『七つの魔剣が支配する』に脳が完全支配される理由【10巻記念ネタバレ感想】
※冒頭はネタバレ無しです、未読の方もご安心を
ライトノベル『七つの魔剣が支配する』(ななつま)があまりにも面白すぎます。
2019年に投票された『このライトノベルがすごい! 2020』では文庫&新作部門のW1位を獲得しており、僕もそれを機に読み始めたのですが、巻を重ねた今も熱い……ノン、巻を重ねるごとに天井知らずに面白くなっています。
魔法と剣術を絡めたバトル、というセールスポイントを中心に。
魔法学園の若者たちの、熱い友情と激しい競い合いが。
人類の可能性を拡張すべく、人道を外れてでも邁進する魔法使いの生き様が。
守り救いたい願いと、復讐を果たす決意が。
どこまでも深く広がってゆく世界の中で絡み合う、愛憎に満ちた一大群像劇となっております。
過去の強敵は未来の盟友、過去の朋友は未来の宿敵。それを何十人もの間で濃厚に描いている。
青春ストーリーとして、バトル小説として、ダークファンタジーとして、物凄い領域を突き進んでいるのでは……そんな感銘が溢れた、シリーズでも節目となる最新10巻。
このタイミングで、これまでのシリーズの魅力をまとめてみよう、というのが本稿です。
・ロジックと熱量を凝縮した戦闘描写
・関係性も印象も目まぐるしく変わる群像模様
・業を背負って地獄を進む生き様
・ファンタジー設定を活かしきった、壮大かつ壮絶な作劇
・ハリポタとかJRPGとか少年漫画
・ハピエンは無理そうなのに尊すぎるカプ
・愛し合いながら滅びていくカプ
・殺し愛
あたりが好きな人は、ぜひ一巻から。
(追記、アニメ完走者向けのレビューも書きました)
そして以下からは全巻のネタバレを含みます、未読の方は自己責任で。
第一章 作品構造〈ストラクチャー〉~常に複数の軸が絡み合う、強すぎる構造~
シリーズを引っ張る複数の軸
『ななつま』のストーリーの第一の主軸が何かと言われれば、「オリバーたちによるキンバリーの教師たちへの復讐」になると思います。実際、山場がそこに来るようなシリーズ構成になっています。
けど、それと直接関係のないイベントも多いです。巻数でいえば、復讐戦をやっていない巻の方が多い。
ではここで、『ななつま』のストーリーの軸、つまり物語を推進している要素を整理してみましょう。
※本稿ではエピローグを除き、具体例を記した部分に引用マークを付けています。
配分の差こそありますが、ざっと挙げただけでも6種類。全然MECEじゃないので分類に改善の余地はありそうですが、多彩なことは確かです。
こうした軸が作用しあいながら、常に盛り上がりを作り、キャラクターの心理や世界の背景を深掘りしていく。
マルチ軸×サプライズによる没入感
例えば1巻だと、
……というように。常に複数の軸で物語を引っ張りつつ、エピローグでサプライズ的にシリーズ全体の主軸を明かすという構成でした。
「は~面白かった!」と安心しきった頬を張り飛ばされる、と言いますか。
そしてこのサプライズ感は他巻でも見られます。
2巻のクライマックスは1年生最強決定戦の3on3(オリバー、ナナオ、シェラ VS. ステイシー、フェイ、オルブライト)から始まりました。
オリバーたちが勝利し、シェラとステイシーが仲直り……と思いきや、オルブライトの仕掛けた罠が発動。それを察知していたカティたちも加わって応戦。
やっと平和が訪れた……と思いきや、オフィーリアのキメラがピート&オルブライトを誘拐、すぐに続巻にもつれ込みます。
7巻ラストでのリヴァーモアの暴挙、10巻でのデメトリオによる魔剣発動あたりも印象深いですね……そのうちレギュラーの急死とかありそうな。
複数巻をまたいだ、贅沢な布石
そしてマルチ軸が特に光っていたのが6巻~10巻……既刊の丸々後半、ちょっと幅を取り過ぎかもしれませんが、ここのサンドイッチが凄いんですよ。
そしてこの5冊ぶんの物語は、ユーリィの誕生と消失の物語でもありました。6巻で奇妙な登場をしてから、決闘リーグでも大活躍しつつデメトリオの関与を垣間見せ、10巻ではその存在を懸けてオリバーの勝利を導く……そうと分からない頃から、オリバーVSデメトリオの布石をユーリィが担い続けていた構成です。
これだけ多数の軸が存在していながら、1つ1つのバトルやドラマが常に最高級。決闘リーグでの数々の名勝負は珠玉だったし、後述しますが6巻のアシュベリー&モーガンが本当に好きで……
