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自転車に乗って川を越えて、戸田球場に行く。(6回裏まで)
前回はこちら↓
3回は両チーム無得点。4回表、ベイスターズの攻撃。スワローズは柴田投手に代わって育成左腕の下慎之介(しも・しんのすけ)投手がマウンドへ。
ブルペンから走っていく背中を拍手で送り出せるのはブルペン席のいいところなんですが、拍手はやっぱりまばらです。半分はベイスターズファンですし、スワローズファンの中にはカメラを構えて写真を撮っている人(わたしを含む)もいるので、しかたありません。たかやまさんはとなりで盛大に拍手しているんですが、正直浮いています。
下投手は2アウトから2連打され、2アウト1,3塁のピンチ。たかやまさんの後ろに座っているスワローズファンのお姉さん二人組が
「なにか話したりするのかな」
「どうだろうねー」
とひそひそ声で会話をしています。別に普通に話せばいいと思うのですが、それくらいブルペン席は静かなのです。スポーツを観に来てこんなに静かなのは不思議です。ゴルフのギャラリーみたいです。
たかやまさん
「西浦と宮本だから」
たかやまさんがこれまた小さな声でわたしにささやきました。意味がわからなかったわたしが写真を撮るのを中断して聞き返すと、なんでもない、と返ってきます。うーん?
このときはよくわからなかったのですが、これは「後ろのスワローズファンのお姉さんたちは、1塁ランナーの西浦選手とファーストの守備に就く宮本丈(みやもと・たけし)選手が元同僚だから、二人の間になにか会話があるのだろうか、という話をしているんだよ」というたかやまさんによる解説だったのです。たぶんそういう意味ですよね?
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二人の写真まで撮っているのに察しが悪くてすみません。下投手は続くバッターを見逃し三振に切って取り3アウトチェンジ。
たかやまさん
「あの人ストレートしか投げなかった。どうしたんだろ」
ぬるい風に吹かれた髪が顔にかかるのを片手で押さえながら、2つめか3つめかわからないLチキを噛みちぎってたかやまさんが言いました。よくこんな席から球種がわかるなあ、と感心します。いや、普通はわかるのかもしれません。とりあえずわたしは全然わからなかったですが。
4回裏、スワローズの攻撃。2アウトから伊藤選手がフォアボールを選んで出塁。すると、ベイスターズの投手が牽制したボールが逸れて…
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ボールが転々とこちらに転がってきます。ブルペン席のお客さんたちはみんな「わぁー」と口を半開きにしながら歓声とも悲鳴ともため息ともとれないような微妙な声を出します。目の前で予想外のことが起こって、驚きのあまり思わず口を開けてしまい、息が出ていくついでに声帯を震わせている、そんな感じの声です。
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カバーに入っていたセカンドの選手が勢いよく走ってきてボールを拾い、すばやく2塁へ送球します。こういうときの選手の一挙手一投足は、間近で見るとすごい迫力です。ランナーは2塁でストップ。
そしてバッターボックスには先ほどタイムリーの並木選手。2球目のストレートを左中間に弾き返してタイムリーツーベース!
