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なぜ働くのか?

「なぜ生まれ、死んでいくのか?」という記事で、生物の「生と死」の理由や遺伝子のすばらしさを確認したあなた。

 この記事では、①あなたの身体のすばらしさ、②生命を保証する生態系の仕組み、③働かなければならない理由について解説していきましょう。 


 

身体はまるで「芸術作品」のごとし

あなたの身体の出来栄えは、半端なものではありません。あたかも「芸術作品」のごとく実に精巧につくられています。

 少し具体的に主な器官のすばらしさを述べてみましょう。

 まずは脳。それは、「脳幹」「古い皮質」「新しい皮質」の三つから成り立っています。そのうち、考えたり、見たり、感じたりといった、いわば知的な機能を担っているのが、「新しい皮質」です。

 この大脳新皮質には、脳全体のおよそ10%にあたる140億個の神経細胞(ニューロン)があります。シナプスと呼ばれる神経細胞のつなぎ目と緻密なネットワークをつくり、視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚を通じて入ってくる情報を必要なところにすばやく伝達します。もし、このメカニズムを機械でつくるとすると、東京ドームぐらいの大きさになるといわれています。

 次は、地球上で最も高性能な化学プラントともいうべき肝臓です。それには、500種類以上もの機能があります。そのうち、かりに糖の代謝機能だけでも人工的に代行させようと思えば、それだけでビル1棟分の化学プラントが必要になるそうです。

 栄養素を吸収する役割を果たしている小腸の長さは、6メートル。粘膜の表面積は、約200平方メートル。ほぼテニスコート一面分に匹敵する大きさです。

 毛細血管の内壁の表面積を合計すると、6000平方メートルほどの広さに達します。体内の血管の長さを総計すれば、なんと10万キロメートル。地球を二周半する長さです。

 あなたの体内では、毎日数千個のガン細胞が誕生しています。が、リンパ球のなかにあるNK細胞によって排除されています。

 いずれも、「神のなせる技」としか形容しえないほど、実に神秘的にできあがっています。しかも、多様な生命現象自体を細かくみていくと、さまざまな生体分子は、きわめて精巧なシステムとメカニズムによって支えられていることがよくわかるでしょう。大量のエネルギーを使ってはじめて動く人工的な機械の動作原理とは異なって、生体分子は、極めて高いエネルギー変換効率を誇っているのです。それを人工的に再生するのは、至難の業なのです。

 精巧で、しかもパワフルなメカニズムを有した存在、それがあなたなのです。 

宇宙という環境下でしか存在できないあなた

精巧につくられた人体のシステムは、けっして単独では働きません。

 それは、人間を取り巻く自然環境、すなわち、この世に存在するすべての生命が関わっている「生態系(エコシステム)」に包摂されているからです。それとの密接な関わりのなかでしか機能しないのです。

 しかも、生態系は、地球外の宇宙環境、とりわけ太陽との密接な関係のなかでしか維持できない仕組みになっています。 

光合成が作り上げる生態系の仕組み

生態系の基礎は、「母なる森」です。森林は、水とともに、地球上に住むすべての動植物の生存を左右しています。地球が「生きる惑星」と呼ばれ、それ自身があたかも生命体のごとく機能することを可能にさせているわけです。

 木の葉は、太陽の光を利用して光合成を行います。

光合成ができるのは、1億5000万キロ離れた太陽のエネルギーがあるからです。木は、大地から水を、大気から二酸化炭素(=炭酸ガス)を取り入れ、それらを炭水化物に変えます。

 木を含む緑色植物は、「生産者」と言われています。他方、人類を含む動物は「消費者」となります。生産者である植物を食べて、その炭水化物を活用して生きているからです。

 動植物の遺体を分解して無機化する役割をみごとに演じる土壌中の微生物(菌類やバクテリアなど)は、「分解者」として位置づけられています。この分解者のおかげで、栄養素がまた生産者へと還元されることが可能になります。バクテリアもまた、生態系のなかで、しっかりとした役割をもっているわけです。

 このようにして物質の循環が行われます。それは、自然が作りあげた実に巧妙なシステムというほかありません。

 人間の身体や脳には、たしかにすばらしい機能が付与されています。でも、動物である人間はけっして自力で栄養素をつくることができません。人類を含む動物は、植物なしでは生きることができないのです。

 日本人には「いただきます」といって食事を始める習慣があります。その点に端的に示されているように、人間は、食糧としてほかの生物の「命をいただく」ことによってしか生きることができない存在なのです。

 「動く生物」である動物は、食べ物を求めて、動き回ることを宿命づけられています。他方、植物の方は、別に動物がいなくても生存できるのです。その場でじっとしていても、栄養素をつくりだすことができるからです。

 無数の生物が、さまざまな環境のもとで、生まれたり死んだり、助けあったり、殺しあったりと、多様な行動をとっています。それでも、全体として生物界が一定のリズムをもって維持されているのは、生態系が円滑に機能し、すべての生命が相互に依存しあっているからです。この仕組みを健全に保つことによってしか、人類の生命も保証されないことを忘れてはならないでしょう。 

なぜ働くのか?

「なぜ働くのか」

「働かなければならないのか」

 もし、それらがあなたの悩みごと・疑問になっているのであれば、答えは簡単です。

 あなたは動物なので、自分で栄養素をつくることができません。だから、動き回って食糧を確保するという宿命のもとで生きているからです。

 食べ物を得るために、人類は、自然にあるものを採集したり、狩猟を行ったり、種をまいて収穫したりする活動を行ってきました。貨幣経済が定着したいまの時代にあっては、食糧を獲得するには、働いてお金を稼ぐことが必要不可欠な活動になっているのです。

 ここをおさえたうえで、働くことの意義をあなたなりに考えていけば、ときには愚痴と不平不満が出るにせよ、それまでとは異なった角度から、仕事とか人生とかを見ていくことができるのではないでしょうか。

 凛と生きている草花や木々の姿! ひょっとしたら、畏敬の念を抱くことができるかもしれませんね。 

【主な参考文献】

・餌取章男・菅沼定憲『ナノテクノロジーの世紀』

・小田 亮『ヒトは環境を壊す動物である』

・吉良竜夫『生態学からみた自然』

・産経新聞社「未来史閲覧」取材班『未来史閲覧』(全2巻)

・カ-ル・セ-ガン/木村 繁訳『COSMOS』(全2巻)

・竹内 薫『脳のからくり』

・豊川裕之、岩村吉晃、兵井伸行『人体68の謎』

・日本環境学会編集委員会編『環境科学への扉』

・半田節子『人体の不思議 あなたの身体はミステリーの宝庫』

・松本健太郎『大学生のためのドラッガー2』

・三橋規宏『地球の限界とつきあう法』

・森 建『人体改造の世紀』

・柳澤桂子『われわれはなぜ死ぬのか』

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