プロトタイピングのためのプロトタイピングの世界——めちゃめちゃ上流でもわからないならつくってしまえ!
この記事について
この記事は、令和3年5月10日(月)に開催された、武蔵野美術大学大学院造形構想研究科修士課程造形構想専攻クリエイティブリーダーシップコース(以下「本研究科」といいます。)の科目である「クリエイティブリーダーシップ特論」(以下「CL特論」といいます。)の第5回のエッセイです。
最前線でご活躍される方の連続講演イベント第5回のスピーカーは、株式会社ソフトディバイス(所在地:京都府京都市北区上賀茂岩ケ垣内町41番地ビーロックキタヤマ)の八田晃様であり、テーマは「プロトタイピング」です。ソフトディバイスは「京都老舗のデザインファーム」ということで、日本のヒューマンインターフェースデザインのはしりだと山﨑先生からご紹介がありました。もともとはプロダクトデザインの会社であり、今日まで様々な有力メーカーがクライアントとしてついているようです。強みとしても、プロダクトユーザーインターフェースデザインにあるようです。
例によって書き手である私は諸々ググりながらこの記事を書いていることをご容赦ください。以下に述べることは、私の勝手な解釈であり、講演に対する印象論に過ぎません。この記事に含まれる誤りのすべては執筆者である私の責任に帰しますので、読者の皆様におかれましては、あらかじめご了承ください。
講演内容について
「プロトタイピング」とは試作のことです。今回は、ユーザーインタフェースのプロトタイピングに焦点があてられました。ソフトディバイスの場合には、「先行開発(アドバンス)」と呼ばれる仕事が多く、数年後~十数年後の製品のためにアイデアを出して体験できるプロトタイプをつくるとのことでした。実際の「製品(ライン)」とは異なり、世に出ることは非常に少なく、目に触れる機会も少ないものです。もっとも、僅かながら表に出るものもあり、ご講演中では、ショールームやモーターショーのケースをはじめとして、様々なケースが紹介されました。
僕らはつくって体感するというところに非常に重きを置いている会社です。プロジェクトの写真はプロトタイピングの完成形で、僕らはこのプロトタイプのためのプロトタイプをつくっています。こういうところに行きつく間にラフなプロトタイピングをいっぱいやってきました。「より上流でつくる」ことがテーマであり、「考えるためにつくるプロトタイピング」をやっています。ここ十年、二十年はモノをデザインするというより人の行動をデザインする方向にきていて、考えないといけない領域が増えてきました。UX ということですけど、ユーザーの体験をデザインしましょうねということが言い出されてからプロセスというものが標準化されました。〔…〕僕らの場合は、紙ベースで考えてもなかなか納得感が得られないことが多くあります。議論が空中戦になりがちなところを、ちょっとでもモノがあると一気に腹落ちするところがあります。本来のプロセスならめちゃめちゃ上流のところでもとりあえずつくっちゃう。フィードバックベースだと現実の課題は見つかるんですけど、未来がどうなるというところを観察するにはどうすればいいんだと。これは社是というかミッションなんですけど、「分からんならつくてしまえ」。
プロトタイプをつくってみて何を考えるか?
一般的なプロトタイピングにも「つくってみて考える」という要素は当然にありますが、ソフトディバイスでは「より未来」のため「より上流」で「物質的」につくるということを志向しているものと受け取りました。このような意味では、抽象と具体の行き来の幅が大きいということなのでしょう。本来は頭の中で想像されるだけの未来のことを現実的なモノに落とし込むというのは、なかなか容易ではないことだと個人的には感じているところですが、それをやる会社なのだと理解しました。
ラフなプロトタイプの例として基盤とボタン電池で体験できるものをつくるケースもご紹介をいただきましたが、本質的な体験だけを伝えるものにすることは大変難しい旨もお話しされていました。そのあたりは頭を悩ませ、常に気を遣うそうです。また、実社会ではプロセスが切られてしまい、上流の上流の部分が終わっていることもあるそうで、そのあたりはなんとか食い込もうとしてきたとのことでした。ひとくちに「プロトタイピング」と言っても、ものすごく奥深く、幅も広いのだと思いました。「確かめるための」プロトタイプではなく「スケッチとしての」プロトタイプという考え方はとても面白く、私も積極的に取り入れていきたいと思います。
(執筆者:平塚翔太/本研究科 M1)