聞くということ-能力グレードアップ講座2
大学に入学して間もない頃に出席したある講義。場所は、大講義室でした。
学生たちにわかりやすく話そうという考えなど持ち合わせていないように思える教官。専門用語のオンパレード。まじめに聞こうとしている学生があまりいないにもかかわらず、さほど気にならない様子。学生の中には、ひそひそ話をしたり、雑誌を読んだり、寝ている者も。
そんなとき、話に夢中になっていた一人の男子学生に腹を立てた教官は、「出ていきなさい」と一喝。彼は、なにも言わずに退室。そのあとの教室内、終業まで白けた空気がずっと漂っていました。
退出した学生の肩を持つわけではありません。しかし、学生たちに難解な話をして、理解を促そうとしない教官には、落ち度はないのか。ほとんどついていけない話をするという、教える側の行為に、改善の余地はないのか……。ついそのような疑問を抱いてしまった大学一年生の4月でした。
年月が流れ、講義をする側になったわたし。「ストップ! だれも聞いていない講義」をめざして、さまざまな努力をしてきたつもりではあったのですが……!
「聞くチカラ」の大切さ
「人の話を聞くことにより人生の80%は成功する」
カーネギーホールで有名なデール・カーネギの言葉です。
コミュニケーション力のうち、最も重視されている「聞くチカラ」。相手の言うことを正確に聞き取ることは、意思疎通のキホンです。「聞き上手」の人は、ほかの人からも好意的に受け止められます。そのメリットは、はかり知れません。
相手の話を聞くとき、最も大切な点は、「聞こうという意志」を持つこと。本来ならば、「注意力を傾け集中して聞く」トレーニングは、最優先課題のひとつとして取り組まれるべきものです。
人の脳は、さまざまな音源から意識的もしくは無意識的に音を拾いあげ、意味づけを行い、記憶しています。そのとき、「聞こうという意志」がなければ、相手の話は、ただの「音」にすぎません。意識を高めて聴こうとしてこそ、脳の機能が十分に発揮されるのです。
日本の学校教育の中では、聞くチカラを鍛えるトレーニングは、ほとんど行われていません。授業など、みんながよく聞くというのが前提になっているようです。
大学に入学してくる学生たちの多くは、「聞こうという意志」をもって授業に参加しているわけではありません。それが現実です。
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