![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/108687357/rectangle_large_type_2_99e720a85c321b2678aed9ae241513d9.png?width=1200)
Telegramにおけるヘイトインフルエンサーが行動を誘導するプロセス、方法、目標
「Social Media + Society」の最新号の紹介の続き。同誌はSNSに関する研究を中心とした査読つきのジャーナルだ。今回の特集は政治的インフルエンサー。今回は、白人至上主義者のインフルエンサーがTelegramを使ってヘイトグループを誘導し、行動をおこさせる過程を分析した研究をご紹介したい。この論文では、実際にこうしたグループに潜入して投稿内容などを子細に調べている。
Hate Influencers’ Mediation of Hate on Telegram: “We Declare War Against the Anti-White System”(https://doi.org/10.1177/20563051231177915)
●論文の概要
この論文は顔見せしている白人至上主義者ヘイトインフルエンサーのプラウドボーイズと、顔見せしていない(匿名性を保つために常に顔を隠している)グループWhite Lives Matter(WLM)の2つのグループのTelegramにおける活動を調査し、ヘイトグループを行動にかきたてるプロセス、方法、そしてその結果を分析している。
ヘイトインフルエンサーとはSNSを利用してメンバーを募集し、ヘイトを広める政治的インフルエンサーの一種である。多くの場合、モバイルをを利用している。Telegramでは、ヘイトインフルエンサーは、ヘイトグループのリーダーや有力メンバーあるいはチャンネルの管理者として活動している。
ヘイトインフルエンサーはボットやトロールなどを追っていても見つからない。よく使われているデジタル影響工作のレーダーには映らないのだ。
顔見せヘイトインフルエンサーは、チャンネルコンテンツに個人的なストーリー、画像、自撮り、他のファンディングページ、メディアコンテンツ、イベントの舞台裏の映像などを投稿している。顔見せしていないヘイトインフルエンサーではあまりない、コメントやエモーティコンによる反応を通じて、フォロワーと関わっている。
顔見せしていないヘイトインフルエンサーは、自分自身とフォロワーの匿名性を維持している。WLMは、メンバーがSNSで身元を明かさないようにするためのポリシーを守っており、例えばプロフィール画像に個人的な画像を使用してはいけないというルールなど細かく決まっている。
![](https://assets.st-note.com/img/1687195792944-S9w9QESPeK.png?width=1200)
明らかになった共通するテーマは、下記の6つ。
・モバイルによる動員( mobile mobilization)
・他者化(othering (us vs them)
・同胞愛(brotherhood)
・被害者意識(victimhood)
・恐怖(fear)
・ナショナリズム(nationalism)
![](https://assets.st-note.com/img/1687195896529-xDPG8s9dFD.png?width=1200)
・プロセス
Telegramチャンネルに参加することで同じ考えを持つプライベートな感覚のオンラインコミュニティが形成される。ヘイトインフルエンサーとフォロワーの間のパラソーシャルな関係が強化され、個人化、安心感、親近感が高まる。さらに、イベントなどの活動においてスマホで瞬時に情報共有、メディア共有ができるので、個人化、安全性、親近感の向上が見られる。アメリカ連邦議事堂襲撃事件においてもスマホで撮影した画像や動画が共有されていた。
・モバイルによる動員
今回の調査では4つの方法が明らかになった。
恐怖のプロモーション。白人は絶滅の危機に瀕しているという恐怖を煽る。
他者化。「我々」対「彼ら」の構図を強化する。非白人グループを白人主流社会から劣った存在と見なし、人種差別的・排外主義的見解を促進して他者化を進める。
被害者意識。白人が自由⺠主主義者やアンチファ、移⺠などの新しい政治勢力によって不当に抑圧されているという被害者意識。
同胞愛。社会から疎外されていると感じる人は、自分の価値やアイデンティティを肯定してくれる支援集団に惹かれる。ヘイトインフルエンサーは、集団的アイデンティティ、帰属意識、目的、ステータスの感覚を提供する。
・目標
目標は多様化しており、予測が困難であり、過激になっている。パンデミックによって、失うものが何もない人々を大量に生み出された。WLMのメンバーは、パンデミックによって、政治・経済システムの脆弱性が露呈したと主張している。この脆弱性は、革命を起こそうとする極右のヘイトグループを活気づけている。社会が不安定になったため、以前は受け入れられなかった社会の破壊についての言動が受け入れられるようになっている。
論文では今後の課題としてより広い範囲での調査に基づいた研究をあげている。
●感想
名前の画像やデータが大変参考になった。
個々の白人至上主義者グループは決して規模が大きいわけではないが、それらと他のグループが共同でアメリカ連邦議事堂襲撃事件を起こした。その根底にあるのは反主流派=自分たちを差別し、抑圧してきたものへの憎しみと反発だ。政治、文化、経済において無視されてきた人々という気がする。
「平和で安全な社会にロシアが偽情報やナラティブを撒き散らして混乱が起きた」といったとらえ方は誤りであるだけでなく、それ自体が正しい認識を歪ませる偽情報あるいはナラティブと言ってよいだろう。ロシアの偽情報やナラティブに騙される人々に、「正しい事実とリテラシーを与えることは効果的な対策になる」というのはこの誤った認識から生まれている気がする。
<中略>
「社会の分断と対立は深刻になっており、そこをロシアにつけ込まれた」という方が実態に近い。
陰謀論とロシアの世論操作を育てた欧米民主主義国の格差(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2023/05/post-46.php)
影響工作の終焉 プーチンがライターを貸すとアメリカが燃える(https://note.com/ichi_twnovel/n/n70dfc3cc4577)
アメリカの過激派を増幅するロシアのSNS(https://note.com/ichi_twnovel/n/n379865835b89)
この反感はアメリカやヨーロッパだけでなく、グローバルサウスの国々でも共有されている気がする。統一したイデオロギーはないが、疎外、抑圧、反感、不信だ。
好評発売中!
『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。
いいなと思ったら応援しよう!
![一田和樹のメモ帳](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/342355/profile_d3a502fb7307fd5cd382f71cd9664c52.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)