やっぱり、近代日本の激動の時代に、時代を切り拓いた人が好きだ。
新年度が始まり、不本意な東京転勤と全く専門外の部署異動に毎日心が折れそうだけれど、朝ドラ「虎に翼」に毎日 勇気をもらっている。
明治から昭和初期にかけて、人々の生き方や考え方が大きく揺れ動く時代に、マイノリティであったり、不遇な立場の人たちが、歯を食いしばりながら、逞しく時代を切り拓いていく話が無類に心が震える。
その時代の人たちほどではないとしても、自分も医療業界、国家公務員と大半が男の社会で働き続け、「同じ資格なのになぜ女じゃダメと言われるの?」「なんで看護師か薬剤師って自動的に思われて、そしてぞんざいに扱われるの?」「なぜ看護師さんは男の医者にニコニコして、私には無愛想なの?なんか悪いことした?」「女は女のキャリアコースがあって男とは別だから、キャリアを競うのは女だよって何?」と、平成後期、令和の時代でも、トラちゃんのいう「はて?」なことは山ほどある。
社会的にある程度「いい仕事」と言われる職業についている同僚には、専業主婦の妻がいて、日常の細々したことはやってもらっていて、自分は仕事だけしていればいい状態で、同じ資格を持った女よりも下駄を履いてスタートしているのに、自分が実力があるように偉そうにするなと思ったり、あんな奴ですら結婚できるのなら、私が男だったらさぞかしモテただろうなと思ったり、吐露したい思いは山ほどある。
そういったドロドロした思いに対して、近代で時代を切り拓いていった不遇な立場におかれた人たちの話はカタルシス効果を感じさせてくれる。
トラちゃん初め、勇気をもらえる先人のお話を紹介したいと思う。
①明治を生きた男装の女医-高橋瑞物語
日本で最初に石となった高橋瑞(1852〈嘉永5〉―1927〈昭和2〉)の物語。虎に翼のトラちゃんが、日本で最初に法曹界に風穴を開けた存在としたら、男性で固められた「医師」の世界に初めて風穴を開けた女性だ。
医師の世界も国家資格の世界で、明治初期は医師国会試験を受けるどころか、医学校への入学も許されず、女性は医療の世界では看護師・助産師になることしか許されなかった。女性がいない医療業界では、女性のお産への理解も進まず、女性の妊娠・出産への理解もなく、死産・流産、産婦死亡も日常茶飯事。
高橋瑞さんは、そんな中、生活を切り詰めながら、女性差別に苦しみながらも、当時の内務省にも嘆願し、医師になるためのの医学校への入学、医師国家試験の受験、最後にはドイツへの留学まで道を切り開いていく。
②負けんとき 上: ヴォーリズ満喜子の種まく日々
一柳(ヴォーリズ)満喜子(1884年〜1969年)の物語。日本の近代建築を多く建てたウィリアム・メレル・ヴォーリズの妻となり、日本の女子教育、幼児教育に命をかけた人。華族出身のお姫様が、自力で学力をつけ、アメリカに留学し、30代で日本で出会ったアメリカ人であるヴォーリズと結婚。当時の華族といえば、お姫様として許嫁と結婚し家を守るのが主流。そんな中、周囲の反対を押し切り、学問に身を捧げ、外国人であるヴォーリズと恋愛結婚。華族という身分により自我を抑え込まれ、人形として生きざるを得ない運命に逆らい続け、自分の使命をよきパートナーと共に全うした人。二人が並んだ写真が穏やかで心安らぐ。
③土佐堀川 広岡浅子の生涯
広岡浅子(1849年〜1919年)
朝ドラの主人公だったからよく知られていると思う。三井家という良家に生まれて、お見合い結婚したまでは当時のデフォルトの生き方だけど、その後、自分の商才を発揮し、日本の近代化の波に乗りに乗って家を大きくし、そして人生後半は日本の女子教育に捧げている。
朝ドラでは旦那さんは理解のあるおしどり夫婦だったけど、実際は当時よくある妾も複数いて、そういう対等ではない立場からは逃れられなかったよう。立場と才覚を活かして羽ばたいた人。
④松風の家
明治元年から現代までの、茶道のお家元 千家の栄枯盛衰を描いた物語。明治に入り日本の芸能は近代化の波に追いやられ、千家はどんどんと衰退していく中の人間模様が描かれている。フィクションになっているけれど、かなりリアルに近いように感じる。
⑤リーチ先生
バーナード・リーチ(1887-1979)
日本を愛したイギリスの陶芸家。日本の民藝運動を日本人たちと共に盛り上げた人。異世界とも言える日本で少しずつ受け入れられ、友人ができ、日本の工芸を発展させた。今でも外国に住むのは多大なカルチャーギャップにストレスを感じることもあるけど、文明開花の日本で西洋人がその文化の中に生きることは並大抵じゃなかっただろうなと想像する。
⑤ヨコハマ物語
明治に生まれた二人の女性の生き様を描いた物語。フィクションだけれど、逞しく、強かに生きる全く身分も性格も違う女性が、運命に翻弄され、逆らいながら生きる姿に勇気をもらえる。主人公の1人の良家のお嬢様は、のびのびと育てられ、とても利発な子供時代を送るけれど、大人になると急に見合い、結婚と全て自分の意思は叶えられず、自分の意志も出すことができず、檻の中でもがき続ける。もう1人の主人公であるお嬢様の下女のおうのちゃんは、幼少期にお嬢様と一緒に学問を学ばせてもらう機会を得て、好きな人を追いかけてアメリカまでいき、ボロボロになりながらもそこで看護師の資格を得て帰国。最後、その2人が再会し、お互いの苦労を労いながら、自己実現に向かっていくお話。
こんなドラマチックなことは現実ではないだろうとおもっていたら、伝記を読むとそれの上をいく波瀾万丈な人生の人たちが沢山いて、あの時代は何度も朝ドラになるけれど、なるだけのドラマ性のある時代だったんだなと思う。
19世紀から20世紀にかけて生きた近代日本の人たち、20世紀から21世紀にかけて生きている我々、小さくてもガラスの天井を撃ち砕くために頑張るひとりになれたらいいなと思う今日この頃でした。