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これで3-2。逆転しました! しかしすっかり一軍に定着している並木選手はさすがの実力でした。脚だけの選手ではないですね。
5回表のマウンドには下投手に代わって尾仲祐哉(おなか・ゆうや)投手が上がります。今度はわたしも拍手をして送り出しました。尾仲投手はタイガースを戦力外になって、昨シーズンからスワローズの一員になっています。
わたしが拍手していると、右側に座っているベイスターズファンのお兄さんが「よっ、背中におなか! がんばれ尾仲!」と大きな声を出しました。ちょっと面食らいましたが、
たかやまさん
「尾仲はDeNAがドラフトで獲得した選手だから。大和の人的補償で阪神に行ったんだよ」
すかさず左側の席から解説が入りました。なるほど、となりのお兄さんはもともと尾仲投手がかつてベイスターズに所属していたのを知っていて声をかけたのです。ずっとムスッとした顔で静かに試合を眺めていたお兄さんですが、温かい人だったみたいです。でも「背中におなか」って…。確かに背番号の上に「ONAKA」って書いてありますけど。お兄さんの考えたキャッチフレーズなんでしょうか。
尾仲投手はベイスターズの2番から始まる上位打線3人を計9球で仕留めました。2回表からスワローズファンの心の中に漂っていた「今日の試合どうなるんだろう…」という微妙な雰囲気を完全に消し去ってくれたナイスピッチングでした。
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5回裏のスワローズの攻撃は無得点に終わり、グラウンド整備の時間になります。スタンドでは、トイレに行く人、飲み物を買いに行く人、気分転換にとりあえず外に出る人、荷物全部持っていかにも帰っちゃいそうな雰囲気の人など、いろんな人たちが出入りします。
グラウンドでは今日は出場していない選手たちが身体を動かす姿が見られたり、ブルペンでは去年ホークスを戦力外になってスワローズにやってきた左のサイドスロー、嘉弥真新也(かやま・しんや)投手が投球練習をしたりと、なんだか楽しい感じになっています。この時間に外に出てしまうのはちょっともったいない気がします。
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6回表は育成右腕の嘉手苅浩太(かてかる・こうた)投手がマウンドへ。上甲選手にツーベースヒットを打たれますが(上甲選手当たってますね!)、ほかの選手には打たれることなく0点に抑えます。
6回裏には未来のスワローズの正捕手候補、鈴木叶(すずき・きょう)選手が内野安打で出塁。ベイスターズの投手がボーク、三ツ俣選手が犠牲フライ、伊藤選手がフォアボールを選びランナー1,3塁として、バッターボックスに向かうのはこちらも今日当たっている並木選手。スタンドのスワローズファンの拍手も大きくなってきました。
粘った末の8球目が外れてフォアボールになるのと同時に、ベイスターズのキャッチャー・松尾汐恩(まつお・しおん)選手がパスボール。鈴木選手がすかさずホームインしてスワローズが4-2とリードを広げます。
ささづかまとめ
「なんか勝てそうですね?」
わたしがそう言ってたかやまさんの横顔を見ると、わずかに眉根を寄せて不機嫌そうな顔。わたしの視線を感じていつもの無表情に戻りますが、口元が不満そうに尖っています。
ささづかまとめ
「どうかしました?」
たかやまさん
「さーさちゃんの右後ろのおじさんに腹立ってるだけ。スワローズの選手みんなかっこいいのに」
たかやまさんはわたしの耳元でそう言います。静かに怒っていたようです。
ささづかまとめ
「あー」
たしかに、さっきから右後ろに座っているご夫婦の旦那さんのほうが、スワローズの選手たちの主に見た目についてけっこうひどいことを言っているのです。できるだけ聞こえないふりをしてたんですが、やっぱり気になりますよね。
ささづかまとめ
「でもそれなら、たかやまさんのとなりのおばさまの発言も聞き捨てならないですよ」
たかやまさん
「なんか言ってた?」
ささづかまとめ
「『カロリーメイトなんて栄養失調の人が食べるものでしょ』って」
娘さんと一緒に野球観戦に来たおばさま。となりの席で娘さんがカロリーメイトブロックのフルーツ味を食べ始めた(ああ、同志よ…!)のを見てそう言ったのを、わたしの耳は聞き逃しませんでした。
たかやまさん
「ふ、ふふっ。たしかに言ってた。あははっ、カロリーメイトの悪口、許せない?」
ささづかまとめ
「はい。だって、わたしにとっては主食ですし。おいしくて食べてるんですから。それを病人食みたいに言うなんて」
たかやまさん
「ふふふ。うんうん」
たかやまさんの顔がちょっと穏やかになって、よかったです。
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