というわけで、次はバトル要素の話です。
第二章 戦闘表現〈バトルアーツ〉~精緻に積み上げ熱く魅せるななつま流~
学園モノならではの要素の積み方、小説ならではのロジカルな詰め方
本作の序盤で感じていたバトルの魅力は、シンプルに「魔法×剣術をガッツリやるの格好いいじゃん」というビジュアル面でした。これはこれで確かに強い魅力ですし、アニメ化で存分に動きを見せてくれるのが楽しみでなりません。
しかし10巻まで読んでの本質的な魅力は、
……という3点コンボのサイクルにあると感じています。
本作、戦闘に登場する技術や理論が非常に多いです。
メインとなるのが魔法剣×呪文による戦闘ですが、単なる「近接技と遠隔技」ではありません。姿勢の制御、移動や体術の強化、地形や環境への干渉……人とフィールドの全てを巻き込んでの戦いになります。剣術の派生で格闘に発展することもあれば、魔法の結果が思わぬ現象へつながることもある。
そして巻を進むごとに、新たな技術が登場していきます。その技術が授業科目であるのも、学園モノとして嬉しいですね。
魔法生物学、錬金術、魔道工学、呪術……いずれも最初は授業で扱われ、その後に戦闘で重要な役割を演じています。特に呪術は「殺されることで真価を発揮する」性質がハードな作風を象徴しているようで大好き。
加えて、生徒や教師ごとの固有技能がありつつも、基本的なルールからは逸脱できないというバランス感覚が良いです。
固有技能、いっぱい出ましたね……ナナオの刀さばきは異才の権化ですし、フェイの半人狼はステイシーとの関係性もあって泣けた、決闘リーグでのヴァロワ戦も印象が強すぎます。そして教師陣の極まり方は言わずもがな。
しかしどんなにユニークな武器があっても、誰もが同じ制約を背負っています。
「こんなこともできる」を広めつつ「けどこれは無理」を確実に決めておく。だからこそ、説得力のある逆転劇がめちゃくちゃ面白い。
そう、説得力。攻防の一手一手から結末まで、極めてロジカルに構成されています。三人称寄りの視点から、お互いの持ち札と思考を描き、緻密な頭脳戦と迫力あるアクションを同時に組み上げていく。
「このキャラならこう戦うよね」と安心感を与えつつ、「そんな反撃が!」「実はこんな布石が!?」という驚きを読者も一緒に味わう。この驚きを、敵味方どちらの視点からも堪能できるのが良いところ。
作中でも「詰め」という言葉が多用されますが、まさにボードゲームやカードバトルに近い面白さでもあります。この構築の仕方、宇野先生の作風はオリバーの戦術眼に近いとも言えるような。
条件・状況のバリエーションが生む深み
そして、登場するバトルの舞台や状況が多岐に渡っていることも非常に重要でしょう。
ルール無用で死ぬまで戦うか、あくまでルール下での試合や決闘なのか。一対一なのかチーム戦か、あるいはどれだけ勢力が混在しているのか。魔法使い同士なのか、人外の生物も交えてなのか……など。
こちらも授業のように、巻を追うごとに複雑になっていきました。
これだけ多彩な構図に、さらにフィールドのバリエーションや新キャラまで絡んできます。この掛け算の妙が、巻を重ねるごとに味わいを深めまくっていく。
10巻でのミリガン隊VSデシャン隊とか、見慣れてきた3on3なのに驚きだらけで最高でしたよね……決闘リーグでの制約を描いてきたからこそ「誰も考えなかっただけで」「ルールには収まってる」が活きてくる。
さらに、戦う状況が試合から死闘まで幅広いことで、人間関係の熱さと切なさがどんどん高まっていきます。
第三章 友情と別れ〈ディスティニー〉~熱い絆と壮絶な別れ~
戦いが育む友情
本作での仲良しといえば剣花団、それは間違いないです。それぞれに重い悩みを抱えつつ、励ましあって試練を乗り越え、ときには年相応のはしゃぎっぷりを見せてくれる6人。あどけなさと逞しさのギャップ、尊いことこの上ない……
しかし、一度は敵対した者たちが絆を結んでいく展開も熱いです。むしろこちらが本領ではと思うほど。
主軸がオリバーによる復讐(=教師の殺害)にあるとはいえ、人の死なないバトルの方が多い物語です。ゆえに、剣を交えた彼らがそれまでと違う関係性を歩んでいくこともしばしば。
そして、戦いでしか表せない熱情
しかし!! やっぱり!! アンドリューズですよ!!! リックおいリック!!!!!
