額を紡ぐひと 谷瑞恵
あらすじ
事故で婚約者を亡くした奥野夏樹は婚約者の仕事を受け継ぐように公務員から額装師へと転職した。夏樹は初めての土地で工房を開き、そこには、絵画だけではない様々なものが持ち込まれる。夏樹は、その品の背景について調査し、額を製作する。
ここからネタバレ含む感想
読んでいて、なんとなくそれぞれ思い入れのある人への棺を作っているようだと思い元の掲載誌をみたらタイトルは「殻の祭壇」だったので話の内容にはこちらの方がしっくりくるような気がしました。
額といえば通常は絵画の周りを囲んでいるものを想像しますが夏樹のもとに持ち込まれるのは、宿り木、鳥の鳴き声、毛糸の繭、壁に描かれた絵、カレーポットなど様々なものが登場します。それ一つ一つについて、それが持ち込まれた背景、依頼主の心の奥を覗きそれぞれにふさわしい額を作成していきます。その工程は、大事な人を亡くした人が心残りに思っている心を封じ込めるような作業に感じました。そんな夏樹自身も婚約者を亡くしさらにその婚約者に抱いている自分の気持ちを持て余しているような気がしました。
谷さんのお話は癒し系のものが多いですが、この本は癒しだけでなくもう少し重さのあるお話になっています。