百日紅、もしくは元カレとの思い出の保存方法と期間について
八月が終わると、暑さに関わらず気持ちがぐっと秋に引き寄せられていく。
それは夏が嫌いだからなのか、それとも日に日に近づいてくる自分の誕生日に心躍っているからなのかはわからないけれど、引き寄せられるほどに残夏の遺産が切なく胸を打つ。
夏に見るとんぼや蝉、プールの飛沫、目の前に建ったマンションの端に見切れた花火は、みんなキラキラしている。季節を彩る原色が鮮やかで、それだけでお酒だっておいしい。
なのに季節の変わり目に差し掛かると夏の風物詩たちは唐突に意味合いを変え、寒さと共にノスタルジックに背後へ忍び寄ってくる。その差って、いったい何なんだろう。
百日紅もそのひとつだった。高い空に咲くピンクや白の花は、積乱雲のようにもこもこと立ち上っていく。夏だなぁと思うのに、徐々に秋めいてきた今はなんだか切なくっていけない。
そういえば、いつだったか付き合っていた人の実家にも、百日紅の木があるらしかった。実際に見たことはないし、見に行こうと言われたこともない。一年くらいの付き合いはそれまでだった。
それなのに彼の「実家にあるよ、濃いピンクの百日紅。結構大きくて毎年花が落ちると大変だよ」という、何気ない一言だけをなぜかよく覚えていた。
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