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ISDがイギリス国会議員のために共同制作した陰謀論ガイドと、ISDの陰謀論対策記事

ISDは2024年5月7日にイギリスの国会議員のために制作した国会議員と候補者のための陰謀論ガイド「CONSPIRACY THEORIES: A GUIDE FOR MEMBERS OF PARLIAMENT AND CANDIDATES」https://www.isdglobal.org/isd-in-the-news/isd-collaborates-on-conspiracy-theories-guide-for-mps-and-election-candidates/ )を公開した。
また、同日「Conspiracy theories matter, but not all are meaningful: A guide for analyzing risks to audiences」https://www.isdglobal.org/digital_dispatches/conspiracy-theories-matter-but-not-all-are-meaningful-a-guide-for-analyzing-risks-to-audiences/ )という記事を公開した。タイミングから考えると、前述の国会議員と候補者のための陰謀論ガイドの紹介のように思えるが、タイトルからわかるそうではない。今回はこの2つの概要と違いを紹介したい。

●「CONSPIRACY THEORIES: A GUIDE FOR MEMBERS OF PARLIAMENT AND CANDIDATES」の概要

この資料は32ページのものでコンパクトだがわかりやすいガイドになっている。全体は、エグゼクティブサマリー、序章、陰謀論の説明、陰謀論を信じる理由、民主主義の脅威になる理由、ケーススタディとなっている。
エグゼクティブサマリーでは、現在世界の多くの人々が陰謀論を信じるようになっていることを紹介する。イギリス国民の60%が少なくとも1つの陰謀論を信じアメリカでは13歳から17歳のほぼ半数が、4つ以上の陰謀説を信じており、ある陰謀論を信じることは、将来さらなる陰謀を信じるようになる可能性が高い、というショッキングな事実が紹介される。続いて社会のさまざまな側面に悪影響を与えることが説明されている。
陰謀論の説明では通常「敵」が存在するものが多く、個人的、国内的、国際的な不確実性や危機の際に広がりやすい。人々の既存の恐怖、不安を利用し、民族や宗教の少数派や移民など、社会の特定のグループに対する怒りを助長する。陰謀論は、金融危機、パンデミック、自然災害などの出来事を利用することが多い。また、過激派と結びついている。
陰謀論は、世界を善と悪に分けるシンプルで説得力のある物語で人々を取り込み、誤った情報や情報に基づいた考えを浸透させる。
陰謀論はあらゆる国に広がっており、政府、メディア、法制度、医療などへの信頼を毀損し、疑問を持たせる。民主主義には国民の信頼が必要であり、陰謀論はその信頼を壊すことで民主主義を衰退させる
陰謀論はネットや大衆を通じて広がるだけではなく、政治家が信じて発信することもある。影響力が大きい分、問題は深刻である。
そして、ケーススタディでは20の陰謀論を紹介している。

●「Conspiracy theories matter, but not all are meaningful: A guide for analyzing risks to audiences」の概要

「CONSPIRACY THEORIES: A GUIDE FOR MEMBERS OF PARLIAMENT AND CANDIDATES」が陰謀論入門とでも言うべき内容だったのに対して、こちらはある程度知っている人向けの記事のような感じで、陰謀論の識別の話しに焦点をあてている。識別とはなにかというと、危険で対処が必要な陰謀論と、そうではない陰謀論を見分けることである。急速に広まって世論に影響を与えたり、過激な活動が活発化するような陰謀論は要注意だ。識別することは重要であるが、残念ながらそのための方法論は確立されていない。この記事では現在わかっている範囲で有効と思える5つを紹介している。

1.問題ある人々の支持を集めているか?
ネット上での注目が大きくても脅威とならないものは多い、その一方で過激な一部の人々を活動に駆り立てるようなものは脅威となる。そのためその陰謀論がどのような層にリーチしているかを知ることが重要となる。

2.結果的に人々の正しい反応を妨げる可能性はあるか?
安全、健康、デジタルセキュリティ、民主的方法は陰謀論が生まれやすいテーマで、たとえ大規模な拡散でなくても人々の行動に悪影響を与える可能性がある。陰謀論の多数の発信でメディアがそちらに対応し、正確な情報の発信に割く時間が減ったり、多数の誤・偽情報・誤・偽情報で情報空間がオア線されることがある。

3.社会的、政治的に影響力あるグループが陰謀論に関与しているか?
メディアプラットフォーム、資金的支援を行うグループ、政治家などが直接、間接的関与している陰謀論は脅威になる。政治家が陰謀論を発言し、それがSNSで拡散される光景はよくあるが、それが陰謀論に力を与える。

4,陰謀論が暴力を誘発するなどリアルの被害につながる可能性は高いか?
特定の個人やグループをターゲットにした陰謀論はリアルの排斥運動、暴行に発展することがある。

5.陰謀論のターゲットになった人々は身を守る方法を持っているか?
著名人や政治家は身を守る方法を持っていることが多いが、そうではない人は多い。たとえばふつうに暮らしているLGBTQ+の人々はターゲットになりやすく、防御する方法もあまり持っていない。

この記事は陰謀論の脅威ををそれぞれの社会の文脈の中で評価し、対応を考える必要を紹介している。前述の国会議員向けのガイドに比べるとかなり絞り込んだ実践的な内容だ。

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