見出し画像

Lycoris Replace.

前回はこちら↓


この時期だけ設置されているのだろうという様子のチケット売り場に向かう。入園料は1人500円。Suicaも使える。鉄道ファンフレンドリーでうれしい。入園してすぐのところのヒガンバナ畑(自生しているので正確には畑ではない)はもう花期が過ぎつつあったが、しばらく進むと満開のエリアになった。

お客さんはたくさん来ている。大盛況である。特に目につくのは、主に白や黒のおしゃれな装いで写真を撮られている、女の子やお姉さんやおばさまたち。

いちがやさん
「みんな写真撮るんだ。そりゃそうか」

ささづかまとめ
「バラ園とかはイメージありますけど、ヒガンバナでも撮るんですね」

いちがやさん
「もうちょっとおしゃれしてくればよかったかな」

ささづかまとめ
「普段着すぎたでしょうか?」

たかやまさん
「さーさちゃんはピクニックしに来たみたいでかわいいよ?」

ささづかまとめ
「コロンビアでガチガチに固めてて、すみません」

郊外に出かけるときはコレクションを着る絶好の機会なのだ。

いちがやさん
「せめてたかやまさんをかわいくして対抗したかったよ」

たかやまさん
「いや。暑い服嫌い」

即座に拒否したたかやまさんの露出した脚。めちゃくちゃ蚊に刺されそうだなと思うが、たかやまさんはほとんど蚊に刺されない不思議な体質である。


「どうだ、こんなんで。うお、この姿勢しんどーい。まぶしいよー」
「はい、いいよー」

わたしたちの近くで大学生くらいの男の子が大きなカメラを構えている。ヒガンバナ畑を挟んで7、8メートルくらい先で、ポーズをとる女の子。声が大きいせいで周囲の注目を集めているが気にしていない。撮った後は男の子に駆け寄って
「どう? 今度は。おー明るくなったねー、よーし」
と満面の笑み。男の子は物静かな感じだが、撮影結果を見ながら女の子にディレクションしている。

「ああいう無邪気な感じが私たちにも必要なんじゃない?」
いちがやさんが小さな声で言った。

たかやまさん
「わりと私たちと似てると思う。オタクっぽくて」

いちがやさん
「別にオタクっぽくないでしょ、どっちも」

ささづかまとめ
「あの人たちって付き合ってるんですかね?」

いちがやさん
「そうなんじゃない?」

ささづかまとめ
「だとすれば、男の子はあの女の子に被写体としての価値を感じつつ付き合っているわけですよね。現時点では

いちがやさん
「……うーわ、恐ろしいこと言うなあ」

ささづかまとめ
「あるとき、彼女の写真を撮っても満足しない自分に気がつくんですよ。なんかうわの空っていうか。自分が本当に撮りたいのってもしかして———」

たかやまさん
「ロリコンだったんだ」

ささづかまとめ
そこまでは言ってないです。『僕はいつの間にか妥協するようになっていたのか』みたいな感じです」

いちがやさん
「しんどいなあ」

たかやまさん
「若くてかわいい子を撮りたい気持ちはわかる」

いちがやさん
「うん…? いやいやいや。そうかもしれないけどさあ」

たかやまさん
「私、さーさちゃんはなんでも言うこと聞いてくれるから永遠に好き」

ささづかまとめ
「えへへー、ありがとうございます」

いちがやさん
「それでいいんだ」

たかやまさん
「いちがやさんはがんばってツッコんでくれるから永遠に好き」

いちがやさん
「そりゃどーも」

タイミングを見計らって撮った誰もいなさそうに見える写真

たくさんのお客さんたちにまぎれながら、ヒガンバナの中をうろうろする。
「こんなにまとまって咲いてるのは初めて見たわ」
「もっと密集して生えてるのかと思ったよ。手入れしてんのかなあ」
「たくさん咲いてるときれいって思えるのね。一輪だけだとさみしい気持ちになる花だけど」
いろんな声が聞こえてくる。感じかたは人それぞれである。

「ねえさーさちゃん、おしべ撮って」
ヒガンバナの花に顔を近づけて凝視していたたかやまさんが、顔を上げて言った。

ささづかまとめ
「このカメラ、近づいて撮るのはあんまり得意じゃないんですけど…」

たかやまさん
「おしべの根元の、まとまってるところがきれい。撮ってみて」

ささづかまとめ
「こういうことですか?」

たかやまさん
「うん。きれい」

いちがやさん
「へー、こうやって見るとデザインされてるもんだね」

デジカメのモニターを眺めていちがやさんが感心したように言った。

たかやまさん
「ね。つるんってしててきれい。あと、あれも撮って」

ささづかまとめ
「おわあ、大きなクモの巣」

ヒガンバナ畑の上に、大きなクモの巣が張っていて、木漏れ日が差している。

たかやまさん
「きれい。きらきらしてる」

いちがやさん
「きれいかなあ」

いちがやさんは虫が苦手だ。

ささづかまとめ
「たかやまさんはつやつやしてるのが好きなんですか?」

たかやまさん
「ううん、生きてるものが好き。自分で生きてるやつ」

いちがやさん
「自分で生きてるやつ?」

たかやまさん
「そう」

たかやまさんはうなずいて、再びヒガンバナの花の内部を覗きこみはじめた。特に解説はないらしい。


続きはこちら↓


この記事が参加している募集