1巻では噛ませのお手本のような性悪ムーブを見せつけつつ、ガルダ戦の土壇場で勇気を見せた彼。ただここでも、ナナオとオリバーの精神性を象徴する一幕だった……という印象が強かったです。
からの、9巻。表紙と巻頭イラストを大々的に飾りつつ、ついに迎えたオリバーとの公式戦。
というか、デート!!! もうデート!!! そりゃナナオもぶち切れる!!!!
アンドリューズが溜め込んできた後悔と憧憬、だけでなく。
それを受け止めて心を躍らせるオリバーが、とても眩しかった……彼があそこまで戦いを楽しめていたの、相当に珍しいですからね。
入学初日から友情を結んでいた剣花団とは対照的な、3年目の友達宣言。大好きなシーンです。
ホーン隊VSアンドリューズ隊、ほか4人の心理の描写も素晴らしかったですよね……炸裂呪文に突っ込んだナナオの「退けば敗ける」とか特に。
そしてライバル巨大感情といえば、現生徒会と前生徒会。
決闘リーグのゴッドフレイ隊VSレオンシオ隊、章題が「宿敵」と書いて「ラヴァーズ」だった時点で超強火だったわけですが。
レセディVSキーリギさあ~~~というかキーリギ→レセディの拗らせ感情さあ~~~なんですか宇野先生は殺伐屈折百合がお好きですか~~~もっとください先生!!!
……という、殺さない試合ならではのドラマが存分に描かれていますが。
殺し合いでは容赦なく、人が死んでいきます。
一方で若き命が散る、血塗られた復讐
オリバーたち同志の復讐の戦い。殺すことを絶対の目的としたエンリコ戦とデメトリオ戦では、生徒たちが命を落としました。合わせて20名以上、ネームドキャラもいます。
注目すべきは、ここに挙げた者は全員、自らの死を受け容れて敵へ立ち向かっていったことです。
ロベールとカルメンは殺されることで呪詛を発動させるため、カーリーは自爆で敵を追い詰めるため、そしてユーリィはオリバーの勝ち筋を自ら導きました。
ジャネットに至っては、「戦闘の要であり愛する人でもあるグウィンを」「身を挺して庇った上で、彼が自分を見捨てて仲間の援護に向かうことを正解とした」最期でした……大怪我でも治癒魔法でなら助けられる、それを知っているからこそ選択の重さが際立つ。
……宇野先生、キャラの死に様を考えさせたら超一流ですよ本当。
そして、キャラの人生の終着点は戦場だけでもありません。
魔道の果ては、いつだって死の気配に満ちています。
第四章 道の果て〈クライシス〉~絆を深めた彼らを待ち受けるのは、共闘か対決か~
※多分、対決なんですけどね。
求道者とその友の結末
この2つの結末、僕は非常に好きです。
命を懸け、周りを巻き込みながら魔道を追求するキンバリーの世界観を象徴しているから……というだけでなく。
その旅の果てには、自らを犠牲にして共にケジメをつけてくれる友がいる、というのが特に。キンバリーでの友情、「君とずっと一緒に生きていたい」ではなく「お前のためだったら死んでやる」が似合う。
オフィーリア&カルロスの場合は、二人とも「自らに課せられた宿命」を突き詰めた結果です。大人に背負わされた宿命であっても、宿命を越えて心と心で向き合った。
一方のアシュベリー&モーガンの場合、あそこでアシュベリーが対処する必要はありませんでした。ダスティン先生が考えていた通り、他の教師が即座に対処に来たはず。
しかしアシュベリーはそれを拒んだ、自分の人生のゴールをモーガンに決めた。モーガンが「自分を見守ってほしい」というアシュベリーの願いを叶えてくれたから、アシュベリーはモーガンの「しくじったら他人を巻き込まずに死にたい」という願いを叶える。お互い、その対価が命であることを承知で。
