PCIO国際会議の記録 関係者が見過ごしている影響工作の課題
PCIOとはカーネギー国際平和基金のPartnership for Countering Influence Operationsの略称。読んで字の如く影響工作に対抗するための調査研究などのプロジェクトを推進している組織である。
少し前の2021年夏に非公開で世界各国から70名の専門家、SNS、研究者、メディアなどを集めた討論会が行われた。あらためて読み直すと、ここで指摘された課題はより深刻なものとなっているのがわかる。もっとも深刻なのはほとんどのデジタル影響工作関係者(特に)に認識されていないことである。2022年月にまとめたものが下記に公開されている。
●6つの課題
議論の内容は大きく6つに集約された。
1.グローバルサウスや少数民族の調査のための投資を増やす必要がある
たとえば北米の研究者からはスペイン語を話すコミュニティが「データの空白」となっており、そこではデジタル影響工作が容易に広まる懸念があると紹介された。
2.ラテンアメリカ、アフリカ、ヨーロッパでは重要なのは国内のアクターと考えているが、それ以外の地域および社会的な関心はロシアなど特定のアクターに向けられている
ほとんどの国で外国(特にロシア)の活動を過度に強調する傾向があった。国内からのデジタル影響工作の脅威の方が大きいにもかかわらず、そこには予算がつけられないため「フリーパス」状態となっている。
3.デジタル影響工作への投資はまだ足りておらず、SNSプラットフォームなどデータ開示も一部の国の特定の機関に留まっている
4.多くの調査が特定のプラットフォームと特定の国に限定されている一方で、実際の影響工作はプラットフォームと国境を越えて展開されている
北米と南米のスペイン語圏のコミュニティやブラジルで情報が早く伝播したり、アメリカの極右のナラティブがラテンアメリカ、カナダ、東欧に広がっている。しかし、こうした国境を越えた拡散の調査はあまり行われていない。
SNS以外のプラットフォーム(決済など)も含めた調査が必要になる。
5.WhatsApp、Telegramなどのメッセンジャーアプリはグローバルサウスでの利用が多いが、それ以外の地域にも広がっている
こうしたプライベートなツールを使ったアプリの調査方法は確立されていない。
6.営利を目的とした影響工作アクターのビジネスモデルや手法などが洗練され、多様化している
複数の地域でPR会社などの民間事業者がデジタル影響工作を請け負っていることが報告された。巧拙に差があるものの、ハイエンドでは現地人を雇ったり、地元にNPOを設立したりしている。
近年、ナノインフルエンサーの活用が進んでおり、デジタル影響工作が盛んなフィリピンでも、ナノインフルエンサーにシフトしている。アメリカでも同様の傾向が見られる。
クリックベイトもいまだに存在している。
●感想
2年前の議論だが、ほとんどの課題が解決されないどころか悪化している。日本でもすべて当てはまっている。
国内向けデジタル影響工作を脅威をなぜ軽視するのかわからない。そもそも現在のデジタル影響工作では相手国のアクターを暴れさせることが多いので、国内の状況を把握し、対処する体制がなければ海外からの干渉にも対抗できない。
ナノインフルエンサーやプラットフォームを越えた調査や対策にもまったく手が付けられていない。クロスプラットフォームでは決済プラットフォームがレポートであげられていたけど、アドテックやクラウドファンディングの方が深刻だと思う。
このnoteにも6つの課題に関連した記事をたくさん書いたけど反応ないですね。記事リンクつけようかと思ったけどやめた。
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