世界各地で同時発生した反ワクチンから親ロ発言への転換
世界各地で同時発生した反ワクチンから親ロ発言への転換から、ロシアのネット世論操作プレイブックと、陰謀論者のウィンウィンの関係が見えてきた。
現在、ロシアは世界各地でネット世論操作を行っており、QAnonなど陰謀論、過激派、右派などのグループがウィンウィンの関係となって拡散しているようだ。
ざっと確認した範囲では、日本、ウクライナ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ドイツ、スペイン、スイス、チェコで行われている。
●ロシアの拡散ネットワークと、陰謀論、過激派、右派が結びついた
コロナに関して偽情報を拡散するオペレーションはパンデミック開始以降活発に行われていたが、そこで構築した拡散ネットワークをウクライナ危機でのロシアの立場を擁護するものに転用した可能性がある。ロシアのネット世論操作プレイブックのひとつである「アカウントの使い回し」だ。
拡散している中には、ロシアが関与していることを知らない者が多数含まれている可能性もある。現地の人間を洗脳して利用するのもプレイブックの基本だ。利用される現地の人間をホームグロウンと呼んでいる。
この影響工作がもっとも効果を発揮するのは、他の陰謀論や過激派、極右などの勢力が相乗りしてきた時だ。ロシアが彼らをさらに焚きつけるための材料を提供すれば、彼らは盛り上がり、拡散し、さらには独自の解釈したり、陰謀を暴いたりくれる。
今回、ロシアは、「ネオナチ」、「バイオラボ」など既存のグループの琴線に触れるワードを連発した。一般人には、なぜそんな馬鹿げたことを言い出すのか理解できないと思うが、陰謀論者などには結構の撒き餌となる。世間の関心がコロナからウクライナに移っていたこともあり、陰謀論者などは新しいテーマに移動した。
●QAnonをはじめとする各種グループがより注目度と陰謀の規模が大きいウクライナに乗り替えた
QAnonは以前からロシアが流布する、「コロナはアメリカの陰謀」という説を支持しており、今回のウクライナ侵攻によってバイオラボが破壊されたと主張している。
アメリカでは極右ニュースサイトなどが、アメリカがウクライナの生物兵器研究所に資金を提供したという、長年にわたる根拠のないロシアの主張を支持していた。侵攻が進むと、こぞってロシアを支持しはじめ、互いにメッセージを補強し、送り合うことによって、ロシアの主張に信憑性を与えている。そして、西側諸国を挑発者、失策者、嘘つきと決めつけている。
こうした活動はアメリカ国内の分断を広げており、11月の中間選挙に影響を与える可能性がある。
フランスでは以前からコロナに関する陰謀論を560万人のフォロワーに拡散していた人気アーティストBoobaは話題をウクライナにシフトしてロシアを擁護している。フランスでは選挙が近いため、ルペン率いる国民党の大統領候補は、マカロンを追い落とすためにデマを利用している。
フランス、ドイツの極右政治家やインフルエンサー(その多くはコロナ規制に反対していた)は、NATOがロシアの侵略を扇動したとかウクライナ軍が無実の市民を攻撃したと主張し、スペインではコロナのフェイクニュースを拡散していたTelegramチャンネルが、ゼレンスキーが鉤十字の絵柄のTシャツを着ている写真を広めた。
ドイツでは、20万人以上が参加するTelegramチャンネルが、アメリカがウクライナに秘密の生物実験室を有しているというデマに飛びついた。
●CeMASの調査結果からわかるQAnonのドイツ、オーストリア浸透度
Center for Monitoring, Analysis and Strategy (CeMAS) は、「パンデミック時に影響力を持つようになった新しいオンラインアクターはすべて、親ロシアの立場になった」と語っている。「彼らは常に、エリートが国民に対して行っている大規模な陰謀に焦点を合わせています。ウクライナでは人々が苦しんでいる。それを彼らは否定しない。でも、それ以上に、非人道的な陰謀がある、と言うのです」。
CeMASの調査報告書The Spread of QAnon in the German-Speaking Worldによれば、QAnonそのものは知らなくてもその主張に部分的にでも同意している割合はドイツでは12.4%、オーストリアでは16.2%だった。ドイツとオーストリアでワクチン未接種の人のほぼ半数が、QAnonの陰謀論を少なくとも部分的に信じていることがわかった。ドイツの右派政党AfD(ロシアとの関係が指摘されている)の有権者の44%弱がQAnonの陰謀論に賛成している。QAnonの影響力の高さに驚く。
EU全域でロシアのプロパガンダメディアであるRTとスプートニクが禁止されたことが逆にこうしたグループに火をつけたとも考えられている。
日本では鳥海先生がデータを解析して、反ワクチンとネオナチデマの拡散の関係を調査した。日本でも起きているのだ。
紹介しているときりがないので、このへんでやめるが、日本も含め、こうした動きが活発になっているのは間違いなさそうだ。国際世論が、こうした動きに影響を受ける可能性は低いが(大手メディアや多くの著名人が同調しないため)、危惧するのは過激な運動に発展することだ。他の記事(https://note.com/ichi_twnovel/n/n36e987252529)にも書いたように、「暴力化」が進んでいる。世論が変わらない、反ロシアの政策が変わらないから力づくで変えさせるという発想にならないことを祈りたい。昨年、1月にはアメリカでそれが現実に暴動となってしまった。
なお、以前、欧米がロシアのネット世論操作に目を光らせているといったことを書いたが(https://note.com/ichi_twnovel/n/n9d5acca67108)、今回軽く調べてみて大量の情報が見つかったので、ほんとにみんな調べてるんだなあと改めて関心した。
関連書籍
『近未来戦の核心サイバー戦-情報大国ロシアの全貌 』(佐々木孝博、扶桑社、2021年10月22日)
『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(一田和樹、角川新書、2018年11月10日)
『新しい世界を生きるためのサイバー社会用語集』(一田和樹、原書房、2020年4月20日)
『最新! 世界の常識検定』(一田和樹、集英社、2021年11月19日)
出典
Anti-vax conspiracy groups lean into pro-Kremlin propaganda in Ukraine
https://www.politico.eu/article/antivax-conspiracy-lean-pro-kremlin-propaganda-ukraine/
Antivaxx and pro-Kremlin propaganda seem increasingly linked
https://www.zmescience.com/science/news-science/antivaxx-kremlin-propaganda-220232022/
ツイッター上でウクライナ政府をネオナチ政権だと拡散しているのは誰か
https://news.yahoo.co.jp/byline/toriumifujio/20220307-00285312