その熱さゆえに、6巻ラストは何度読み返しても泣かされます。
かつての友と戦う宿命、宿敵との共鳴
その一方で、かつての仲間たちが対峙する……という展開も多いです。
3巻でも、自警団で共に活躍していたオフィーリアが生徒会メンバー(ティム、ゴッドフレイなど)と対決してきた様子が描かれました。
誰も死ななかったとはいえ、立場の違いによって敵味方が分かれた……という構図は、8巻でのゴッドフレイ派VSレオンシオ派の迷宮での戦闘も同じです。
そして10巻で垣間見えてきたのは、オリバーの母クロエの暗殺を巡る経緯。
クロエはかつて異端狩りとしてキンバリー教師陣と共闘しながらも、異界に対するスタンスが彼らと食い違うように。
ただ暗殺の契機となったのは、ずっとクロエと親しかったらしいエスメラルダでした。「クロエの小判鮫」(byシャーウッド爺さん)と揶揄されるほど熱烈にクロエを慕っていたエスメラルダがどうして裏切ったのか、それはこれから明かされるでしょう。
ただ、エスメラルダの「愛しい友を手にかける」選択は、いずれオリバーが背負うことになる……というより背負いかけていると僕は解釈しています。
そもそも、オリバーの来歴と過去は、対決してきた生徒や教師たちとよく似ています。
母を惨殺された怒り、シャーウッド家での酷い仕打ち、望まぬ性交でシャノンに宿った娘すら死産となった喪失感と罪悪感。それらを燃料に、オリバーは自らの心身を痛めつけ、偉大な魔法使いに刃を向け、仲間を死線へと送り込んでいます。おおよそ人の幸せとはかけ離れ、社会の倫理観にも背いている。
しかしその道を苦しみながら歩むことがオリバーの生き様であると、誰よりもオリバー自身が信じています。ゆえに彼は第四魔剣を手にすることができた。
一方の宿敵たちも。大事なものを奪われた過去を、守れなかった罪を背負い、敵に報いるべく人道を外れた研鑽を積んできました。
エンリコは他者の命を利用して究極のゴーレムを作った、その残酷さの裏には「異端狩りで失われる人命を救いたい」があり、異端に巻き込まれた幼馴染みとの悲痛な別れがあった。
デメトリオとオリバーは記憶を共有し、お互いの在り方が似ていることを思い知りながら……知ったからこそ、信条を譲らず殺し合いを続けた。
壮絶な過去ゆえの異様な在り方という意味では、オルブライトやヴァロワも近いです。
何よりエスメラルダも、かつてはクロエに憧れ、裏切り、今は彼女の力を宿す者です。オリバーにとって、このうえなく自分に似た宿敵として描かれそうです。
彼らを分断する正義とは、世界の行き先とは
作中世界では「保守派」と「人権派」と思想が区分けされており、キンバリー教師陣を含め敵陣営には保守派が多い……という印象ですが。
保守派の根本的な理念はというと、「特に異界から、人間の文明を確実に防衛し、人間の豊かさを維持すること」「その体制の維持・強化は、人権・人道よりも優先される」になります。キンバリーの異様な実力主義も、魔道追求が人類の防衛力につながるという大義に裏打ちされている。
それに対して「さすがに従来の社会は人権・人道を軽視しすぎでは」「より優しい方法もあるのでは」と異議を唱えるのが人権派といえそうです。ミリガン先輩とかは違いそうですが。
その人権派という枠組みを越えて、敵である異界にすら惹かれているのがカティですね……
