動かないボーナス
人けのない美術館で、怪盗はある名画を狙っていた。
『ボーナスの誕生』
かの有名なビーナスの弟を描いたその絵は、知名度は劣るものの世界的価値は高い。
「これ...か?」
額縁には蓋をしたホタテ貝が一つ描かれていた。裸の男性のはずだが。
「まあいい」
怪盗は作業に入った。しかし、額縁はびくともしなかった。
「むだだ」
突然、ホタテ貝から声がした。
「外には出ない」
「なぜだ」
「俺には価値がないんだ。ビーナス姉さんの貝となって浜辺までタクシーした俺のことを、誰も気にもとめない。姉さんはあんなにチヤホヤされてるのに......父さんだって」
「甘ったれるな!」
怪盗はホタテ貝の蓋を開けようと、手を突っ込んだ。しかし、貝は開かない。
どうしたら、この子の心を救えるのか。いや、無理矢理はだめなんだ。
「君はだめじゃない。いつまでも待つよ」
怪盗はボーナスの心が開くまで、夜を明かす決心をした。
翌朝、怪盗と裸の男が一人、捕まった。
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