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2020年・創作回顧

 2020年の年の瀬を、みなさまいかがお過ごしですか?
 当方、一次創作小説を書いている一福千遥(イチフクチハル)と申します。
 あまくてあわい恋愛小説や幻想小説、の成果物については、「絲桐謡俗(シトウヨウゾク)」という看板を掲げ、主に東京開催の文芸系同人誌即売会に半年に一度の割合ながら顔を出しております──

 ……と、「いつもなら」こう書き出していたはずでしょう。
 2020年、オフラインでのイベントに2月9日に開催された「コミティア131」から後、まったく参加できなくなることなど、当時、私はまったく予想すらしていませんでした。

 ──ならば何ひとつ発行物を出さなかったのかというと、そうでもなく。

 2020年は対面型のイベントにはひとつしか出られませんでしたが、個人的には「イベント中止ならオンラインで!」と、声を上げてくださった皆様にのっかるかたちで、オンライン開催のイベントに参加し、振り返ってみればありがたいことに、たくさんの収穫があった年になりました。

【100ページの壁越え】
「絲桐謡俗」は言うまでもありませんが零細看板です。くわえて一福には「計算が激しく苦手」という弱点があります。
 なので、3年前に文学フリマ東京に初出店する際、頒布する本の価格設定は悩みました。
 50ページとない本に500円という価格設定は強気にも程がある。
 しかし300円では正直今後の活動継続が危ういし、増ページしたら値上げは必至。
 ──その間をとって、頒布価格は400円と決めました(それでも当時は我ながら強気だなあ、と思ったものです)。

 そして本文が「100ページ」を越えない、もしくは再録本でなく書き下ろしである限り、頒布物の価格は400円固定にしよう、と決めたことで、計算苦手でも無理なく頒布活動できるぞ。
 ……と思ったのですが。

 今年5月、テキレボEX合わせで刊行した『さくらかさね』が、こちらの発行物として初めて、100ページを悠々と越えていきました。

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 この本、もともとしまや出版さんの「春色うららかフェア」の鴇色に、あまりに……あまりにときめいてしまった結果、はじめて『この装丁の仕様で作りたいから作った本』になります。
 そうと決めたら、色合いからして桜にまつわる短編集にしよう、と思ったのですが──プロットを5本つくり、最終的に残ったのが、ちいさな大学での4年間を綴った「桜東風」と、三人の老婦人が語る桜の記憶と結びついた恋がたり「今ひとたびの夢見草」の2本でした。
 「桜東風」では、すでに思い出小箱に納められて久しい大学当時の風景をあれこれ思い出しながら書いたため、作中に出てくる居酒屋さんの間取りが脳内で、当時よく立ち寄った路地裏の居酒屋になっていました(今は駐車場になってしまいましたが……)
 「今ひとたびの夢見草」は、三人の惚気話を書いているのが、ただただ楽しかったです。──が、終盤からオチにかけて、読者に背負い投げをかけようしている、とも読まれかねない展開は今後控えよう、という反省もすこしあります。

 そんな『さくらかさね』ですが、表紙込み140ページで400円です。
 世情を深刻に考えた、というのではなく、価格決定時にさらっと「あ、400円で」とすんなり思ったからの価格です。

 このことで、なんだか憑きものが落ちたようにスッキリしたし、これからはページ数と頒布価格の釣り合いを気にせず、書きたいものを書くぞー!

──と思った私が、またまたしまや出版さんの「カセットテープケース入りブック&メモ」フェアにぎゅんぎゅんと惹きつけられてしまった結果……

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『Driver's Songs cassette tape』という、ちいさなボディに15曲分の物語を詰め込んだ、表紙込み144ページの本を衝動的に作ってしまった顛末は、また別の機会に。
(『Driver's Songs cassette tape』は12/26-1/11開催のテキレボEX2での頒布になります。検索はタイトルか、「一福千遥」でお願いします)


【オンラインイベントにまつわるエトセトラ】
 先述したとおり、2020年はオンラインイベントを発起してくださった方にのっかるかたちで、イベント参加に挙手してきた一年でした。
 ことに宣伝企画の「辻宣」「KITAB!」、pictSQUAREで開催された「月燈マルシェ」「隠れ家月燈書房」には大変お世話になりました。
 この場を借りて、あらためて御礼申し上げます。

 オンラインでの企画に参加してみて痛烈に感じたのは「急募:宣伝センス!」でした。
 あれもこれも欲張りな私ですが、画像の見せかたにあらすじの書きかた……深刻なネタバレにならない範囲で、字数制限のあるなかで、刊行物のあらすじを書くことのなんと難しいこと……!
 オフラインでのイベントと違って、通りすがりにたまたま目についたから手に取ってみた、見本誌をめくって判定してみた、というわけにいかないので、表紙画像とあらすじでどれだけ惹きつけられるか──にオンラインイベントでの反応がかかってるのは、頭では分かっているつもりでも、行うはなかなか難し、でした。
 まだまだオフラインでのイベント開催が様子見状態なので、オンラインイベントというのは発表の場として来年も継続して参加していきたいと思っています──ので、このあたりのセンスも磨かなければ、と、各方面に課題の多い私なのでした。


