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電話越しのあなたに。

デスクワークあるあるだと思うんだけど、電話では毎日話すのに一度も顔を見たことがない人がいる。



コロナが流行りはじめてめっきり人と顔を合わせることが減った。以前は定期的に顔を見せてくれていた営業さんも、用もなくふらりと立ち寄ってくるお得意さんも、緊急事態宣言以降は一度も訪れていない。

代わりにZOOMっていう便利なものが遠い誰かさんの顔を写してくれるようになったけど、他愛もない要件は声だけの通信が当たり前。電話一本の内容のために場所を移したり背景をセットしたりっていうのも面倒な話だしね。

たださっきも言った通り、今までは顔を見せに来てくれていた人の訪れが減ると途端に寂しい気持ちになる。

あったはずのものがなくなるのは、ドーナツの穴の中身を探すような感覚。なくたって美味しいんだけど、なぜかいつも物足りなくて「もう一個」ってつい手を伸ばしちゃう。食いしん坊って言わないでね。

段々と一人時間が多くなって、身近だった人との交流が途切れて、はや2ヶ月。一番実感しているのはもとから顔を合わせたことのない人の存在の大きさだ。

いつもと同じ心地よい声、遠い地で働くもの同士のゆるい近況報告、電話口の向こうから聞こえてくる仕事の音。「あら、会ったことなかったかしら」なんて思うほど、頭の中では「あなた」のイメージが出来上がってる。いつか会いたいねなんて話すのは、大抵辞めるときだけ。

大切な人と会えなくなっても「電話越しのあなた」は何も変わらない。頭の中にあるいつものイメージが連なって、いつものあの人だと感じられる安心感。対面していないからさりげない声音や言葉の優しさが響いて溶けていく。顔も知らないのにね。


こんな時だから、変わらないでいてくれるものが頼もしい。


あなたはどうかそのまま健やかでいてくださいね。「いつか会える日」なんて来なくたっていいの。いや来たって良いんだけど、大事なのはそこじゃなくてあなたがいつもそこにいるだろうという万能感が大切なんです。





世の中が急激に変わりすぎている。



わたしは未だにZOOMっていうツールに照れがあるし、仕事相手とのメールは無機質がすぎる。

+αは素敵だけど、たくさんありすぎると疲れちゃう。だけど-はもっと嫌。変わらないくらいが丁度いい。いつも優しい「電話越しのあなた」がいい。





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