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『虎に翼』第14週 なぜ寅子は穂高先生の退任式でキレたのか 人の「役割」について
■声を上げることの意義
『虎に翼』第14週のテーマは「役割」である。この週は、人が果たす「役割」の意義について、一貫して言及した週である。
最高裁長官の星智彦は、穂高先生に対して自分たちは歳を取った「出がらし」だからできる役割があるのではないかと言う。
その息子、星航一は自分に何ができるのか悩む寅子に対して諭す。
「悩む意味あります?言ってたでしょう、その時の自分にしか出来ない役目があるかもしれないって。だから、うまくいかなくて腹が立っても、意味はあります。必ず。」
この週では、尊属殺規定の法律の憲法判断が降された週でもある。最高裁で、その規定は合憲とされたのだ。全裁判官のうち、違憲の判断を行ったのは穂高先生を含む2人だけだった。
それを受けて寅子は、例え結果が変わらなかったとしても、声を上げることの意味を訴える。
「たとえ二人でも、判決が覆らなくても、おかしいと声をあげた人の声は決して消えない。その声が、いつか誰かの力になる日がきっとくる。私の声だって、みんなの声だって、決して消えることはないわ。何度落ち込んで腹が立ったって、私も声をあげる役目を果たし続けなきゃね。」
■穂高先生の退任式
そして穂高先生の裁判官退任式である。穂高先生はスピーチで、「自分の役目なんぞ、果たしていなかったのかもしれない」と、自身の仕事について反省の弁を述べ始める。
先日の尊属殺規定の憲法判断で、自分の違憲が敗れたことへの想いからも出てくる言葉だったのであろう。
しかし寅子は、そのスピーチを怒りの涙を浮かべながら聞く。「君のような優秀な女性が学ぶにふさわしい場所だ」という穂高先生が自分を法律の密へ誘ってくれたときのことを思い出しながら。
そして、渡すはずだった花束を多岐川に預け、廊下に飛び出す。
寅子は、気まずい関係になっていたとはいえ、穂高のことを尊敬していた。穂高は、寅子たちが入学した明律大学法学部女子部の創設者だ。
彼のおかげで、寅子たちは法律の道に入ってこれたのだ。それなのに、どうしてあなたは自分で自分の行ったことを否定するのかと。
「それなら私はどうしたらいいんだ?」と問う穂高先生に対して、寅子は「どうしようもないですよ!」と返す。
法律の道に入ったおかげで、一般的な女性の道を外れたり、しなくていい苦労をした人間もいるだろう。それでも、どうしようもないのだ。それはそれで、そうするしかなかったのだ。
それも含めて、それを行ったことの責任は、当人が背負わなくてはならない。
■「役割」を果たしたことの矜持
寅子は、穂高に、自分の役割…社会に抗う者としての「矜持」を持ち続けていてほしかったのだ。
「その人にはその人のできる「役割」がある。あなたは立派にその「役割」を果たしたじゃないですか。
そうじゃないんですか?そうじゃなかったら、あなたのせいで法律の道に入った私たちは、一体どうすればいいんですか?あなたが自分のやってきたことを否定したら、私たちは一体何のためにこの道に入ってきたんですか?」
きっと寅子はそんな想いだったのだろう。
寅子と穂高先生のすれ違いから生じた、名シーンだった。
以下は穂高が尊属殺の憲法判断の際に残した言葉だ。
「この度の判決は、道徳の名のもとに、国民が皆平等であることを否定していると言わざるを得ない。法で道徳を規定するなど許せば、憲法14条は壊れてしまう。道徳は道徳、法は法である。」
この尊属殺人裁判の問題は、再度物語の中で登場する。穂高イズムを受け継いだ寅子や桂場、そしてよねの闘いへと引き継がれていくのである。