【Text-Revolutions Extra&Extra2】
 今年、制作発表の場として主軸を置いていたのは「Text-Revolutions Extra&Extra2」です。昨年の台風からずっと会場開催がままならぬ、その鬱憤を晴らすようなお祭りのノリにおおきく励まされつつ、「進捗どうですか?」に肩をすくめてみたり……他の企画参加者さんの呟きに触発されて私も頑張ろう、と奮起してみたり、とにかく2020年の創作活動で折れなかった理由のひとつとして、こちらのイベントの開催がものすごく大きかったです。
 Extra2ではテキレボアンソロも再開し、今回も2編寄稿させていただきました。

「文箱さま」https://text-revolutions.com/event/archives/13151
 公開一本目は自己紹介を兼ねて、一福の嗜好と手癖全開で──ですが、書いたのはこちらが後です。後述の「箋」が何をどうやっても、おとなのほろ苦さから抜け出せない(けれどそうとしかならない)ので、せめてかわいい話を……と思って書きました。
 主人公の香緒利ですが、『さくらかさね』への企画に出したプロット5本のうちの1つの主人公をそのまま使いました。(余談ですが、プロットをボツにしたのはコロナ禍の世情を前面に出していたため)
 来年の入試はきっと大変だと思うのですが、彼女が文箱さまを介して受け取ったものがお守りになっていればいいなあと、そんなことを願っています。

「箋」https://text-revolutions.com/event/archives/13349
 公開二本目ですが、先述したとおり、書き上がっていたのはこちらが先です。あまくてかわいい要素も、ひと匙の不思議も何もない、ただただ最初からこうとしかならなかった話です。
 登場人物の良瀬ゆきこに関しては、以前いただいた感想に「一福のIFルート」という返信をしましたが、若いころにぽややんと過ぎてしまった分岐点に対して、己の爪と牙を全力でむいていたら(それだけの胆力があったなら)、結末はともかくとしても、こうなっていたかもしれないな……という思いは、書き終えた今も拭えずにあります。

 毎回お題発表がたのしみで、そこに2話書けるのが嬉しくて参加しております──が、この企画、スタートダッシュがほんとうに大事で、公開開始一ヶ月以内がいちばん反応いただける体感です。ともなれば、そこに照準を合わせて……と思っているのに、一枚も二枚も上手に、シュッと投稿を決めていく書き手さんたちに、毎回脱帽しています。


【ちいさな物語たち】
 今年はネットプリントの企画にも、あちこち参加していました。
 折本で書いた小説としては、
『Try your luck, for your present.』(一次創作エア同人誌即売会)
『NightClub Honeycomb』(紙街番外編)A4ペーパーから折本に再構成
『朱管の筆』(ペーパーウェル04)
『まどろみホテル』(おうちdeちょこ文の折本フェア)
『リルラック』(ペーパーウェル05)

 ……と書き出してみて、あれこんなに顔出していたのか、とぽかん、としてます。企画を拝見して、面白そうだから挙手します! と反射的に参加表明してしまうのもありますが……
『Try your luck, for your present.』はワンコインで買えるちょっとしたプレゼントめかしたもので、ほんのすこしだけ彩られる生活の一コマが書きたくて書きました。
『NightClub Honeycomb』は、夜中の運転でふと目にした学生街のアパート、窓からこぼれた光の色がすべて違っていたことからの着想です。
『朱管の筆』は……好きなんです、水が天上となっている世界って……こちらはとにかく、ただひとことで毀されそうな、不穏なる静謐を意識した物語づくりをしています。
『まどろみホテル』 こちらは「夢でしか行けない場所」への憧れから書いた六つの話です。余談ですが、ときどき顔を出す「ホテルマンともギャルソンともつかない青年」については実は獏、という裏設定があります。
『リルラック』は、とにかく旅をしたい、もっというなら旅先でゆっくりその土地の酒を我が身に染み込ませたい気持ちをたくさん詰めてます。そうして書いた6話のうち、2カ所は実際に行ったことがある場所をモデルにしている旨は以前に呟きましたが──「紅燈流水」は蘇州を、「森の奥にて」は20年前、学生時代に行った南ドイツの風景を思い描きながら書きました。

 ネプリ配信の折本では、たまに例外もありますが、とにかくちいさくてかわいい、ほっこりする掌編を書きたくて参加しています。今後ともおそらくこの路線での参加になると思いますが、見かけた際にはどうぞよろしくお願いします。

