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学びが広げる未来 — 現役高校生が「デザイン経営」から得た、新たな視点とは
「クリエイティブを学びたい」と山梨から上京し、高校に進学した八巻綸花さん。Value Creation Program for TOKYO Tourism(以下、VCP)への参加を決めた理由は、「デザイン経営を深めたい」という想いからだそうです。そんな彼女が、社会人と共に学ぶ中で感じた新たな気づきとは。率直な想いを伺いました。
VCPが目指すのは、学びを得るだけでなく、 受講者同士がつながり、新たな価値を生み出す場 となること。
プログラムを通じて生まれるのは「コミュニティ」です。学びをきっかけに対話が生まれ、行動することで新しい人との出会いにつながります。また、得た知識を自分の中だけに留めず発信することで、さらに多くの人が関わり、新たな可能性が広がっていく。そんな 「学びと実践の循環」 をつくることが、このプログラムの大きな目的です。
今回は、その一環として3名の受講生にインタビューを実施しました。
彼らがVCPプログラムで何を学び、どのような変化を感じたのか。
その言葉を通して、このプログラムが生み出す可能性を探ります。
<八巻綸花さんプロフィール>
山梨県出身。高校から上京し、東京表現高等学院MIICAに入学。クリエイティブを学びながら、芸術祭で映画制作やファッションショーの企画に携わる。芸術祭実行委員として全体の企画・運営も担当。高校1年時には山口県のまちづくりプロジェクトにも参加。趣味は映画鑑賞、古着屋巡り、演技。自分の好きなことに囲まれた人生を送り、素敵な旦那さんを見つけて結婚するのが夢。
「創る・伝える・つなげる」 今、 彼女が目指す道
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―まず最初に、綸花さんが今、学校でどんなことを学んでいるのか教えてください。
中学までは山梨にいたんですけど、今の学校を見つけて、「普通の勉強じゃなくて、クリエイティブを学びたい!」と思い、上京しました。今は寮生活をしながら学校に通っています。
学校では演技やイラストレーション、フォトショップの使い方といった技術的なことから、企画立案やプロデュース学まで幅広く学んでいます。例えば、今注目されているアーティストの作品や考え方を学び、それをヒントに「自分たちに何ができるか」を考える授業もあります。
それから、年に2回芸術祭があって、私はそこで2本映画を制作しました。今は3月の芸術祭に向けてファッションショーを企画しています。
高校1年の時には、山口県にある地域の町おこしのためにロゴ制作にも携わりました。自治体の方に向けて「この地域の課題をどう解決していくか」というブランディングや、将来のビジョンについてプレゼンもしましたね。
―どうして今の学校に進学しようと思ったんですか?
実は、母が今の学校を勧めてくれたんです。私は普通に勉強して進学してもいいのかなって思ってたんですけど、もともと子役をやっていて、養成所に通っていた経験もあって。演技もすごく好きだったし、詩を書くのも好きだったので、それを見ていた母が「こういう学校もあるんだよ」って教えてくれました。
ただ、私は絵が得意なわけじゃないし、不安もあったんですけど、「この学校に入ったら違う人生が歩めるかも」と思って進学しました。
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―子役は、自分でやろうと思って始めたんでしょうか?
そうですね。小学校2年生のときに「やりたい!」って自分から言いました。「表参道高校合唱部」っていうドラマがあるんですけど、それに出ていた芳根京子さんをすごく好きになって。彼女がその後、朝ドラにも出演して、「私も朝ドラ女優になりたい!」っていう夢を持つようになったんです。
でも、今も演技は好きなんですけど、「演技一本でやっていくのは違うかも」と感じていて。私はいろんなことに興味を持つタイプなので、何かひとつに決めてしまうと逆にプレッシャーを感じちゃうんです。それよりも、企画を立てたり、人をつなげたりする方が向いてるのかなって思い始めています。
例えば芸術祭では、実行委員として企画や運営をしていて、実行委員長もやらせてもらっているんですけど、実行委員の活動って、基本的に先生の管理下にないんですよね。ほぼ自分たちだけで全部作り上げるんです。
―へぇ〜!!すばらしい!
学校には「芸術祭期間」という、授業がほとんどない特別な期間があるんですけど、「それだけじゃ時間が足りないよね」「じゃあ半年前から準備しよう!」って提案したりもしていて。そういう全体の流れを考えるのが好きだし、自分に向いてるんじゃないかなって思っています。
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町おこしの経験が導いた、VCPへの挑戦
ーVCPのプログラムに参加した動機はなんだったのでしょう?