そう、最終的には「異界という絶大な脅威に対処するための構造的・精神的な方法論の違い」に行き着く。その異界の恐ろしさも繰り返し描かれてきた。
オリバーたちの宿敵であるキンバリー教師陣は、異界に対する防衛戦力の要でもあります。つまりオリバーたちの復讐は、人類側の現有戦力を削る行為だという側面もある。
そして、オリバーたちの目的が「七人の宿敵を殺す」の先にあることも示唆されています。クロエが提唱していた人類の新たな可能性、それを実現するのが最終的な目的のはず。
(この具体的な中身、もうちょっとテンポ早く明かしてくれてもいいのでは~とは思っていますが、宇野先生には面白く提示する勝算があると信じて)
とはいえ。クロエ説の実現性は未知と言わざるを得ないですし、人権派といえども「いま人類側の人材を殺すのはマズイっしょ」と反発する人は多いはずです。
またオリバーたちは、ミリガンやカティといった面々を引き込もうと画策しています。魔に呑まれかけている生徒をスカウトしてきたことから、意外な人物が「同志」に加わることも考えられる。
さらにさらに、セオドール=マクファーレンの目的がかなり謎なんですよね。キンバリーの教師であり、エスメラルダ派に近い立ち位置にありながらも、クロエとの約束を引き継ぐべくナナオを見出したかのような言動を見せている。
つまりこの先、復讐戦を軸にした敵味方がどうなるのか、人類世界がどこに向かっていくのか、全然分からないんですよ。ななつまチョットワカッテキタのに、なんもわからん……
剣花団の運命とは
復讐戦や政治闘争以前に。
ナナオの「愛するオリバーと死ぬまで斬り合いたい」という願望が、本作の一つの軸です。そして宇野先生が、今さらになって「やっぱり生きて愛し合うのが大事だよね」とナナオに改心させるとは思えない。
オリバーVSナナオをどう実行するのか、あるいは妨害させるのか……それが終盤の核の一つになりそうです。セオドールの計画を絡めつつ、同志の復讐戦にどう関わるのか。思いもよらぬ形でテレサからの嫉妬が爆発しそうで怖かったり。
そしてカティも異様な魔道へと突き進もうとしています。
オリバーとデメトリオは似ているという話は前述しましたが、ここにカティも含まれるんですよね。自然の摂理が持つ残酷な側面に耐えきれず、自らを犠牲にしてでも他生物を守りたいと願ってしまう。全てを救えないなら、せめて知りたいと踏み出してしまう。1巻でトロールと対話を試みたことも、9巻ラストで「渡り」の柱精に触れたことも、行動原理としては同じでしょう。
カティは自然の摂理に従って虐げられる痛みを、デメトリオは数百年かけて出会い失ってきた人々の夢を、オリバーは救えなかった命と葬ってきた命を、背負い「持っていく」人生を進んでいます。であれば、キンバリー教師陣やオリバーたち同志に匹敵するほどの影響力をカティは秘めているのでは……と僕は解釈しています。
そうしてそれぞれの道へ踏み出していくオリバー・ナナオ・カティを止めたいのが他の三人。ガイはカティのフォローに苦心していますし、シェラとピートはより先鋭化しています。「剣花団を永遠にしたい」という軸で意外な共鳴を見せた二人は、力尽くで友を止めることも辞さないでしょう。
オリバーたち同志に立ちはだかる壁に、シェラ&ピートも加わる……かな?
オリバーたち同志が掲げるクロエの理想が、他5人の目にどう映るかも重要ですよね。それを問うためにも、クロエとエスメラルダの間にあったことが非常に気になります。このシリーズでこんな百合を見せられるなんて、なんて……!
