2024年Q2、Metaの脅威レポートを公開 ドッペルゲンガーはパーセプション・ハッキングだった!?
フェイスブック、インスタグラムなどを運営するMetaが最新の脅威レポート( https://transparency.meta.com/ja-jp/metasecurity/threat-reporting/ )を公開した。
●キイとなるポイント
ロシア(4つのテイクダウン)、ベトナム(1)、アメリカ(1)およびロシアのドッペルゲンガーにつおての最新情報が主たる内容となっている。
まず、冒頭でキイとなるポイントが提示されている。
・生成Aiの利用
ロシアの偽・誤情報キャンペーンで大手メディアに似せてAIが生成したニュースを大量に掲載するWebサイト作られたり、そのニュースリーダー動画がYouTubeに投稿されたりした。
ロシアの「ドッペルゲンガー」の生成AIの画像を利用している他、投稿の生成や翻訳にも利用している。
・もっともCIBを行っている国家
2017年以降、Metaがテイクダウンした世界的なCIBネットワークは、ロシアが第1位で39の影響工作を行っていた。次に多いのはイランで30、中国は11だった。
近年のロシアのデジタル影響工作は、ウクライナ戦に関するものが中心となっており、アメリカ大統領戦への干渉でもウクライナ支援の候補を攻撃すると予想されている。
ロシアは民間請負会社を活用している。ほとんどは大量の低品質な活動を行っており、ウクライナ戦でより需要が高まった。
・執拗な民間請負会社
2022年以降、民間請負会社はオーディエンス構築よりも、活動の維持に重点を置いており、テイクダウンされても繰り返し新しくWebサイトやSNSネットワークを構築する。Metaはクライアントであるロシアが依頼する限り、活動を続けるだろうとしている。
・検知されることに意味 パーセプション・ハッキング
近年の民間請負会社による作戦は、研究者やメディアに発見されることに意味があるかのように、派手に開始し、短期間でテイクダウンされることが多くなっている。パーセプション・ハッキングを狙っている可能性があり、選挙前の報道は慎重であることが重要と指摘している。
・ジャーナリストや著名人の利用
オペレーション・オーバーロード( https://note.com/ichi_twnovel/n/nedebd72a73bf )のような形でジャーナリストや著名人をターゲットを影響工作の拡散に利用するケースが目立ってきた。
●ロシア
4つの作戦がテイクダウンされた。
・グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンをターゲット
フェイスブック(76アカウント)、インスタグラム(30ページ、11アカウント)を削除した。グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンをターゲットにし、架空のニュースサイトを中心に展開された。Metaのサービスに加えて、YouTube 、Telegram、TikTokなどに広がっており、グルジア語、アルメニア語、アゼルバイジャン語、ロシア語で政治に関する情報を発信していた。
・英語とフランス語を使う世界中の利用者をターゲット
フェイスブック(20アカウント)、インスタグラム(14ページ、9アカウント)を削除した。主に英語とフランス語を使う世界中の利用者をターゲットにしていた。
架空のニュースサイトから大量の記事を配信していた。Metaのサービス、YouTube、Telegram、Xなどで相互にリンクして展開していた。
・ウクライナ、モルドバ、ヨーロッパに住むウクライナ人をターゲット
フェイスブック(43アカウント、85のページ)を削除した。主にウクライナ、モルドバ、ヨーロッパに住むウクライナ人をターゲットにしていた。
ウクライナを支持するふりをしながら、ウクライナを弱体化させる試みだったが、失敗に終わったようだ。
架空のニュースサイト、架空の市民団体のサイトを作って情報を発信していた。ニュースサイトでは、市民団体を本物の草の根活動として報道するなど、手の込んだことをしていた。
・ウクライナをターゲット
フェイスブック(12アカウント、32ページ、グループ5)、インスタグラム(3アカウント)を削除した。 主にウクライナを標的としていた。
2つのグループがあり、ひとつはスリランカのグループによるもので、ウクライナとポーランドをターゲットにしていた。もう1つはネパールのグループによって運営されており、EUと米国をターゲットにしていた。どちらも、ウクライナとその西側諸国での支持を弱めることを狙っていた。
Metaの調査でモスクワのニューズアグリゲータRuposters社の関与が確認された。
