ただそれだけの朝だった
20200221 春コミ新刊 / 62p / ノマレイ現パロ同棲本です。
「当たり前の日常」を愛おしくおもう瞬間を描きたかった本でした。
下地にイツカさんが個人宛に書いてくれたノマレイの小話を元にして膨らませています。後書きにも書いた通り、日常の何気ない暮らしの中で、誰かを「好き」だと思う瞬間、思い知る瞬間を描きたいなあと思っていたのでですが、構成力不足がありありと溢れてしまって無念です。もうちょっと分かりやすく組み立てたかったのですが、なかなかどうして上手くいきませんでした。「当たり前」が「当たり前」であることを描くのは難しいですね。
ほんとうのところ。
冒頭の引っ越しシーン、家具のお買い物シーン、初夜(?)の3シーンだけの予定でした。36pくらい。いつのまにか62pになってました。ギルダのシーンは余裕があれば~くらいの気持ちでした構想時点では。そして一番予定外だったのは「3. はじまりもおわりも」の台詞なし3Pの日常~押し倒すところのシーンなんですが、全く描く予定はなかったのに締切一週間前に「こういうの入れた方が流れがスムーズというか読んでて萌えるな????」と思って急遽追加しました。描いてて楽しかったし、実際好評で嬉しかったです。レイの誕生日時点で表紙以外白紙だったので、ほんとうに間に合わないかと思いました。間に合ってよかったです。
ノーマンとレイの「特別」
ノーマンとレイが付き合う前まで果たしてどういう関係性であったのか、は、イツカさんの小説で語られるかたちになっています。レイの「特別」が当たり前だったノーマンと、当たり前に彼が「特別」なレイの関係は、傍からみたら歪つかもしれないし、もしくはじれったかったかもしれないし、けれど決して不幸と呼ぶものではなく、ただ少し触れがたいものとしてそこにあったのだと思います。触れがたいのは痛々しいほどのレイの「特別」を、間違いなくノーマンが受け入れていたからです。もしもノーマンに少しでも困惑が浮かんでいたら、きっとレイは間違いなく手を引いたと思うので。
甘やかすのが上手くて、放っておけなくて、そういうレイの本質に、ノーマンに対してだけ、切実さが加わる。どこまで触れていいだろう、どこまでなら自然だろう、どこまでなら明け渡せるだろう。ギリギリのラインを探るような惑いがいつからか加わって、でも、やがてその一切を隠すことを諦めて、レイはノーマンの傍に居続けた。きっと聞いたら教えてくれる。「僕のことが好き?」と尋ねたら、レイは頷くだろうと、ノーマンの中に確信があった。だってレイはノーマンを傷付けない。(イツカさんの寄稿文より)
けれどそういう「特別」を受容すること、受け入れて隣に置くこと、傍らを許すこと、それはつまりそれだけで自分にとっても「特別」なことと同じじゃないのかな、というのがエマとギルダの話です。特別に想われていたら、自分にとっても特別になってしまう。だってその消失の瞬間に、振り返らずにはいられないほどの空虚さを覚えるから。
エマとギルダのはなし。
「ノマレイにおけるエマちゃんの立ち位置が分からなくなるので自分は描けない」と仰っていたノマエマの方がいて、成程な、と思いながらわたしの中でエマは大体こういう立ち位置です。普段どちらかといえばフルスコアの中で末っ子の立ち位置に近いエマが、いちばんお姉さんの顔をする。ノーマンの拙さを見抜いて、レイの頑なを許して、「仕方ないなあ」って笑う。エマは自分ごとの恋愛にはそりゃ鈍そうですが、他人事は――とくにノマレイふたりについては近くにいるので余計――聡い子じゃないかな、と思ってます。人の心の機微に敏感、という意味で。「好き」とか「恋」は分からなくても、「特別」と「大事」は分かる子かなって思っています。
いろいろ描きたかったこと
ノーマンがレイを想う瞬間は、やっぱり少し特別です。想われ慣れているノーマンが、レイに指を伸ばしたくなる瞬間。余裕ぶって、恰好つけて、レイを振り回す彼が、そういうのすべて取り繕えないままそれでも伸ばす指の先にレイがいたときの、ひかりのうつくしさを想うと堪らなくなる。その指に触れられたレイの、溢れ出づる心を想うと泣きたくなってしまう。レイに心を与えられることに慣れていたノーマンが自分から与えたくなる瞬間と、ノーマンに当たり前に心を向けているだけだったレイが考えもしなかった色で心を返された瞬間が、好き。そういう瞬間を描いていたいです。
「思考より、声よりも言葉よりもはやく、溢れるときはどうしたらいいの」
今回のサビです。
作業中はずっと実況を流していたので特に合わせ聴いていた曲はないのですが、合わせるなら須田景凪さんの「はるどなり」です。ああいう瞬間を、描きたかったはなしなので。きのうよりもふかく、だれよりちかくで、春舞う姿で、こきゅうをしていた。
日常本を出すのは技量がいるんだなあ、と実感した本でしたが、挑戦できたのは楽しかったです。またいつか再チャレンジしたいと思います。