アンパンマンの心理学 子どもに愛される3つの秘密 臨床心理士が分析
<はじめに> アンパンマンはなぜずっと人気なのか?
皆さん、こんにちは。臨床心理士のいちかです。
子育てをしていたり、子どもとかかかわる仕事をしていると、実にアンパンマンが子どもに人気で、子どものいるところに「アンパンマン」グッズがあることに気が付かれると思います。
実際、バンダイ社が行っているお子様が好きなアニメランキングでは、2002年から2018年まで、途中2~3年を除き、全ての都市で好きなアニメランキング1位獲得しています。
特に2歳以下では断トツで1位人気です。
しかし、たくさんの素晴らしいアニメが量産されるなか、アンパンマンはなぜずっと人気なのでしょうか?実は、この疑問には心理学的な観点から主に3つの要因として説明ができます。
これを知ると、人間の根源的な趣向や、0~2歳の子どもの発達的特徴をよりよく理解でき、子どもとより楽しく接するヒントになります。
本日はアンパンマンの心理学的魅力について、主なもの3つをご紹介いたします。
アンパンマンが愛される3つの理由
アンパンマンがこれだけ長い間、0~2歳に愛される理由はなんでしょう?
キャラクター?ストーリー?
そんな大雑把な説明ではなく、心理学的観点から見ると、
科学的な根拠をもとに説明できることがたくさんあります。
代表的なものは以下の3つです。
これから以下に詳しく説明していきます。
五感で愛されやすいキャラ設定
まず、アンパンマンの世界観は未発達な乳幼児の五感を刺激しやすい特徴をふんだんに持っています。
たとえば視覚で言えば、乳幼児が好む〇、△、□などのシンプルな形を使ったキャラクターが多いですし、顔はまるい大きな顔、低い目鼻、両目が離れています。
これは「ベビーシェマ」と呼ばれ、見る者の心を開き、共感を覚えさせる機能を持つ赤ちゃんの顔に近い造形になっています。
またキャラクターの色は赤・青・緑・黄という、子どもが知覚しやすい色を多く使って乳幼児に知覚しやすい特徴があります。
次に、キャラクターは人間ではなく、食べ物をモチーフにしたものが多く登場し、味覚・触覚・嗅覚を刺激します。
さらに乳幼児が発する喃語に近い文字が「あ」「ん」「ぱ」」「ん」「ま」「ん」に全て入っている聴覚になじみやすい奇跡的なネーミングも乳幼児に好まれる要因となっております。
このようにアンパンマンが五感で乳幼児に愛される特徴を持つことは人気を裏付ける科学的な根拠と言えるでしょう。
パターン化されたストーリー
また、アンパンマンのストーリーも他のアニメと一線を画すところがあります。それは、「新しいキャラの登場⇒和やかな日々⇒バイキンマンの邪魔⇒仲間のピンチ⇒アンパンマンがバイキンマンを倒す」という一貫したストーリーパターンです。
大人から見ると毎回、ラストが読める退屈なストーリーですが、乳幼児期の子どもにとっては違います。
特に0~2歳の子どもは、ガラガラを振って音が鳴ることで何度もガラガラを振ったり、いないいないばあをしてママの顔が出てきたら何回でも笑うと言った、繰り返しを好む傾向があります(循環反応)。
また子どもは自分がアクションを起こすことで世界が思い通りになるという幼児期の健康的な万能感を獲得するのですが、このような発達段階にアンパンマンのストーリーがドンピシャなわけです。
死なない、復活するという暗黙のルール
また、アンパンマンの設定でユニークなものとして、アンパンマンがピンチになっても顔を取り換えれば元気になる、バイキンマンも何度やられても、次の回では元気な状態で出てくるなどがあります。
やられても死なずに復活する(生き返る)という暗黙のルールです。
実は乳幼児期の子どもも同様の生死に関するファンタジーを持っていて、本当にそうか試した上で、合っていると喜びます。
その証拠に、この時期の子が大人に向かって指鉄砲で「バンバン!」と大人を撃った時、大人が「やられた!」と言って倒れ、また生き返ると非常に喜びます。
実際私が子どもとのセラピーで子どもに指鉄砲で撃たれた時も、指導者から「いちかさん、あなたが鉄砲で撃たれたら死んで生き返らなきゃだめだよ」と指導されたことがありました。
撃たれたのに死ななかったり、撃たれて死んだまま起きなかったから子どもが描くファンタジーが台無しになり、子どもが世界に安心感を持てなくなってがっかりしてしまうんだよ、と説明されました。
アンパンマンの心理学の生かし方
ここまでアンパンマンが愛される心理学的な理由を3つ紹介しました。これを知ることでどのように役に立つのでしょうか?
日常で役に立つポイントとしては以下の2つがあります。
これから詳しく見ていきましょう。
保育士や看護師が子どもと接するヒントになる
アンパンマンの心理学的人気の根拠を知ることで、子育て中の親や保育士・看護師など乳幼児とかかわる人が、特に0~2歳の子と接するのに役立ちます。
例えば、五感についての心地よさを生かすなら、子供部屋にあるものをなるべく赤・緑・黄色で統一すると子どもが居やすい空間になります。
また、子どもとの距離を近づけるとめに「ご飯」「お父さん」などの言葉より「マンマ」「パパ」のような半濁音を多く使って言葉をかけると子どもは心地よいでしょう。
さらに、いないいないばあを代表とする繰り返しのパターンを提供することで、子どもに安心感や喜び意欲を醸成することができます。
アンパンマンから離れるときを心理発達の目安にできる
ここまでアンパンマンの人気について話してきました。一方で、とても不思議な現象ですが、多くの子どもは5歳ころを目安にアンパンマンを急に見なくなります。
これは、心理学的な見方をすると、乳幼児期に必要な心理発達的な課題を達成したからとみることができます。具体的には、以下3つの発達課題を乗り越えたからだと推測できます。
① 世界に対する安心感を獲得した
② 見た目やパターンの繰り返しでなく、物語の本質を楽しむようになる
③ リアリティや批判力が芽生えてくる
この事実を知ることで、子どもがアンパンマンに興味をなくしていくことで、発達課題を乗り越えたと判断する目安になります。
<まとめ>結論
今回はアンパンマンの心理学的魅力について、主なもの3つをご紹介しました。まとめると以下の3つです。
これを知ると、人間の根源的な趣向や、0~2歳の子どもの発達的特徴をよりよく理解でき、子どもとより楽しく接するヒントにすることができます。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
<参考文献>
西川ひろ子 2009 乳幼児のキャラクター志向に関する研究 ―何故,子供は2歳のときにアンパンマンが大好きになり, 5歳になると「ださい」というのか ― 安田女子大学紀要
伊藤慶 2007 やなせたかし絵本三部作の研究 : 原作絵本『あんぱんまん』を中心に 全国大学国語教育学会国語科教育研究:大会研究発表要旨集p231-234
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