「さよーならまたいつか!」 『虎に翼』が残したメッセージ
9月で終了した朝ドラ『虎に翼』。圧倒的な作品だった。この作品の何がよかったのか、あらためて振り返ってみる。
■「はて?」 違和感を口にする主人公
まずとらつばが異例だったのが、その主人公像だ。寅子は世の中の疑問に対して違和感を感じたときに、「はて?」と言う言葉でそれを表現する。
大抵の場合、世の中に理不尽なことがあっても、そこに疑問を持たないことが推奨される。社会に問題が合ったとしても不問に付し、個人の努力や気の持ちようで乗り越えることが良しとされる。
しかし、この物語や寅子はそうではない。「社会」や「制度」がおかしいと主張するのだ。
■「憲法14条」という存在
そして問題の責任のありかを適切に知るためには、「知識」が必要だ。『虎に翼』では主人公が法律を学び、司法の世界で社会を変えていく。
劇中では憲法14条がたびたび現れる。第1話の冒頭も第14条が読み上げられるし、その後も度々物語の中に参照される。もう一つこの物語の主人公といっていい程の存在感だ。
憲法14条とは、憲法における人権条項のなかでも、特に大事な差別禁止が謳われた条文だ。寅子たちは、ここが出発点であり、立ち戻るべき原点なのだと確認する。
憲法をベースにすることで、社会を心の持ちようで変えるのではなく、「制度」で変えていこうとしている意志を示している。
■どんな生き方をしてもいい
憲法14条の理念を体現する存在として、劇中で寅子の夫になる優三という人物がいる。彼は出征前、寅子にこう告げる。
寅子にどんな生き方をしてもいいと伝える。この優三のセリフは寅子一人に対して送られたものだが、「どんな生き方をしてもいい」という理念は、この作品に出てくる数多くの登場人物を通じて描かれることになる。
■多彩なキャラクターたちが表すもの
『虎に翼』では様々な属性のキャラクターが登場する。性的少数者、朝鮮人、障害者などなど。
また、性格も変わり者が多い。主人公の寅子より強烈な性格をしているのが、山田よねだろう。いつも突っ張っていて、愛想がない。
この作品では憲法14条がどんな人間でも差別されないと謳うように、どんな人間も否定しない。どんな属性や性格の人であっても、その自分のままでいていいいということを劇中で様々な形で表現する。
■分断を回避すること
主人公は日本で女性初の弁護士、裁判官というエリートであるが、そうではない生き方も肯定する。
寅子の親友である花江は、専業主婦だ。社会と闘う寅子たちを見てコンプレックスを抱くこともあったが、自分の幸せは子どもたちの姿を見ることだという信念を持って、生涯その生き方を貫く。
また、寅子の娘である優未は、大学院まで進んだ研究をドロップアウトする。その後、特定の職業に就くわけでもなく何者にもならないという生き方を選択する。
頑張ってもいいし、頑張らなくてもいい。怒ってもいいし、怒らなくてもいい。キラキラしても、しなくてもいい。異なる生き方であっても、いがみあったり分断する必要なんてない。
とらつばは作品を通じて、「どんな生き方をしていい」というメッセージを打ち出した。そして、そのためはそれができる社会でなければならない。
憲法14条の理念が実現されている世の中でなければならないし、そのために声を上げる必要がある。『虎に翼』は、そんなメッセージを描いた作品なのだ。