あと恋愛事情の布石も着々と進んでいますね。キンバリー在学中に出産を迎える夫婦も多いそうですし、つまりは……幸せな場合を考えれば子供も含めた仲良しコミュニティ、残酷な場合を考えれば夫婦の殺し合いや巻き込まれる子供。
どっちが『ななつま』らしいかと言われれば、ねえ?
エピローグ~本当の支配はここから始まる~
ここまで1万文字、お読みいただきありがとうございました。
実を言うと、僕は9巻まで「すごく面白いけど、ちょっと要素多すぎて消化しきれてないなあ……」という感覚で『ななつま』を読んでいました。読み出したときに脳の余裕があんまりなかったこともあり。
ただ、それが非常に勿体ない状態だとも思っていまして。
せっかくならしっかり消化したいし、目的があった方がいいから10巻に合わせてレビューを書いてみよう……と、メモを取りつつ1巻から総復習したのが今回でした。
結果、ありえんくらい面白かったです。
ここまで周到に、縦横無尽に計算を巡らせながら書かれているとは、初読のときは感じていませんでした。今だって、その面白さを十分に書けたとは全く思えていません。キャラの話とかしていくとキリないですし、オマージュとか現実世界からのサンプリングとか全然追えてないでしょうし。
そして、こうした巧さが以降への布石になることも確実だと言い切れる心理になっています。
タイトルにある「七つの魔剣」ですが、10巻までに作中に登場したのは4つです(オリバー&クロエの第四、ナナオの暫定第七、セオドールの第二、デメトリオの第五)
オリバーたちは3年目を終了、果たした復讐も7人中の3人目……ということからも、ちょうど折り返しに差し掛かったのが現在でしょう。
戦いにおける技術と心理、世界を構成する要素、友情と愛憎が入り乱れる群像劇、それらを巧みに見せていくセンスとテクニック……じっくり煮込んできたななつま流は、これからさらに異次元の旨味を届けてくれるに違いありません。
最後に、本作の楽しみ方について。
好きなブロガーさんが書いていて非常に便利な概念なのでよく引用しているのですが。
本作は「キャラを活き活きと描き感情移入させる」と「そうしたキャラたちを容赦なく動かし、怒濤の作劇を見せる」を両立しています。それも、前者を後者に取り込んでいく成分が濃い。
だから作劇派寄りの読者や、「キャラ派的に入って作風に合わせて作劇派にシフト」する僕みたいな読者にはバッチリ合うと思います。
しかし純粋なキャラ派というか、「キャラが試練を乗り越えた先には、幸せな人生が待っていてほしい」人にとって、最近の展開はあまりに辛いのでは……と思うこともあります。そうした人こそ没入できて面白いのかもしれませんが。
教師陣はともかく、剣花団は誰も欠けず争うこともなく幸せに卒業してほしい……という気持ちは僕も分かります、別作品だったらそう願うことも多い。なので、オリバーたちの痛みが辛くてノレない、という感覚も決して間違ってはいないと考えています。
ただ、あくまで僕の感想ですが、挙げてきた壮絶さや悲痛さ、皮肉さこそが『ななつま』のコアの味わいだと思っています。
宇野先生にはそれをやり抜いてほしい。
1巻の最後、何度読み返しても震えるほど格好いいこの文言。
魔法剣のコンセプト、魔法使いたちの在り方を描いただろう言葉であると同時に。
この物語の本質を示した文章でもあると思うのです。
どんな言葉でも止まらない、妥協や交渉が通じない二つの剥き出しの魂が、儚くも烈しく刃を交える。
強すぎる縁と因果で結ばれた二人が、後は死ぬまで斬り合うだけ――そんな関係性こそが、物語の本質。
宇野先生のバトル構築はオリバーらしいと前述しましたが。
こうした物語の本質は、あるいはそこへ突き進む潔さは、ナナオの生き様に近いようにも思います。
その生き様と死に様の終着点を、何としても見届けたい。
物語による支配が着々と進んだ脳で、これからも読んでいきます。
以上。あなたと『ななつま』の関係が豊かになる、その仲立ちを少しでも本稿が果たせたなら幸いです。