岐路に立つ中国のPMC #非国家アクター メモ 8
今回の記事は信頼のおけるメディアからのものがほとんどだが、情報が限られているためスプートニクなどを情報源としているメディアもあることをご承知おきいただきたい。
●中国のPSC(民間警備会社)
中国にもPMC(民間軍事企業)が多数存在する。PMCは昔から存在しており、中にはアメリカの特殊部隊OBのエリック・プリンスが香港に1997年に設立したものもある。法的な整備は一帯一路に先立つ2009年9月の「保安服務管理条例」(Baoan Fuwu Guanli Tiaoli)でPSC(民間警備会社)の法的枠組みができたのが最初である。ただし、この法律は国内についての規定であり、国外での活動などについては定めていない。
2013年に一帯一路が開始されるまでに、4,000の企業と430万人の警備員が登録され、2017年には企業の数は5,000になった(The internationalization of China's private security companies、メルカトル中国研究センター、2018年8月16日、https://www.merics.org/en/report/guardians-belt-and-road)。
中国のPSCは一帯一路など海外での中国企業や国民を守るための仕組みとして始まったこともあり、PMCに比べると業務範囲は限定されている。PSCはあくまで特定も場所を警護するためのサービスであり、PMCはそれ以外の軍事活動などのさまざまな活動を行う(China's Security Contractors Have Avoided the Fate of Russia's Military Contractors, So Far
by Cortney Weinbaum、2022年3月11日、https://www.rand.org/blog/2022/03/chinas-security-contractors-have-avoided-the-fate-of.html)。
ロシアのPMCは影響工作、誘拐、拘束、拷問、暗殺などなんでもやる。中国があくまで限定的なPSCにしたのは、ロシアのPMCが国際的な非難を浴び、問題視されていることを見ていたからかもしれない。中国のPSCは原則として武器を携行/使用せず、必要な場合は外注する。
中国のPSCは見かけ上、独立した企業となっている。中国国内で警備サービスを提供する企業は100%国有か、51%以上国家が資本を持っていなければならないため、政府との関係は明らかだ。しかし、海外で活動するPSCにはこの制限がないため、国家から独立した企業でも問題ない。とはいえ実態は国家と密接に結びついていると考えられる(Chinese Private Security Contractors: New Trends and Future Prospects、2020年5月15日、https://jamestown.org/program/chinese-private-security-contractors-new-trends-and-future-prospects/)。戦略的に重要な地域における中国の影響力を拡大し、経済的便益を広げることを目的としている。
ただし、中国のPSCに関する情報は非常に限られており、その実態はほとんど明らかになっていない。
●アフリカにおける中国のPSC
アフリカで中国の経済や影響工作での存在感が増していることは有名だが、軍事面でも同様で、PSCも一翼を担っている。Economic Timesは軍事的な進出の意図を隠すためにPSCを利用していると断じている(China using private military companies to expand its footprint in Africa、2022年6月13日、、https://economictimes.indiatimes.com/news/defence/china-using-private-military-companies-to-expand-its-footprint-in-africa/articleshow/92166610.cms)。また、スパイ活動にも従事していると指摘している。
Forbesの「China And Russia Make Critical Mineral Grabs in Africa While the U.S. Snoozes」(2922年1月13日、https://www.forbes.com/sites/arielcohen/2022/01/13/china-and-russia-make-critical-mineral-grabs-in-africa-while-the-us-snoozes/)によれば戦略物資であるレアアースの精製は中国がほぼ独占しており、2019年のアメリカの精製レアアース輸入の80%が中国からだった。ロシアも世界第4位の提供を誇るが、いずれもアフリカから原材料を採掘している。ロシアはPMC、中国は経済でアフリカを席巻しているとしている。それを支えるもののひとつがPSCとなっている。
●中国のPSCの変化
近年、中国のPSCに変化が見られているという。
ひとつはタリバンがアフガニスタンを征し、さらに周辺地域に進出する可能性が出て来ている。中国は警戒を強め、中央アジアにおけるPSCが増強される可能性がある(Beijing Expanding Size and Role of Its ‘Private’ Military Companies in Central Asia、ジェームズタウン財団、Eurasia Daily Monitor Volume: 18 Issue: 115、2021年7月21日、https://jamestown.org/program/beijing-expanding-size-and-role-of-its-private-military-companies-in-central-asia/)。
もうひとつは中国の安全保障の見直しである。メルカトル中国研究センター「"Comprehensive National Security" unleashed: How Xi's approach shapes China's policies at home and abroad」(2022年9月15日、https://www.merics.org/en/report/comprehensive-national-security-unleashed-how-xis-approach-shapes-chinas-policies-home-and)によれば、中国は包括的な「あらゆるものの安全保障」を唱えており、国内のすべてが安全保障を優先することになるという。
従来優先されていた経済よりも安全保障が優先されることになる。このため、PSCの位置づけと役割も従来とは変わってくる。今のところ、中国PSCの世界的なPMC業界におけるシェアは低いとはいうものの、世界各国にある中国企業や拠点に派遣され、それが安全保障に関わる役割も担うことになるのは新しい脅威となるのは間違いない。
●Andrew Mumfordの予言
Andrew Mumfordは、10年前「Proxy Warfare and the Future of Conflict」(Mumford (2013) Proxy Warfare and the Future of Conflict, The RUSI Journal, 158:2, 40-46,、2013年4月28日、https://doi.org/10.1080/03071847.2013.787733)で、『対 テロ戦争症候群』、⺠間軍事企業の台頭、デジタル技術の影響、中国の台頭の4つのトレンドを予測し、それは当たっていた。民間軍事企業とサイバー攻撃は代理戦争の道具として多用される。米中間においては経済の相互依存性が高いため、特に匿名性の高い代理戦争が行われるとも指摘している。
War On The Rocksは「THE RETURN OF GREAT-POWER PROXY WARS」(2021年9月2日、https://warontherocks.com/2021/09/the-return-of-great-power-proxy-wars/)で、代理戦争が非国家アクターにまで広がる可能性に触れ、さらに民間軍事企業やサイバー攻撃の利用が増加するとしている。その一方で、アメリカにはこうした代理戦争への備えがなく、大幅な戦略の見直しが必要と指摘していた。しかし、最近公開されたバイデンの国家安全保障戦略を見る限り、まだ対処はできていないようだ。
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鈴木エイト『自民党の統一教会汚染』拝読。
我が国で高まるサイバー脅威「インフルエンスオペレーション」ウェビナー資料
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