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気になった論文や記事2024年3月29日

3月23日から3月29日の間で気になった論文や記事を簡単に紹介。なお、私が先週気づいたということであって、先週公開されたとは限りません。

●紹介していないけど気になった論考や記事

・政治的暴力の許容度についての調査研究

Polarization Research Labの公開した「Cross-national Support for Political Violence」https://polarizationresearchlab.org/2024/03/26/report-cross-national-comparisons-of-support-for-political-violence/ )は、ポーランド、ドイツ、ブラジル、イスラエル、インド、アメリカを対象に、政治的暴力の許容度を調査したレポート。対象とした政治的暴力は、暴行、放火、凶器を使用した襲撃、殺人の4種類。
その結果、インドは政治的暴力の許容度が高かった。アメリカ、ドイツ、ポーランドは類似の傾向を示しており、ブラジルは少し高めだった。イスラエルは政治的暴力にもっよも許容度が低かった。
支持政党による違いは、政治的暴力支持との相関関係はほとんど見られなかった。政治に対する不信感は、民主主義国全体で一貫してこのような暴力の肯定に結びついていた。
年齢や感情的分極化などと政治的暴力の許容度との関係も調べていて、興味深い。ただ、ドイツのAfD支持者の暴力肯定がもっとも低かったり、アメリカでは感情的分極化が中程度な回答者の暴力許容度がもっとも高いなど、解釈が難しい結果もあった。解釈が難しい結果ってたいていなにか要因を見落としているので、この調査はちょっと危ないかも。

・ブルガリアの親ロネットワーク、マッシュルームサイト

DFRLabは2024年3月26日に、「Suspicious Facebook assets amplify pro-Kremlin Bulgarian ‘mushroom’ websites」https://dfrlab.org/2024/03/26/suspicious-facebook-assets-bulgarian-mushroom-websites/ )を公開した。44のフェイスブックページ、30のグループ、28のアカウントなどで構成されていた。これらはブルガリア向けのウェブサイトのコンテンツを増幅していた。ウェブサイトは、次から次へと生えてくることから「マッシュルームサイト」と呼ばれている。
中心になっているのは、4〜5のサイトで、これらと同じコンテンツを持つサイトが数百存在している。35万以上の自動生成されたと思われるニュース記事を掲載している。
これらのサイトにはアドネットワークを介して多額の広告収入が流れ込んでいることが、下記の2つのレポートからわかる。

Defunding Disinformation in the Balkans: How International Brands Support Russia’s Agenda(CRTA(Center for Research, Transparency and Accountability)、2023年12月5日、 https://crta.rs/en/defunding-disinformation-in-the-balkans/

Мрежи за разпространение и монетизация на дезинформацията в България(CSD、2023年12月7日、 https://csd.bg/fileadmin/user_upload/events_library/files/2023_12/Prezentacija_Todor_Galev.pdf

以前、このnoteでも何度か触れたが、アドネットワークはデジタル影響工作の便利な資金源となっているだけでなく、白人至上主義や陰謀論にも資金を提供している。

ロシアの期待通りに反ウクライナのデマに広告を配信し続けているグーグルは情報公害企業
https://note.com/ichi_twnovel/n/nca51b00797bd

グーグルが広告料金で支援する陰謀論や差別主義者サイトとアメリカのメディアエコシステム
https://note.com/ichi_twnovel/n/n197db671b2a6

グーグルの広告ビジネスが世界を不安定にする
https://note.com/ichi_twnovel/n/nec79027bde0d

・社会から疎外されてきた人々はエセ科学にはまりやすい傾向があるという論文。

Missing Voices: Examining How Misinformation-Susceptible Individuals From Underrepresented Communities Engage, Perceive, and Combat Science Misinformation
https://doi.org/10.1177/10755470231217536

アメリカの黒人やラテン系を調査している。彼らがふつうのニュースよりSNSで情報を入手しているのは驚きに値しないが、気になることは複数の情報源に当たって確認することを実行していた。たとえばXで見た情報に疑問が浮かんだらグーグルで検索して調べるし、公的な情報源も知っていた。
ただし、問題は過去の差別的な扱いのために公的なものへの信頼感が低く、SNSの情報を打ち消すような効果は期待できないということだ。ファクトチェックについても同様で、なんのためにファクトチェックをやっているのかという懸念が浮かんでくる(個人的にはファクトチェックをそのまま信じる人よりはるかにまともに思える)。予防的に先に正しい情報を与えることは効果があったようだ。

日本でも同様の問題は起こっていると思う。人種だけではなく、同じ人種でも不可視化された層はこの調査での黒人と同じように公的な情報やファクトチェックに疑問を抱くだろう。

・ロシア、中国、イランは先日のモスクワでのテロについてのナラティブを拡散している

NewsGuardは2024年3月22日から3月26日までのロシア、中国、イランのプロパガンダメディアの記事150件
を特定した。

150 State-Sponsored Articles Blaming the West for the Moscow Terrorist Attack
https://www.newsguardtech.com/special-reports/150-state-sponsored-articles-blaming-the-west-for-the-moscow-terrorist-attack/

ロシアはウクライナを、イランは米国とイスラエルを、中国は米国の責任としている。ロシアがウクライナによるもので、ISが犯人というのは西側のデマと主張しているのは日本でも報道されている。
中露伊の連携は当たり前のように行われているが、その内容などはそれぞれの立場から微妙に異なることが今回も確認された。連携はあるが、同質ではないというのは以前のNATO STRATCOMのレポートと同じだ。

中露のデジタル影響工作連携を検証したNATO STRATCOMのレポート
https://note.com/ichi_twnovel/n/nba44a8da5fad

・一般社団法人セーファーインターネット協会の日本ファクトチェックセンターがシンポジウム「広がる偽情報にどう対抗するか -検証・教育・規制を考える-」を開催。

YouTubeでライブ配信も。シンポジウムの詳細はこちら( https://www.factcheckcenter.jp/info/info/sia-jfc/ )。
シンポジウムの目玉は、日本ファクトチェックセンターと国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)が行った調査結果の発表で、シンポジウムの後に公開される模様。
その一部は日本ファクトチェックセンター(JFC)に掲載されている。
【2024年4月1日修正】誤って「編集長の古田大輔のnoteに掲載」と記載していたのを修正しました・

誤った情報、5割超の人が「正しい」 2万人調査結果を公開へ 4月16日にシンポ
https://www.factcheckcenter.jp/explainer/others/jfc-20000research/

●3月23日から3月29日の必読記事

AI利用の自動採用システムが偏見と差別を露呈
https://note.com/ichi_twnovel/n/n171bb46ddc43

5年間ほとんど放置されていた情報戦兵器データ・ボイド脆弱性とはなにか? その1
https://note.com/ichi_twnovel/n/nf5e0789e96e1

実態編 データ・ボイド脆弱性とはなにか? その2
https://note.com/ichi_twnovel/n/n3523739724f1

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「フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器」(角川新書、2018年)https://amzn.to/3BQT2qD
この分野を腰を入れて調べるきっかけとなった1冊。すでに古くなっているが、いまだに下記を取り上げている日本語の資料はないので今でも参考になる。下記以外にも読み返しても、参考になることがあっておもしろい。
 ・デジタル影響工作とリアルの影響工作の連携。特にロシアがヨーロッパでなにをやっている。
 ・機能的識字能力の問題。字は読めても意味がわからない。特にXでの会話で顕著で、相手の発言の意味を理解できていない返信がよく見られる原因かも。


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