本田宗一郎も愛した「鰻家」
その日は、生憎のどしゃ降り。店の扉を開け傘を閉じると、雨の雫石が首筋を伝わって洋服の中まで滴り落ちた。
明るい店内は思いの外狭く、左手にカウンターテーブルと、右手に6人掛け出来る程度のボックス席がふたつあるだけ(二階席もあるようだったが)。豪雨の梅雨寒の空間から、温かい、独特のいい香りで、身体中を一気に包み込まれる感覚を味わった。
「いらっしゃいませ!!」の声は、あっただろうか?少々無愛想にも感じられる調理人のその仕草には、旨いものを作っているのだから、という職人の自信の裏写しがあるようにも見えた。それは、この店が事前予約が必要なことからも窺える。つまり、イチゲンさんお断りということ。
最初に出て来た白焼は、″時価″。添えられた山葵で食べる。ふかふかで流石に美味しい。年齢の行った女将さんが、美味しいでしょう、美味しいでしょう!!と、ニコニコしながら、食べ方を優しく指導してくれた。
程なく出て来たお重。その色合いやタレの味わいは、淡白に感じ、逆に、白焼き同様に、素材の良さを最大限に引き出そうとしているようにも思えた。
あとでインターネットで調べると、この店は、あの本田宗一郎さんが愛した伝説のお店だったことが分かり、妙に納得出来たものだ。
息子夫妻にご馳走になるという至福のひととき。
「鰻家」東京都豊島区南長崎5丁目18-17