『オシント新時代 ルポ・情報戦争』は気になっていた毎日新聞の記事をまとめて読めて便利
毎日新聞取材班の『オシント新時代 ルポ・情報戦争』(2022年9月5日)を拝読した。ここ数日、非常に重い本を読み進めており、しんどくなってきたので息抜きに手にした。
本書は毎日新聞とニュースサイトに掲載した「オシント新時代 荒れる情報の海」に関連記事をくわえて構成している。
●本書の内容
本書(というか元となった記事)は基本的に取材などをまとめたものであり、情報の素材に近い。その真偽や有効性について、突っ込んだ検討をしているわけではないことを念頭において読んだ方がよいと思う。
ベリングキャットへの取材や、ワークショップに参加した感想や指導教官の会話から始まり、後はひたすら取材が続く。日本国内でSNSの定量分析を行っている企業や研究者、日本国内のインテルジェンス専門家、デジタル影響工作の関係者や研究者、中国政府が「隠れ株主」となっている会社を調査する会社、環境対策を行っていない企業を突き止めるサービス、サプライチェーンを解き明かし人権侵害や環境破壊にかかわる企業がまぎれこんでいないか調べる研究者、反ワクチンのSNS拡散を分析した研究者、QAnon、ディープフェイクなどなどと続き、最後は日本が周回遅れであるという話で終わる。
●感想
「オシント新時代 荒れる情報の海」や毎日新聞でいくつか気になる記事をたまに見かけていたので、まとめて読めたのはよかった。スクラップしないでも、まとめて取っておいて必要な時に確認できるので助かる。その分、新味はあまりなかったのは仕方がない。
まとめて読んでみて気がついたことがある。
・話題ものすごく広がっていていた
OSINTテーマの中にディープフェイクやグローバル企業の社会的責任、ロマンス詐欺や就職の際に採用担当者が応募者のSNSを調べることまで入っている。
・情報の検証不足
取材してまとめていることは問題ないのだけど、ほんとにこの取材先でいいの? 相手が言ったことをそのまま載せるだけでいいの? という箇所はたくさんあった。編集部で検証するなり、違う意見の人にも取材した方がよかったんじゃないだろうか? 読む人はうのみにしない方がいいということなのだけど。
・説明不足な箇所も多々
SNSの解析を行ったソラコムの記事は2度くらい読んで、本書にも収録されているのだけど、どのような方法でどれくらいの規模のサンプルを収集し、どのように解析したかが全く説明されていないので正直くもをつかむような話でしかない。
本書ではベリングキャットはハッキングしないと書いてあるけど、漏洩したデータを購入することはしている。その線引きがどこにあるのか知りたいんだけど、そういう具体的な話はない。
・とりあげる話題に偏り
具体的には日本のメディアでとりあげられたもの、話題になったもの、誰かから頼まれたものが中心のように見える。
たとえば偽情報やデジタル影響工作では個人ではベン・ニモ、組織ではベン・ニモが率いているMetaのチーム、デジタルフォレンジック・リサーチラボなど欠かせない人や組織がすっぽり抜けている。
というふうに書くとネガティブに見えてしまうかもしれないけど、ほんとうに新聞記事を探したり、スクラップするよりはずっと楽だし、まとめて読んで気がつくこともあるので、そういう意味ではすごく助かった。
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