出立許可
「旅立ちの季節、っていつがふさわしいのだろう?」
級友の問いかけに、僕は紅と黄に彩られている学院の門をじっと見つめた。
「この学院で心身を整え、いずれときがきたら、きみたちはあの門から外の世界へと旅立つ権利を得られる」と入学時に教わって以来、僕たちはその日をどれほど待ち望んできたかしれない。
級友たちはめいめいに「いっぱい花が咲いてる季節がいいなあ」「いや、あえて夏の太陽がギラつく日に」「だったら僕は冬にしよう。しんと降る雪をさくさく踏んでさ」などと言い合っている。でも僕はだんぜん今時分の、霜があきらかに降りる前、最後のあかるさを紅と黄に託して落ちる葉が門を彩る季節こそ、僕の旅立ちのときにするんだ、とこの学院に席を与えられたときから、そう決めていた。
「──学院長。僕はあの門から外に出たいのですが」
晴れた日の午後、僕はあの門を指さし学院長にそう告げる。じろり、と鋭い視線が僕を一瞥した後で、「出立を許可する」と低く威厳のある声で返されて、どれだけほっとして──同じだけ、血が沸き立ったかしれない。
その日のうちに、僕は身の回りのものを詰めた、ちいさなトランクを左手に持ち、右手を門にかける。ひんやりとした感触を手のひらの熱に心地よく沁みさせながら──さあ、これから外の世界ではどんな冒険が待ち受けているのか、と胸ときめかせ、一歩を踏み出そうとした瞬間、またたいた陽光がちかりと、門のアーチを描く線をなぞっていた。
Novelber 1.門
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