夏のしっぽを追いかけて
季節の中で「感じたくなる」のは、夏だけかもしれない。
7月も中盤に差し掛かった朝、しとしと降りの空を見て思った。今年はいつまでたっても梅雨が明けず、気温も上がりきらないまま。春でもなく、もちろん夏でもなく、その中間の新しい季節が生まれてしまったような曖昧な空気が生活の隙間を満たしていた。
洗濯物は乾かないし、折りたたみ傘が手放せない。出勤前に整えた髪はうねるし、低気圧のせいで頭痛が後ろをついてくる。ほんの小さなことがいちいち冴えない毎日だった。
夏になればこの冴えない感じも、全部吹き飛ぶのに。そのくらいの爆発的なエネルギーが夏という季節にはあって、暑いのが好きな人も嫌いな人もみんな巻き込んでしまう。そうしたらわたしも一緒に振り回されて、最後にはすっきりシャワーで洗い流してしまえるのに。
今年は夏が恋しい。大好きな花火大会もお祭りも中止だし、遠出する計画も立てられない。わたしの知らないうちに夏はどこかへ行ってしまったのだろうか。
いいや、そんなことはない。探せばきっと、しっぽくらいは捕まえられるはず。
そう思ってわたしは、ついにカメラを買った。
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意味がわからないかもしれない。順を追って説明する。
学生時代、バイトして稼いだお金で真っ先に買ったのはCanonの一眼レフカメラだった。真っ黒なボディに「カシャッ」とカメラらしいシャッター音。嬉しくってどこへでも持って歩いた。
しかし社会人になって、ぱたりとやめてしまった。典型的なブラック企業での日々はとてつもなく忙しく、趣味に費やせる時間も心の余裕もなかったから。
もうカメラはやらないだろうと思った。そもそもそれほどセンスのある方じゃないし、すごい人の撮るものを見ているだけでも充分に楽しかったから。あれほど好きだったカメラは、知人に譲ってしまった。
だけど実は未練たらたらだったらしいわたしは、また性懲りもなくカメラが欲しくなった。すごい人の撮るものを見ていたら「自分もやりたい」と思うのは自然なことなのに、心に余裕のないわたしは気づかなかった。
だがカメラも、決して安いものではない。わたしのお給料で買うとなると、確実に貯金を少し切り崩す必要がある。そこまでして手に入れたいのか?としばらく悩んでいた。
そんなところに長過ぎる梅雨がきた。気持ちが鬱々として、嫌に夏が恋しくなる。せめて夏らしいことがしたかったけれど、海もプールもテーマパークも、今は大手を振って行ける場所じゃない。そして何より社会人の夏は短い。
ならせめて、カメラを買ってこの季節らしい「何か」を切り取ろう。身軽に動き回って捉えられない夏を追いかけて、せめてしっぽくらいはファインダーにおさめてやろう。
そんな気になって、わたしはついにカメラを買った。
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目下カメラ練習中なので拙いかもしれませんが、わたしが捕まえてきた夏のしっぽたちです。
いかがだったでしょうか。
一度覚えたことは忘れないものと言いますが、わたしは学生時代に覚えた撮り方をすっかり忘れてしまっていました。でもそのおかげで新しいことだらけで楽しいです。
また夏のしっぽを追いかける途中で偶然出会った変なものたち。
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