しゃべるピアノ
勢いよく振り下ろされたツルハシから響くのは、透き通る『ラ』の音だった。
ピアノ鉱石の採掘現場では今日も屈強な男達が腕を振るっていた。鉱石は小さな衝撃でも音を発する。現場は開演前のオーケストラが練習しているかのように、ピアノの音が鳴り響いていた。
「今日は付き添いだからね」
新人調律師の私は先輩と共に洞窟に入った。調律師の仕事は目当ての鉱石を見つける所から始まる。私は石が怖がらないように、優しく会話をするように壁を叩き、を確認しながらシャベルで掘り進めた。
「そうそう。ゆっくり」
耳を澄ませていると、音程が徐々に変化していることに気づいた。目的の音に近づいている。私は狙いを定め、シャベルを思い切り壁に突き刺した!
ガ~~ン!
鍵盤を乱暴に叩いた音が洞窟中に鳴り響いた。堅い岩盤に当たったようだ。
洞窟の天井から、パラパラとカケラが落ちてきた。ド、レ、ソ♪と無様な調べが痺れて動けない私を包んだ。