さっきもお話した町おこしのロゴ制作をきっかけに、地域活性や観光業に興味を持ち始めました。そんなとき、武蔵美のウェブサイトでVCPを知って、そこに書かれていた「デザイン経営」という言葉に惹かれたんです。
説明会にも参加して、「もっとデザイン経営について学びたい!」という気持ちが強くなったのが、応募した理由のひとつです。
あとは、私の学校はすごく小さくて、コミュニティも限られているので、社会と触れ合う機会があまりないと感じていて。VCPには社会人の方が多く参加するだろうと思ったので、思い切って飛び込んでみようと応募を決めました。
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―高校生で「デザイン経営」にピンと来るってすごいなぁ。それだけ、町おこしのプロジェクトがインパクトのある経験だったんですね。
そうですね。そこで「ブランディング」という言葉や、プロジェクトの進め方を知りましたし、ターゲットに向けた経営プロセスを考えること自体が、自分は好きなんだなって気づきました。
―自分の地元「山梨」と絡めたいって気持ちもありますか?
そうだと思います。気づいたら「山梨を活性化させるにはどうしたらいいんだろう」って、勝手に考えちゃうんですよね。山梨で育ったことが、自分の中で大きいんだと思います。
―私も地方出身だけど、「地元を盛り上げたい」と思うようになったのは大人になってからだったなぁ。当時はとにかく東京に憧れていて、「ここには何もない」って思ってたくらいで(笑)。だから、高校生の時点で地元を大事に思えるのはすごいし、やっぱり山梨が好きなんでしょうね。
そうですね。私は結局、自然がすごく好きなんです。だから、ビルが立ち並ぶ景色よりも、山や川がある風景の方が落ち着くし好きだなって思っていて。それもあって、地元への愛着が強いのかもしれません。
あとは、子役の仕事で東京に行く機会が多かったので、山梨のことを客観的に見ることができたのかも、って思います。
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―なるほど〜。 関心してばっかりだけど(笑)
そんな綸花さんでも、VCPを受講する上で不安なことはありましたか?
社会人の人と関わりたくて、自分で決心して参加を決めたんですけど、毎回「私やっていけんのかな」って不安でいっぱいです…。
―いや、全然大丈夫だと思いますよ!(笑)逆に、良い意味でのギャップみたいなのはありましたか?
思ったよりグループワークが多くて、それがすごく好印象でした! 最後にプレゼンテーションがあって講評があることはウェブサイトにも書かれていたんですけど、実際に社会人の方々のプレゼンを聞く機会ってなかなかないし、すごく刺激になっています。
特に印象的だったのが、Day1 でやった「今日学んだことを一文字で表す」というワーク。それまで頭の中がパンパンだったのが、一気に整理されるような感覚があって。「こういう形で学びって得られるんだな」「ちゃんと体得できるんだな」って実感できたのが、すごく良い経験でした。
―もっと講義っぽい雰囲気だと思ってた、ってことですよね?
そうです! 予想以上にコミュニケーションが多くて、思っていた以上に楽しく学べる環境でした。
日常こそが観光の本質? 視点を変えるって面白い!
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―まだ講義の途中ではあるけれど、受講してから社会の見方が変わったり、日々の行動が変わったりしたことがあれば教えてもらえますか?
実は、もともとnoteをやっていたんです。高校1年生の夏くらいに「映画のレビューを毎週書こう!」と決めて、先生にも宣言して始めたんですけど、結局投稿できたのは3本くらい…。半年に1本のペースでした(笑)。
でも、講義の中でnoteの広報担当の方の講習があったり、Day1のグループワークで「学びはすぐにアウトプットすることで定着する」と実感したりして、それ以来、noteの更新を頑張るようになりました。
今は映画のレビューだけでなく、授業で学んだことや気づきをすぐにアウトプットする場として活用しています。以前よりも学びが深まっているのを実感できるし、「発信すること」が自然と習慣になりつつあります。
―先生から聞いて印象に残っているフレーズやエピソードはありますか?