【2020年のNovelber】
 今年も綺想編纂館(朧)@Fictionarys様の企画、「Novelber」に参加させていただきました。
 昨年はストックが早々に尽きてしまい、「次回も参加できるなら、そのときは15話くらい前もって準備できるようにしておきます……」と反省したのを踏まえて、開始までに13話はストックしていました。
 今回はお題を拝見した時点で(連作短編にする)と決めていたのですが、それは一番目のお題の「門」と、最終お題の「塔」で、主人公の少年が「門から出て塔に至る」イメージがぴん、っときたからです。
 舞台はなんとなくフランス風にしていますが、これもほんとうになんとなく、です。毎回、ツイッターのほうでは画像版であげていたのですが、その際にフランス語の単語を調べては(あれこれってどう発音するの?)と首をかしげていました。
 ちなみにどう書くか、いろいろ悩んだお題は──「20.地球産」と「25.幽霊船」でした。とはいえこのふたつのお題、自分の発想にはないものなので、こういうお題をいただくと(最終的には手癖に戻ってしまうのかもしれませんけれど)ものすごく刺激になります。


【湖沼は広がるどこまでも】
 2020年は一次創作で小説を書くのと並行し、短歌でもネプリ配信企画に参加しています。
 ペーパーウェル04に『或る相聞』(ハガキ)、おうちdeちょこ文の折本フェアに『うはごとづくし』(折本)、ペーパーウェル05に『たびのうた』(折本)で参加しました。
 これまでも折に触れ三十一文字をひねっては、ツイッター内で見かけた企画にも参加していましたが、どうしてこんなに今年いきなり、というのは──今年になって、なんとなく「作中の小道具としてだけの短歌を作るのはイヤだなあ」と思ったのがきっかけです。
 自分が小道具、あるいは技のひとつと思って扱っているうちは、短歌をきれいにも、まつわる感情に対して的確にも詠えない──だいいちそれはあまりに失礼ではないか。
 そんな思いから、和歌だけを詠うことにも真剣に取り組んでみよう、と思いたち、『或る相聞』や『うはごとづくし』でも上述の企画に参加したのですが──
 そこに現れたのは、五行歌という伏兵でした。

 五行から成るうたの、呼吸に沿っていながら磨き抜かれた言葉。

 おうちdeちょこ文の折本フェアに参加された方々の五行歌に触れて、その五行からひろがるイメージ、言葉のうつくしさに息を呑み、(水面はしずかなのに、おそろしいくらい底が見えない湖)という印象を受けながら、触れたい衝動にかられてこちらも詠みはじめる始末。
 とはいえ五行歌はゆっくりと、折節に言葉選びとリズム合わせをたのしみながら詠めれば、と思っています。

……さて、話を和歌に戻しまして。
 『うはごとづくし』『たびのうた』と写真つきでの短歌折本を今年発行したのですが、これ、単に、お題しばりが何もないところから和歌を詠むというのができなかったがゆえの苦肉の策でした。
 データのなかからこれは、と思う写真を探し、その写真にまつわるストーリーを組み立てて、そこから歌を詠み……というスタイルで作っています。
 幸いなことに発表当時、好意的な感想もいただいてほくほくの私ですが──肝心の触媒である写真のストックが尽きてきました。来年こそは気兼ねなく、写真撮影のために出歩けるようになるといいな、と切に願っています。

 そんな感じで、和歌についても頑張って詠むぞ──とは言いつつ、やはり和歌に正面から対峙するかたからすると、相変わらずぬるいのだろうなあ、と思う私は、自分の詠む歌が選評の対象になる、とはかけらも思っていなかったのですが……

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 昨年に引き続き参加しているアトリエ部文芸展 第百七節「明」で、優秀作4選に選ばれただけでなく、最優秀作いただきました! 
 ほんとうにありがとうございます! ……でもその前に、12月も末になった今でも、ただただビックリしています。
 掌編小説でも詩でもなく、まさか和歌で選ばれるとは。
 こちら、「明」の漢字を見ていてふと思ったままを詠ったのですが、光がつよければ影もまた深まる、その感興がまつわりついてます(単に私の根が暗いだけかもしれませんが)

 そのドキドキを引きずったまま、今年で3年目となる「いてうた」にも参加しています。

 瑠璃菫青われらを護る石透かせ 重ねて仰ぐ宙の遠さを
 いざ行かん爪先任せに空のした 伴連れ一顆のターコイズの映ゆ

 テーマは「色」ということで、どちらも誕生石であり、かつだいすきな石で詠ませていただきました。
 こうして詠うことも楽しませていただいた一年ですが、願わくば来年もまた、背負いすぎず、けれど真摯に詠えたらいいなあ、と思っています。


 かくして、多事多端だった2020年もいよいよ暮れようとしています。
 2021年、創作への目標ですが──「無理なくマイペースを貫く」です。
いろんな企画に参加して、いろいろ書いて詠って、の機会はありがたく楽しみつつも、それが心身の健康を維持できなくなるほどは深追いしない。

 そんなスタンスで、これからもゆったりと文筆三昧ができればいいなあ、と思っています。
 長々と書き綴った2020年の所感になりましたが、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
 どうぞ来年もよろしくお願いします。

2020.12.30 一福千遥

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