●ベトナム
フェイスブック(アカウント112、65ページ)、インスタグラム(49のアカウント)を削除した。主にレバノン、米国、英国、フランスをターゲットにして、カタール批判を中心にしていた。
Metaのサービス、YouTube、Telegram、Xなどで展開されていた。
4地域で展開されており、アメリカとイギリスに向けた英語のキャンペーン、フランス向けのフランス語のキャンペーン、レバノンをターゲットにしたフランス語とアラビア語のキャンペーン、サウジアラ ビアとカタールを標的にしたアラビア語のキャンペーンが行われていた。それぞれ異なる主張と異なる母体を騙っていたが、Metaの調査でベトナムの LT Media社の関与がわかった。
●アメリカ
フェイスブック(アカウント96、16ページ、12グループ)、インスタグラム(アカウント3)を削除した。アメリカ国内のオーディエンスをターゲットにしていた。
Patriots Run Project(PRP)は、アリゾナ、ミシガン、ネバ ダ、オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ノースカロライナといった州に支部があり、検知を回避し、信憑性を高めるため、州のスポーツチームやイベント、地元のレストランなどに関するローカルなコンテンツを投稿し、インターネット上の政治的ミームも投稿していた。
アメリカ国内に拠点を持つRT Groupに関係する個人が関与していた。
*なお、Metaは影響を及ぼす前に対処したとしているが、この点については対処が遅れたことを指摘するISDのレポート( https://www.isdglobal.org/digital_dispatches/patriots-run-project-network-exposes-metas-transparency-failures/ )が2024年6月に公開されており、Metaが1年以上放置していたことがわかっている。ISDはオーガニックリーチは限定的だったものの、増加傾向にあったとしている。
ISDによればPRPは、「反キリスト教的な共産主義左派にアメリカを売り渡そうとしている企業寄りのエリート主義政治家の一党」を阻止することに専念する「愛国者」のグループを代表していると主張していた。
●ドッペルゲンガーに関する最新情報
Metaは5月以降、ドッペルゲンガー関連の5,000以上のアカウントとページを検出し、削除した。
最近の傾向として下記をあげている。
1.政治色の薄いメディアまで広がった
2.リンクを共有する試みは一次停止されていたが、ふたたび始まった
3.検知を回避する方法をテストしている
4.汚染され、放置されたWebサイトやアカウントの再利用
また、ドッペルゲンガーはもっとも研究されている実際の偽・誤情報による影響よりも、低品質と高い被検知率でネット全体に広がっているという認識を植え付ける影響の方がはるかに多いとしている。
●注目すべき箇所
今回のMetaの脅威レポートでは、パーセプション・ハッキングがこれまでになく強調されていた。専門家や研究者は断言を避ける傾向があることを考慮すると、Metaはドッペルゲンガーおよび他のいくつかのロシアのデジタル影響工作がパーセプション・ハッキングを狙いとしたものだと判断したと言ってもよいだろう。高い被検知率をプラスにとらえていることからも、それは明らかだ。
これまでほとんどの関係者がパーセプション・ハッキングに注意を払っていない中、Metaは繰り返し、パーセプション・ハッキングを警告してきた。それが間違いではなかったことを自ら発見したのだろう。
私の個人的な憶測にすぎないが、2024年2月に暴かれた中国のPAPERWALLがロシアのドッペルゲンガーを模したものだった可能性が考えられる。また、この作戦の暴露や報道にはきわめて不自然な点があった。くわしくはこちら( https://note.com/ichi_twnovel/n/n3adc63d602f5 )。幸か不幸か、このニュースはNHK( https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240302/k10014375781000.html )や時事通信は取り上げたが、あまり大きな話題にはならなかったようだ。
中国のデジタル影響工作ではスパモフラージュが有名だが、こちらもドッペルゲンガー化する可能性もある。
好評発売中!
『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。
本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。