Day1のグループワークで「日常」というキーワードが出てきたことが印象的でした。
私はそれまで、「観光=非日常を体験させるもの」だと思っていたんですが、先生が「観光とは、日常の中に潜んでいる“ふわふわ”を見つけること」と話していて。その“ふわふわ”とは、敢えてふわっとした時間を作ることで、そこに何を入れるかを自分で考えて、自己表現につなげていく、ということ。
「そっか、観光って非日常だけじゃなくて、日常こそが大事なんだ!」と、今までの固定観念が覆されて、すごく腑に落ちたんです。それ以来、日常をもっと大切にしようと思うようになりました。
高校では出会えない学びが、世界を広げてくれる
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―観光×アートに興味があるけれど、参加するのを迷っている高校生に向けて、この講座の魅力を伝えるとしたら、どんなことを伝えたいですか?
最初のグループワークでご一緒した社会人の方がいたんですけど、その方の視点がとても新鮮で、私が考えもしなかった切り口で物事を捉えていたんです。
特に印象的だったのが、Day2のワーク。テーマは「このMa(VCPの会場)という空間をどう活かすか」「どういう価値を生み出せるか」というものでした。でも、私はなかなか答えが見つからなくて思い悩んでしまって……。そこで、彼に話しかけてみたんです。
そしたら、「ここって、1人になれる空間もないし、俺には開放的すぎて落ち着かない」と言っていて。その言葉を聞いてハッとしました。私はすでにある魅力的なところを探していたけれど、彼は「この空間に足りないもの」を見つけようとしていたんです。
―先生以外にも、一緒に学んでいる仲間からも刺激を受けているんですね。
本当にそう感じます。彼に限らず、社会人の方々「全員が先生」みたいな感覚で、周りの人すべてから刺激を頂いています。
それから、高校の担任の先生に「自分の手の届く範囲ではなく、ちょっと背伸びしないと届かない環境に身を置くと、大きな学びがある」と言われたことがあって。実際にこの講座でも、ビジネス用語が飛び交って「何を話しているのか分からない」っていう瞬間もたくさんあるけれど、必死についていくことで、どんどん自分が高められているのを実感しています。
―その先生もすごい!
本当にそうなんです。先生の後押しもあって、「社会人と一緒の講座なんてハードルが高いかな……」と思いつつも思い切って飛び込んでみたら、すごく刺激的で、自分のスキルアップにつながる機会になりました。だから、興味がある人はぜひ一歩踏み出してみてほしいなと思います!
「日常のシンボル」として、昼でも輝く星空を!
―最後に、綸花さんがもし魔法を使えたら、東京にどんな名所を作りたいですか?
私、すごく星が好きなんです。それこそ山梨に帰ると、当たり前のように満天の星空が広がっていて。でも、東京に来て唯一残念だなと思うのは、星がほとんど見えないこと。特に私の住んでいる場所では、ほぼ見えないんです。
もちろんプラネタリウムもあるけれど、どうしても「作り物」っていう印象があって……。だから、もし魔法が使えたら、東京にもずっと本物の星が見える場所を作りたい! 昼間でも夜空のように暗くて、星が輝いている空間があったら、私はずっとそこにいるかもしれません(笑)
―それって、星に癒しの要素を感じるから?
それもあるけれど、それこそ私にとって、星は「日常の一部」なんです。山梨では、オリオン座を見つけたら「もう冬だな」って季節を感じる、そんな生活が当たり前でした。でも、東京では星が見えない。そこで初めて「私って本当に星が好きだったんだな」って実感したんですよね。
だからこそ、東京にも「日常のシンボル」としての星空があったら面白いと思うんです。昼と夜が逆転するような、新しい感覚の空間。そんな場を作ることができたら、東京の魅力もさらに広がるんじゃないかなと思います!
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綸花さんの「東京の推しスポット」は、、、原宿!
流行の最先端というだけでなく、原宿の魅力は「自由にいられること」。山梨では人が少ない分、誰かに見られている感覚があって、自由に行動しづらくて。でも、原宿は人が多くて、誰も自分に注目しないからこそ、逆に開放感があるんです。服も大好きなので、古着屋巡りが楽しめるのもイイ!街を歩いているだけで落ち着く、私にとっての特別な街です。
<編集後記>
綸花さんと同じく高校2年生の娘を持つ私にとって、今回のインタビューはとても刺激的な経験でした。未来を見据えて、ここまで学びに前向きな高校生がいるだなんて……!私があまり理解していなかった「デザイン経営」についても、さっと分かりやすく説明してくれて、感心しきりでした。きっと、彼女の若いエネルギーに刺激を受けている受講者も多いはず。これからも、周りの若い世代を巻き込みながら、東京をもっと面白くしていってください!
取材ライター/平床麻子