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フォーリンアフェアーズとワシントンポストが主流になったと報じたQAnonの現在 #非国家アクターメモ 1

これまでとは違った角度で非国家アクターについて調べて整理しようとしています。非国家アクターとして取り上げるのは、アメリカの反主流派(QAnon、RMVEs=Racially or Ethnically Motivated Violent Extremistsなど)、PMC=民間軍事会社などの予定です。長くなるので何回かに分けます。あくまで自分の作業のメモなので、乱雑かつそのまま信じない方がいいかもしれません、もちろん、引用しているのは信憑性のあるものばかりです。

●アメリカの政治に影響力を与えるQAnon

2022年に入り、Foreign Affairsに「How Extremism Went Mainstream Washington Needs a New Approach to Preventing Far-Right Violence」(2022年1月3日、https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2022-01-03/how-extremism-went-mainstream)が掲載され、Washington Postには「QAnon goes mainstream」(2022年4月5日、https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/04/05/qanon-goes-mainstream/)という記事が掲載された。
その前から多数の政治家がQAnonの主張に同調していることは指摘されており、2020年にはMedia MattersがQAnonの主張に同調する100名以上の政治家のリストを公開した(Here are the QAnon supporters running for Congress in 2020、2020年7月1日、https://www.mediamatters.org/qanon-conspiracy-theory/here-are-qanon-supporters-running-congress-2020)。なお、この記事は随時更新されており、執筆時点の最終更新は2022年9月30日で元議員の候補者107名、当選者2名となっている。
Media Matters(https://www.mediamatters.org/)は2004年に設立されたNPOで保守系のニュースをモニター、調査、検証している。

Foreign Affairsの記事は2020年の選挙がもたらした2つの重要な流れを指摘している。ひとつは、右翼の過激派が主流となったことで、多くのふつうのアメリカ人が1年以内に過激な思想を受け入れた。それは特定の思想や組織ではなく、共和党の議員、著名な保守派の論客、保守寄りの大手ニュース、新興インフルエンサー、マイナーな過激派、極右ニッチメディアなど多岐にわたる。
ふたつ目は、主流派になったことにともなうグループの乱立と、組織の再編成である。パンデミックによって、こうした活動は幅広くなった。QAnonや白人至上主義だけでなく、反ワクチン、リバタリアン、加速主義者(この場合はオルタナ右翼を指す)などである。
伝統的な過激派とは異なり、確たる統一したイデオロギーは共有されていない。そもそも明文化されたマニフェストよりもミームや断片的なプロパガンダが中心となっているため、個人がそれを好きなように組み合わせて受け入れることができるパッチワークのようなものになっている。そのため従来とは異なるアプローチを取る必要がある。

Washington Postの記事では、いくつかの象徴的な事例を挙げて、多くの政治家がQAnonが危険な思想であることを知っていながらも、批判して支持者を減らすよりは同調することを選ぶようになっているとしている。

トランプが所属する共和党員にQAnon支持者が多いことが知られているが、2022年=今年の中間選挙で民主党もメリーランド州でQAnon支持者の候補を強力にプッシュしはじめたIn Maryland, Democrats Traduce Democracy、2022年7月24日、https://www.wsj.com/articles/maryland-democrats-traduce-democracy-misinformation-social-media-election-trump-nomination-candidate-11658526033)

●QAnonは暴力集団でもある

START(National Consortium for the Study of Terrorism and Responses to Terrorism)のQAnon Crime Map(https://www.start.umd.edu/qanon-crime-maps)によれば、QAnonの犯罪は2019年10件、2020年31件、2021年50件と増加の一途をたどっている。もっとも多いのはアメリカだが、オランダ、カナダ、オーストラリアなど各国で発生しており、日本でも起きている。
また、Profiles of Individual Radicalization in the United States (PRIUS)(2021年2月、https://www.start.umd.edu/pubs/START_PIRUS_QAnon_Feb2021.pdf)によればQAnon信奉者の66.7%が1年以内に過激化している。
*STARTはアメリカ国土安全保障の科学技術理事会が支援するCoE(Centers of Excellence)の一部であり、その他の連邦機関などから支援を受けている。

少し前のデータになるが、2021年6月10日の戦略国際問題研究所(CSIS)の「Examining Extremism: QAnon」(https://www.csis.org/blogs/examining-extremism/examining-extremism-qanon)によると、2018年以降22件の暴力事件の関わっており、13件は私人、8件は政府機関、1件は宗教団体をターゲットにしていた。また、8件で銃器、6件で近接武器(ナイフなど)、4件で車両、2件で放火となっており(複数の武器を使用したケースもある)、3件では死者が出ている。9件はテロとみなされている。この数字を見る限りでは深刻な脅威というほどではないものの、多様な活動で国境を越えて広がっていることから今後安全保障上の脅威になり得る可能性があるとしている。

●影響力の拡大のプレイブック

SlateがFBIで長期にわたってテロ対策に従事してきた専門家にインタビューした記事「What ISIS Can Tell Us About QAnon」(2020年9月15日、https://slate.com/news-and-politics/2020/09/qanon-clint-watts-isis-comparisons-gist-transcript.html)が掲載している。
QAnonが広めていることにはさまざまなバリエーションがあるが、ほとんどのものは現実を異なる方法で解釈した内容であり、実現したい社会についての具体的なイメージを含まないことが多い。組織は広がり続けており、関心を持って主張に接しているが、行動には出ない層がもっとも多く、武器を取る層はもっとも少なく過激であるが、陰謀論の信奉者は「敵意と攻撃性」を増大させる傾向があり、「暴力が最終的な解決手段」という考えを助長する傾向がある。
特定のリーダーに縛られない活動であるため、容易に操作され、方向を変えられ、共闘させられることもある。ISISの場合は確たる目標を共有し、組織もあったのでだいぶ違う。

その一方で社会の分断や不安を利用して支持者を集める手法は多くの過激派と共通している。コロナ禍は過激派が勢力を広げる格好の機会となった。「QUANTIFYING THE Q CONSPIRACY: A Data-Driven Approach to Understanding the Threat Posed by QAnon」(Soufan Center、2021年4月21日、https://thesoufancenter.org/research/quantifying-the-q-conspiracy-a-data-driven-approach-to-understanding-the-threat-posed-by-qanon/)にはQAnonの用いた手法が紹介されている。ISISなどこれまで過激派が使ってきたプレイブックが生かされていると指摘している。
SNS上で「トロイの木馬」を利用して支持者を影響力を拡大する方法も共通していた。「トロイの木馬」とは、その時点で人気のあるSNSのハッシュタグに相乗りする方法である。反ワクチンといったハッシュタグを用いて、投稿することでより多くにリーチし、支持者を増やしていた。この手法はISISなどテロ手段が行っていたものと類似している。その時に合わせた「木馬」を使用するため、しばらく前アメリカでは「中絶」に関する「木馬」が使われていた。

最後に影響拡大を影で支援したのが、第三国からの拡散である。QAnonが勢力を拡大したコロナ禍の期間中、第三国が彼らの主張を拡散していた。もっとも活発だったのは中国で、次いでロシアとなる。この点については次回以降ご紹介する。

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