めているときに、「本当にこの構成でベストなの?」と逡巡していると、なかなか次に進めません。
執筆していると、直感的に「あ、ここ入れ替えた方がいいな」とか、「ここいらないな」とか、パッとわかることがあります。それを実行するのに時間はかかりませんし、直感は案外正しいものですから、すぐに反映した方がいいです。
よくないのは、執筆の過程で文字起こしに戻って、構成をもう一度練り直そうとすることです。こうした行動をしてしまう原因は、「経験に基づく直感」が働いているからではなく、自信のなさにあります。
構成を作成する段階で、出来上がった構成を後からもう一度練り直すことは想定していないはずです。そのときの自分が「これがベスト」と思った構成を一度は作ったわけですから、「過去の自分」の判断を思い切って信じて、先に進みましょう。
2.インタビュー相手を信じる
インタビューは一発勝負なので、大成功するときもあれば、もっとうまくやれたんじゃないかなと思うときもあります。
私は、インタビューの完成度は原稿の完成度とほぼ比例すると思います。それだけに、思うような手応えが得られなかったときは自身のなさから筆の進みが遅くなることがあります。
でも、「インタビューがあの程度だったら、それなりの記事にしかならない」と思って執筆すると、当たり前ですが、その程度の記事にしかなりません。
そんなとき、プロのライターとしてやるべきことは、もう一度音声を聞いて、文字起こしを熟読することです。「インタビュー中に自分の気づけなかったことがあるんじゃないか」と思って、もう一度相手の声に耳を傾けると、びっくりするほど発見があるものです。
「随分話があっちこっちに飛んでいたけど、ここで話したこのことが頭にあったから、ここでこう言う発言をしたのか……」
「抽象的な発言ばかりで十分に理解できていなかったけど、こうしてテキストを見直してみると、一つ一つの言葉のセンスがすごく光ってるな……」
こうしたことに気づいてから書き始めるのと、気づかずに書き始めるのとでは、原稿の仕上がりに雲泥の差が出ます。真摯に相手の言葉に向き合う作業は、インタビュー相手を信じていないとできません。
もう1つ、インタビュー相手を信じているといいことがあります。それは、執筆しながら文字起こしのテキストを頻繁に参照できるようになることです。
もし信じていないと、文字起こしに戻るのは結構面倒な作業ですから、自分の構成「だけ」を信じて突っ走って書き終えてしまうことも可能といえば可能です。文字起こしは構成段階で穴があくほど見ているので、できることなら、もうあまり戻りたくない場所でもあります。
でも、「ここでこんな発言があると文章が締まるんだけどな」とか、「何か自分が見落としている、もっといい発言があるんじゃないか」と思った時に、文字起こしのテキストに身軽に戻れると、思わぬ宝物を拾えることがあるのです。
相手の言葉に最後の最後まで向き合うことは、インタビュー相手を信じていないとできないことです。
3.編集者さんを信じること
原稿を書いているときは、あたかも自分一人が全責任を負っているような気持ちになりがちです。インタビューで聞けたお話が素晴らしければ素晴らしいほど、つい背負い込んでしまうのです。
でも実際、ライターは原稿の制作過程におけるライティングの部分を担っているにすぎません。企画は編集者さんが責任を持って進めているものですし、自分が考えた企画の場合でも、それをOKしてくれた編集者さんがいるはずです。
それなら、企画そのものの品質や編集者さんの判断を信じるべきです。多少自分がうまくない書き方をしたところで、編集者さんは気づいてくれますし、企画の骨子がしっかりしていれば、ライターが誰であれ、初稿の完成度がどうであれ、その一連の仕事はちゃんとした形で終わるのです。
だからライターは、無理に一人で背負いこむ必要はありません。プレッシャーを必要以上に感じてしまっているときは、自分を少し大きく見すぎてしまっていると思って、編集者さんを思い切って信じてみる。そうすると、肩の荷が下りてとりあえず前に進めます。
しかし編集者さんを信じようと思っても、そもそも信用できない人を信じることはできません。信用できる編集者さんとお付き合いすることはとても重要です。
「あとで全部ひっくり返されるかもしれない」とか、「責任押し付けられるかもしれない」とか思ってしまうと、どうも原稿に身が入りません。特に編集者さんと上限関係のような関係性になってしまっている場合は要注意です。世の中そうでない、対等な立場で仕事をしてくださる編集者さんもいらっしゃいます。そうした方と一緒に仕事をすることも、良い原稿を書くために必要なことです。
【注意事項】信じるタイミングについて
原稿を書く手が止まったときは、自分、インタビュー相手、編集者さんの3者を信じることで、とりあえず先に進めるとお伝えしました。
ここで、一番大事なことをお話ししたいと思います。それは、「この3つを信じるのは、原稿を書く手が止まったときであって、それより前ではない」ことです。
もし、最初から3つを信じていたらどうなるでしょう。
自分や周囲の力を過信したために、インタビューへの熱意は下がる。文章は隙だらけになる。出来上がるのは、責任感のかけらも見えない、誰も幸せにしない原稿です。
ライターは、筆が止まるギリギリ限界まで、自分で全責任を追う覚悟でインタビューと執筆に向き合うべきです。
そういう覚悟で仕事に臨むからこそ、ライターはインタビュー相手とも編集者とも、対等な関係性を築くことが可能なのだと思います。
信じるべき人を信じて良いのは、本当に困ったときだけーー。そう言い聞かせて仕事に向き合うと、品質の高い、スピード感のある仕事ができるのではないかと思います。